22.水も滴る良い女

 そこは大きな洞窟の中。広い天井の一部には大きな穴が空いており、それ以外の場所には滴り落ちる水が凍ってしまった氷柱が連なっている。


洞窟の一角には池のような水溜まりがあり、そしてそこには大きな岩の塊ががいくつも浮かんでいた。そして水溜まりの沖には七人の人が倒れていた。


 倒れているのは言うまでもない。突如として開かれた地獄の門に吸い込まれたイルム達だ。


そしてそんなイルム達の横に七体の竜が心配そうに小さな声で鳴いていた。彼等竜はその魔力を魔力光に変換し辺りを照らす。そしてその中のアイとイブは二人の女性の服を噛んで、揺らしていた。


「ん、んん……ゴホッゴホッ」


しかし、先に目を覚ましたのはイルムだった。飲み込んでしまった水を吐き出した彼は苦しそうに周りを見渡す。


「ここは……穴の下か?」


そうは言うもののイルムはここが湖の地下だとは少し疑問の残るところだった。


しかし、それよりも今はやるべきことがあった。


起きあがろうと力を入れるが、服は水を大量に含んでおり、とても動けたものではない。すぐそばにいたアイとイブの姿に少し安堵の息を吐くと、その足元にいるユリスとリアナに目を向けた。


「息はしてる。……人数は七人、竜も七体。あそこにいた全員が呑まれたのか。……お前達が俺達を水辺に送ってくれてのか」


イルムは感謝の念を込めて、側にいたアイの頭を撫でる。いつもならその顔面をぶっ叩かれる所だが、そんな余裕がないのかアイはイルムの手に縋るようにスリスリと近寄った。


「ナァァ」

「ん、ありがとな」


いつもよりも心細そうに聴こるその鳴き声にイルムは微笑む。


 しかし、すぐにその手を離しその一点を見つめる。水辺の奥、光もなく闇に包まれたその洞窟の先からは只ならぬ気配が複数を感じさせる。


洞窟の構造は水溜り、地面、そしてまたしても人が通れるほどの洞窟があり、まだその先がありそうだ。


気配が近づいてくることはないが、それでも油断はできない。何にしても倒れている人を起こさなければ。


「おい、おいユリス、起きろ」


「…………ん、せん、ぱい?」


「あぁ、起きろ。大変なことになった」


イルムがユリスの頬をペチペチと叩くと、彼女は朧げな意識を覚醒させる。しばらくボーとイルムを見ている。


次第に目をパッチリと開き、バッとイルムから体を抱くように距離をとった。


「変態」


「は? あ……」


イルムはユリスを訝しむようにみると、その姿を今一度確認すると気まずそうに目を背ける。


 竜騎士学園の制服はワイシャツを中に来て、それを指定の制服を着ている。


そうなってくると、今ずぶ濡れの状態での彼女の姿はとても目に毒だ。


水色の艶やかな髪からは水が滴り、同じように首筋から鎖骨にそして胸元に水滴が落ちていく。


水を含んだことで薄いワイシャツが透けており、中に着ている水色の下着がチラリと見え隠れする。


その様子は普段の刺々しいユリスとは違い、何処か大人な色気というよりは可憐さを感じさせる。


「ネイに言いつけるから」


「はぁ⁉︎ ちょ、それだけはやめてくれ! ネイに嫌われたら俺死んじゃうから!」


「うるさい。それより他の人を起こしなさい。女子は私が起こすから」


イルムの叫びを無視して、ユリスは背を向けて立ち上がるとまずはリアナの元に歩いていく。


落ち込んだように肩を落とすイルムは静かに男どもを起こしに行くのだった。



あとがき


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キリのいいところがなかったので、少し短くなりました。

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