第4話 お姫様は全力で攫われたい。
「なかなかうまくはいかないものね…」
城の廊下を進みながら深々とため息を吐いたルエットの後ろをついて歩くキールダーも、同じように深々と息を吐く。
「勘弁してくれ、俺の首が飛ぶ…単純に死なせてくれないんだ殿下方は。陛下だって宰相だって将軍だってねちねちいびってくるに違いない。もう大人しくしていてくれ」
「だって、どうしても攫われたいんだもの!」
「あら、ルエット様は攫われたいのですか?」
振り向くと、黄色いドレスを纏った小柄な少女が立っていた。
同じ年のツイアリティ=バデロ伯爵令嬢だ。4番目の兄の婚約者候補のうちの一人で、有力候補とされている。可愛らしい顔をしているが、兄に溺愛されているルエットを嫌っている。だから、穏やかそうに声をかけてきても決して気を許してはいけない相手なのだが。
「そうなのよ、心当たりがあるのかしら?!」
「え、そんな嬉しそうに全力で乗っかってくる……? ちょっと待って、ええ、わかりました。数日お時間をくださいな。ご希望の者を用意いたしますわ」
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「うふふ、どう、キールダー。とうとう私の野望が叶う時が来たのよ」
「野望って…あんた一体攫われた後、どうするつもりなんだ?」
「楽しそうだな、ルエット」
不安げな顔をしたキールダーの後ろからやって来た男が穏やかに声をかけてきた。
「アジンスお兄様!」
「うん、どうした?」
穏やかに微笑むのは、王太子で長兄の王子だ。横についている侍従が、深々と頭を下げた。どこかへ移動する途中のようだ。相変わらず自由な時間は少なそうで、ルエットは思わず眉を寄せた。
「お忙しいのではありません? お疲れのようですわ」
「お前の顔を見ていれば疲れなんか吹き飛ぶさ。何かいいことがあったんだろう?」
「私の長年の夢が叶いそうなんですの!」
「そうか。それは良かったな。ちなみにどんな夢なんだ?」
「私を攫ってくれる者が現れたのですわ!」
「そうか、そうか……キールダー?」
「今ここで俺の名前を呼びます?! ですから、妄想で……ってわけでもないんだ……調べます!手を尽くして調べますから!!」
「手が足りないようなら黒の部隊を動かしていいぞ。陛下にも話は通しておくから」
黒の部隊は王と王太子のみ動かせる暗殺実行部隊だ。もちろん、ルエットが知る由もない。
「え、陛下ですか?! いや、それは不味い……全力で取り組まさせていただく所存です!」
「しかと聞いたぞ。ルエット、今日は夕飯を一緒に食べよう。サリーナも会いたいと話していたからな。この前の夜会では離れていて会話も難しかったと残念がっていた」
「はい。楽しみにしておりますわ」
満足げに頷いたアジンスは、そのまま侍従を連れて足早に去っていった。
「うーん、大事になった……はぁ、俺の命(胃)は持つのだろうか」
「どうしたの、キールダー。そんなに疲れた顔をして。主の喜びは護衛騎士の喜びでしょう?」
「馬鹿なこと言うな。主の酔狂に振り回されて気苦労が絶えないんだからなっ」
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