二章 現在である過去のこと


「あ、やっぱりいた! まーたケイは紙本ペーパーブックなんて読んでる」


 年代物の木製机ウッドデスクに、気鳴楽器オカリナの声が弾んだ。

 活字から顔を上げると、窓から差し込む日差しの中、腰に手を当てたニルヤの呆れ顔がある。


「本社に来るとすぐこれなんだから。ねえそれ、疲れない? テキストならIRで読んだ方がぜったい楽なのに」

「僕はこっちの方が好きなんだよ。ここだと、なんとなくそれらしいし」


 前世紀初頭にあった紙媒体ペーパーベース図書館ライブラリを模したこの資料室は、雰囲気があって好きだった。本棚に並ぶ紙本には単なる内装以上のこだわりが感じられる。物好きは僕だけじゃないのだろう。


「ふうん。まあ私も、ここはけっこう好きだけど」

「ところで、なにか僕に用でもあったの?」

「あ! そうだケイ、これから誰が来ても私はここにいないって言」


 ニルヤの声は最後まで聞き取れなかった。『隊長ーゥ!』という大声と共に資料室のドアが開き、三人の人間が僕らを認めるやいなや殺到してきたからだ。


「うへぇ」

「うへぇじゃないッスよ隊長! ほら早く! パーティ用の支払い端末返してくださいよ! 今回の遊び代もとい福利厚生費はもう支給されたんでしょ」

「キィル、少し静かにしろ」

「周りの、迷惑」


 カイロウとマナが苦々しげに言う。二人の言うとおり、僕たちは資料室にいる人たちの注目を集めてしまっているようだった。

 ニルヤが顔をしかめて唸る。


「んんんー、やだ!」

「なんでッスか!? クエスト達成おめでとう会幹事はオレッスよ、オレが預からないと」

「キィルくんはクビ」

「なんでッ!?」


 チッチッ、とニルヤは人差し指を振ってみせる。


「だってキィルくん、また酒精飲料アルコールドラッグいっぱい買う気でしょ? だめだよマナちゃんとケイはまだ飲めないんだから」

「ちょっとくらいいーじゃないッスか! 余ったらオレが責任もって処分するし」

「どうせ女を誘うとき用に取っておきたいだけだろう。やはりキィルではダメだな。隊長、幹事は俺がもう一度やろう」

「カイロウくんもだめ」

「なぜだ!?」


 今度はニルヤではなく、マナがカイロウを見上げて言う。


「もう山には、登りたくない」

「なっ、よかったではないか、山! 俺一押しの秘境絶景スポットでのおめでとう会は最高だっただろう!」

「たしかに眺めは異様によかったけど、疲れすぎたよね。行きも帰りも」

「遭難、しかけた」

「オレたちが遭難しかけるっておかしいからな、カイっち」

「鍛錬にもなるというのに……」

「やっぱり、わたしがやる」


 マナが無表情のまま言う。


「央都でおいしいお店で、また一室借りる。普通が一番」

「マナぽん、前回それで予算オーバーしてなかったっけ?」

「……少しだけ。あれはしかたないことだった」


 僕は苦笑する。


「そう? あんなにデザートのオプションつけてもらう必要あったかな」

「オレ、最後の方は生クリームじゃなくて自分との戦いだったぜ」

「マナはキィルの一・二五倍は食べていた気がするが」


 マナが微かに顔を赤くする。


「あそこは、甘味の老舗だったから……もう、なら、こんどはケイがやればいい」

「え、僕?」

「確かに、それが一番無難かもな」

「ケイちゃんアルコールも頼むぜ」


 急で驚いたが、別に嫌でもない。いいよ、と了承しかける僕。しかしそれを遮る声。


「だめだめ! 今回は私がやるの」

「ニルヤが?」

「隊長?」「ええ」「大丈夫かよ……」

「なんなのその反応はっ」


 ニルヤが怒り出す。


「隊長は、そういったことが苦手だろう」

「そういったことっつーか、クエスト以外のことはほぼだいたいっつーか」

「ちょっと抜けたところがある……あ、いい意味で」

「ふ、ふふふ……あー聞こえませーん! ていうかもう遅いもん、なにを言われようが私で決定! だって福利厚生費も使っちゃったし」

「はあ!? なんスかそれぇ! いったい何に?」

「これ」


 ニルヤはそう言って、傍らにあった巨大なリュックを持ち上げて見せた。いかにも重そうだ。


「なにが入ってるんだ、それは?」

「食べ物とか、飲み物とか、あといろいろね。あ、そうだ。せっかくだしもうこれからやるから、おめでとう会。みんな空いてるよね?」

「大丈夫、だけど……どこでやるの?」

「ふふふ。じゃあ、みんなついて来て」


 そう言うと、ニルヤはリュックを背負い、なぜか資料室の奥に向かって歩き出した。

 僕らは顔を見合わせて、とりあえず言われたとおりについて行く。


「ここを登ります」


 と、ニルヤが指さしたのは資料室の最奥に鎮座している巨大な本棚だった。

 高さは僕の身長の倍ではきかない。


「山を登るより大変ではないか? 色々な意味で」

「見つかったらきっと怒られるから、みんな、静かにね」


 どうするのだろう、と疑問に思う間もなく、ニルヤは隣の本棚も使って三角跳びの要領で上に乗ってしまった。でかいリュックも背中にあったのに、ほとんど無音。えぇ、マジか。

