24.学園設立の秘密

 そんな中でもイルムとユリスは脳内での会話は止まらなかった。


「助け……くると思うか?」


「正直に言えば難しいでしょうね。魔力探知のこともあるけど、貴方の言う通り誰かが意図的にこの状況を引き起こしたならそう簡単に助けが来るとは思わないわ」


ユリスは小さく首を振ってそう答える。イルムは視界の端でそれを見ながらも中心に置かれた熱を発する魔力光をじっと見つめる。


「そうか。でも竜がいると言うことは地上に行ける道がどこかにあるはずなんだろうが、探すには竜が邪魔だしな」


「学園に飼育される竜じゃなく、悪感情の圧を与えてくる人に恨みを持った竜に話が通じるとは思えないわ。……それに貴方も私も、他の人も丸腰なのよね」


戦えと言われればイルムとユリスならばできる、と言える。武器があればの話だが。


「……貴方は誰の仕業だと?」


「分からん。……ただ、あの湖ゾーンの仕掛けは魔道具だ。あれを操作していた教師が怪しいだろうな。でもリアナを狙う輩が教師に混ざっているとは考えられないんだけどな。……あの理事長がそんなヘマを見せるとは思えない」


入学式当日に最初の邂逅で受けたあの威圧感にイルムはいいようのない恐怖と信頼を持っていた。


一週間学園に通う中、何人かの教師にあったが誰も彼も癖の強い人もいるがそれ以上に優秀な教師達しかいなかった。


教師の選別は理事長の特権の一つ。あの性格の悪い理事長が教師陣にリアナを狙う異端分子を雇うことなどありえないだろう。そんな確信にも似た何かをイルムは感じていた。


「なら……生徒に、まさに直近のこの中に。……一番あり得そうなのは上級生か、アリオス君ってところかしら」


「……アリオス、ね。よしっ」


イルムはユリスとの会話を打ち切る様に魔力光から目をそらし、立ち上がった。何事かとイルムを見上げる視線にぎょっとしながらも立てた親指を背後に差した。


「ちょっとお花摘みに行ってきます」


恥ずかしげもなくそう言ってのけたことで、彼等は何だというようにため息を吐いた。


そしてアーサーからのお許しの頷きを貰ったイルムはその場を後にし、魔力光が届かないところに行ってしまった。


ユリスはその様子に訝しむように見るが、次に起こったことにイルムの計略を理解した。


「すいません。僕も行ってきてもいいですか?」


「あ、あぁ。気をつけて」


そう言って手をあげたのはアリオスだった。彼はなにか緊張気味に頷くと小刻みに震える指先を隠す様に立ち上がった。


歩いて行った方向は先に言ったイルムとは逆の方向。一瞬アーサーは疑問に感じたが、先程のイルムとの険悪な様子で納得したのか特に何か言うことはなかった。


 ユリスはそんなアリオスの背中を見ながら、イルムに声をかけた。思惑通り動いたわよ、と。


返事はなかったが逆にそれがイルムの返事ともいえた。そっちのことはイルムに任せユリスは考えをめぐらす。


魔力探知のこともそうだが、意思伝達もまたこの洞窟外部にはつながらない。それはつまり、この洞窟内は何か強力な魔力防御結界が敷かれていると言ってもいい。


そんなものを誰かがバレずに張れるとは思わない。つまりこの結界も竜もすべて学園知るところということだろう。


 一人で考えてもらちが明かないと思ったユリスはリアナに目を向けた。


圧に慣れたのかリアナの顔色は綺麗な白い肌色に戻っていたこともあり話をする余裕はありそうに見えた。


「リアナさん、ちょっといい?」


「どうしたの?」


「この学園は王国によって作られたと聞いているけど、貴方の大叔父である学園長から何かこの洞窟こと聞いたことはないのかしら?」


リアナは少し考えるように魔力光を見つめると、何か思いついたように目を細めた。


「大叔父様からは聞いたことはないけど、昔王城の古書を読み漁っていた時にこの学園の作られた理由を見たことがあるの」


「作られた理由? 竜騎士育成じゃないの?」


リアナの呟きに困惑の声を発したのはフレアだった。


