“幸”を測る
第1話 全てのハジマリ
約二年前。
首相官邸。
その日もいつも通り形式的な会議で終わるはずであった。
「そういえば、今回の内閣支持率を総理はご覧になりましたか?」
終わらせようと立ち上がった直後、何処かの大臣からそんな声があがる。
嗚呼、早速その話を出すのかと私は頭を抱える。
朝刊でも朝のニュースでも持ちきりだったし、ここへ来る前に記者に質問攻めにあっていたのだから、知らないわけが無い。
内閣支持率、前回比14%減。
それは私が指揮する内閣で過去最高に減少率が高い数字だ。
「あぁ、もちろん見たよ。過去最高の落ち込み具合だ」
私はうなだれる様に再び椅子へと腰掛ける。
「呑気にしている場合ではございませんよ、総理。何か手を打たねばなりません」
別の大臣からそういう提案が持ち上がる。何か手を打たねばならないのなら、先ほどの会議で提案すればいいものを、と悪態つくのをぐっとこらえる。
今回の内閣支持率の低下は、何も何処かの大臣が汚職をしただの、何か私自身に問題があった等の簡単なことではない。現状、クリーンそのものの内閣だと私は思っている。
しかし、この落ち幅の大きい理由。それは、
恐らく、国民たち自身に“何も起こってない”から彼らが支持をしていないのだ。
現段階で大きい条例等は制定していなく、ちまちまと小さいルールを議会で決めている途中である。
そんな現内閣に対する一種の飽きのようなものがきているのかもしれない。
「何か手を打たねばならないのは、重々承知なのだが、一体どうすればいいのか。何か皆さんから提案はありませんかね?」
私の一言に出席していた大臣は皆沈黙を貫く。やはり、誰もその現状を打開する策なんて持ち合わせてないらしい。
「あの……」
情報分野担当の大臣が手を上げた。
「幸福度を上げるようなシステムを構築するなんてどうでしょうか?」
「幸福度……?」
突然の提案に周囲がざわつき始める。手を上げた大臣はそんな中話を続けた。
「はい、この国の幸福度はどんどん低迷していっていますし、その幸福度を視覚化、上昇させるような国家作りが出来れば、支持率も上昇していくのではないかと」
なるほど、国民の幸福度を数値としてみることが出来れば実質この政治で満足されているかという指標にもなるわけか。
今の内閣の支持率は新聞社等が電話で無作為に選び、支持するかしないかを選択してもらう方式であり、全ての国民の支持を調べているわけではない。調べる回によっても結果に誤差はどうしても出てくる。
しかし、国家が国民全体の幸福度を数値としてあげていくのであれば、結果ごとの差異は生まれることは少なく、国家作りの指標にも大きく役に立つという訳だ。
「幸福度とはよく聞くが、どんなようなものなんだ?」
「世界幸福度の場合は人口当たりのGDP、社会的支援、健康寿命、人生選択の自由度、寛容さ、腐敗の認識等の観点から数値化され、ランキングされます。まぁ、このような細かいところまで毎回測定すると国民監視等の危険性もありますので、何かしら国民の幸福度が測れるようなシステムを構築し、国家作りのキーになるような情報を提言してくれるようなプログラムを作れればと」
情報担当の大臣の提言に私は大きな拍手を送った。
「素晴らしい。では、国民全体の幸福度測定をし、有益な国家作りが出来るようなプロジェクトをやってみようじゃないか。ひとまず、そのようなシステムを構築できる企業を公募で募集するところから始めよう。今日はこの辺りで解散」
私は意気揚々と席を立ち上がった。
これが、私の内閣の再起をかけた一手になる。
そう考えると心が躍るかのような気持ちであった。
――思い返すと、最悪な一手だったかもしれないことは、このときは知る由も無かった。
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