7月30日


 生まれて初めてのカノジョと夏祭りにやってきた。

 打ち上げ花火が始まって、僕たちは会場から離れて、

 河川敷の土手に腰を掛けている。二人で、並んで。



「……花火、ココからだと遠いね」


「ええ、でも、あの人込みの中ではとても観る気になれないわ」


「それは同感。夏祭りなんて久しぶりに行ったけど、あんなに人が多いだなんて思わなかったよ」


「みんな暇なのかしら」


「僕らも、『みんな』に含まれるからね」


「おなかすいたわ」


「わたがしと焼きそばとかき氷とりんご飴とチョコバナナ食べたあとに、それ言う?」


「なんで夏祭りにはとんかつがないのかしら?」


「そのことを疑問に思うの、地球上でキミだけだと思うよ」


「ケーキが食べたいわ」


「キミの満腹中枢ってどうなってるの?」





「――ねぇ」


「……何?」


「どうして、僕のコトを好きになったの?」


「……えっ?」


「……いや、告白してくれる前まではさ、僕ら、お互いそんなに喋ったコトなかったじゃない。クラスが同じっていうだけで、部活動も委員会も違うワケだし」


「……」


「……」


「……そうね」


「……」


「……私にも、わからないわ」


「……えっ?」


「……最初は、男の子なのに前髪が長いな―って、それくらいの印象。……でも、気づいたらあなたのコト、目で追っていたの。教室であなたが喋っていると、その声が私の耳を支配してしまっていたの」


「……」


「……自分でも、どうかと思う、でも、理由なんてないの。……あるのかもしれないけど、言葉には、できないわ――」


「……」


「……」


「……そっか」


「……あなたは――」


「……えっ?」


「……あなたは、私の、どこを好きになってくれたのかしら?」


「……うーん、顔かな」


「帰るわ」


「ゴメン、冗談だって、……いや、顔赤いじゃん、ちょっと喜んでるじゃん」


「私の前世はリンゴ飴で――」


「――そういう、トコかな」


「……えっ?」


「……いやさ、ぶっちゃけて言うと僕も、『好き』って感覚、よくわかってないんだよね。……っていうか、ちゃんと理解できている人の方が、少ないんじゃないかなぁ」


「……」


「……ただね、キミに告白されて、付き合うようになって、少しずつお互いのコトを知るようになって――、僕はね、キミと過ごしているなんでもない時間……、冗談を言い合っている時、二人で黙ってあぜ道を歩いている時――、そんな他愛のない『時間』を、とても愛おしく感じているんだ。二人でいると、圧倒的に安心できるんだ」


「……」


「キミが悲しんでいるのなら、そばに居てあげたいと思うし、僕が風邪で熱を出したら、キミに看病して欲しい。……そんな風に思えるのは、キミだけだから。……だから、それって――」


「……」


「――それって、キミのこと、好きだからじゃないかな……、って」


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」



「――泣いてる?」


「…………泣いて、ないわ」


「……いや、涙出てるじゃん」


「……私は、夜の八時になると勝手に涙腺が緩んでしまう特殊体質なの」


「……そっか、ハンカチ貸そうか?」


「……それは、エッチな意味で――」


「――言ってないから」





 遠くで咲いた、光の花が、

 彼女の横顔を、淡く照らした。





 明日は、カノジョと付き合って三十一日目だ。


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