フレアは学園内にある書物を読み漁り、学園のことを調べたこともあったがそれ以外の理由は記されていなかった。


そのこともあり少し興味深そうにフレアは尋ねる。


「それも一つですけど。もう一つは封印の監視……と書いてありました。何をとは書かれていませんでしたが」


「封印……竜……学園の設立は百年前」


ユリスの頭である仮説が構築されていく。


学園設立の少し前はかの大英雄ブリューナクが竜に騎乗し戦い、そして大戦果を収めた時代。


学園設立は大英雄が病死した後、彼の後継を育てるために設立されたと言われている。


もしこの学園に隠された何かの封印というものがその大英雄の何か、またはその戦における重大な何か、なのだとするならば、洞窟の奥にいる竜たちはそれを守るためにいると考えられる。


ではその何かが何なのか。


 大英雄ブリューナクという存在はどこか空想上の人物のように統一された人物像が王国内に残っていない。


王国内で大英雄という存在は様々な人によって捻じ曲げられており、本当はどんな人だったのかということが全く分かっていないのだ。


しかし、二つだけ大英雄を表す代名詞のようなものある。一つはブリューナクが使っていた武器が純白の剣だったということ。


もう一つは彼のパートナーの竜は黒竜だということ。


黒き稲妻のようなに空を飛ぶ竜に騎乗し、その純白の剣ですべてを薙ぎ払った、それが唯一国内で統一された大英雄の伝説。


「ね、ねぇ、ユリスさん」


「……なに? ミラさん」


思考の渦にのまれている中、ユリスのすぐ隣から声がかかった。


ユリスは少し集中しすぎたのか、突然かけられた声にビクッと肩を震わせてミラをみた。


ミラは不思議そうにユリスを見たが、ユリスの耳音に口を近づけ、ちらちらと背後を見ながら口を開いた。


「イルム君、遅くないですか?」


確かに遅い。


しかしユリスはイルムがただのトイレに行ったわけではないことを知っており、あまり気にしていなかった。すでにイルムとアリオスがトイレに行ってから数分が経過していた。


ミラもそうだがナオやアーサーも少し心配しているように見える。だからユリスはここで安心させるような言葉を言わなければいけないと悟る。


「だいじょう––––」


ユリスが微笑んで安心させるようにミラに声をかけようとした瞬間、ユリスの声は絶望させるには十分なけたたましいその唸り声に打ち消されることになる。


「––––グアァァァァァァァァァ!!」


それはユリス達の竜たちのものではない竜の雄たけび。


深く、強く、重たいその今にも殺さんとするほどの殺気の含んだ竜の声が聞こえた瞬間、ユリス達の座る地面が、いやこの洞窟全体が揺れ動いた。


洞窟内で反響したその声に耳を塞いぎ、揺れる地面に体を屈めるユリス達だったが、その声が何を表すのかユリスだけではなくそこにいたすべての者が理解した。


自分たちは今ここで死ぬのだと––––。


「……先輩、どういうことよ」



あとがき


面白そうだと思ったら星レビュー、応援、フォロー、よろしくお願いします!!


あれですね、一日一回更新では星ももらえず、注目に入らない作品では人目につかないのでしょうね。pv数が三分の一とかになってましたよ。……。


まぁ、毎回更新する度に読みに来てくださるフォロワーさんもいますのでそれは嬉しいのですが。


というカクカクシカジカでなんとなく今日は二回目更新しました。


あ、カクコンランキングは異世界で絞ったら138位ぐらいでした。取り敢えず100位目指して毎日更新がんばります。


一位の人は九日であの星の量を貰っていて、えっぐ、とか思って作者さんのページに飛んだら、星10000の作品持った化け物でした。


総合一位の方なんてそこまで知名度もなかっただろうに最初から星のオンパレードで凄いなと思いました。


時間があれば見てみよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る