 仕方ない、とカイロウが呟き、垂直跳びで本棚の天板に手をかけた。そのままよじ登ってしまう。ナノマシン侵襲度の高い前衛二人は身体能力が異常だ。

 キィルとマナは、ごく常識的に棚板に手をかけて登り始めた。静かに、と言われると、後衛や補助役はこうするしかない。僕も二人の後ろから続く。


「ケイ、はやく」


 顔を上げると、開け放たれた窓の光を背にしたニルヤの姿。

 僕に、手を伸ばしている。

 僕はその手を取った。

 本棚の上には、なぜかニルヤしかいない。


「みんなは?」

「こっちだよ」


 そう言って、ニルヤは明るい窓の外へと身を躍らせた。

 僕は驚く。ここは、地上三十二階だからだ。

 窓の外には、空。

 僕は窓枠に手をかける。

 この先がどこかなんて、どうでもよかった。

 ニルヤが――みんなが待っているのなら。


 風、浮遊感。

 そして、僕の足は硬い地面を踏みつけた。


「ケイ、どう? ここすごいでしょ!」


 顔を上げると、ニルヤがいた。

 三人もいる。みんな景色を眺めながらぽかんとしていた。


 そこは、バルコニーのような場所だった。

 資料室と似た雰囲気の、木の床と骨董風の柵。隅には木製のベンチもある。なにかのためのスペースに見えるが、使われている様子はなかった。振り返ると、ドアがある。だけどその位置は、おそらくさっきの本棚がある場所だった。


「ここは?」

「バルコニーになるはずだった場所、かな? たぶん、本棚を置く場所の都合とかで出入り口が塞がれちゃったんだと思う。どうせ使う人も少なそうだしね」

「本社ビルにこんな場所があったのか」

「えへへ、すごいでしょ! プリントにここの空撮写真見せてもらってね、それで見つけたんだ」


 へぇ、と僕は呟いて、外に広がる風景に目をやる。

 タワービルの明るい摩天楼に、所々埋もれる積層ドーム。高架高速ハイウェイ下の緑化公園には、サクラの花が咲いているようだった。


「はいっ、みんなここで拍手ー」


 パチパチパチ、とニルヤが手を叩く。

 僕らはわけがわからないながらも、とりあえず合わせて拍手する。


「今日はなんとっ、ケイが来てからちょうど一年の日なのです」

「えっ」

「マジで?」

「もうそんなに経つか」


 言われて、思い出す。

 そうだ、あのときもたしか、サクラが咲いていたっけ。

 どすん、と、ニルヤがリュックを下ろす音。


「だから、今日はその記念日おめでとう会も一緒にやるの。いいでしょ?」

「えっ……」


 うれしさよりも、気後れが先に来た。

 僕のことで、こんなにしてくれなくても――。


「そんな、僕……」

「フゥゥゥゥーーーーーーー!!」


 甲高い歓声を上げたのはキィルだった。


「おっしゃー今日は盛り上がるぜ! まだ昼だけどな! 隊長アルコールはっ?」

「あるよ。ちょっとね、ちょっと。今シート広げるから」

「その前に、ここ、掃除したい。清掃ドローンが入ってこないせいで、埃っぽい、から。……隊長、お菓子はある?」

「あるよ。いっぱいね!」

「周辺清掃用のレシピはあるが、あいにく今ストリングがいないな」

「カイっちなんでそんなの持ってんの? オレのライトラインに渡せるか?」


 わいわいと騒ぎ出すみんな。

 それを見ながら、僕は心中に言葉にできない感情が広がっていくのを感じる。


「ケイ、その、迷惑じゃなかった、よね」


 気がつくと、ニルヤが傍にいた。


「ケイは本社の資料室が好きだったから、ここを見つけたとき、雰囲気も似てるし、ぜったいみんなでなにかしよう、って思って……ケイはあんまり、騒がしいの好きじゃないかも、って思ったけど、やっぱり喜ぶかな、って」


 珍しくしおらしげなニルヤに、僕は思わず笑ってしまった。

 ニルヤも、こんな風に考えることがあるのか。


「ありがとう、ニルヤ――――」


 うれしいよ。

 最後の一言は、言葉にできた感覚がなかった。

 間違いなくうれしかった。

 でも、僕にそれを受け入れる資格はない。

 僕はここにいて、ここにいなかった。

 僕は、みんなは、だって――――。



 ◆ ◆ ◆



 意識が形を成していく。

 懐かしい夢を見ていた、気がする。

 いい夢だったと思うけど、なぜか心に残る感情は湿って重い。


 瞼の向こうは明るかった。いま、何時だろう。ぼんやりとしたままIMを展開し、時刻を確認する。ゼロが並んでいた。おかしい。同期ずれか?

 明瞭になっていく思考が、記憶を辿っていく。僕は飛び起きた。


 アンティーク調の室内が、視界に入る。

 石材か煉瓦でできた壁に、モザイクタイルの床。建材には詳しくないが、きっと断熱性も気密性も乏しいに違いない。寝台は妙に高反発というか硬い。シーツは、これはもしかすると天然繊維製かもしれない。


 しばらく呆けていた僕は、はっとした。

 ここはどこだ?


「――お目覚めになりましたか、魔術師さま?」


 横手からの声。

 それは、ひどく聞き覚えのある声音で、僕は弾かれたように振り向く。


「ニルっ……ヤ……?」


 高い窓から差す光の中、一人の少女が佇んでいた。

 これまで見たこともないくらい、それはきれいな女の子だった。

 憂いを帯びた表情を作る整った目鼻立ちは、高名な素体造形師ドールメイカー遺伝子意匠家ジーンデザイナーが設計したと言われても違和感がない。しかし、そのなだらかな頬も、青緑柱石アクアマリンのような瞳も、硝子繊維のような銀色の髪すら、どこか人間的で、アンドロイドやハイデザインドチャイルドにはない、自然な美しさがあった。


 見覚えはない。


 少女は心配そうに口を開く。


「まだ無理をなさらないでください、ひどい怪我でしたので。気分は悪くありませんか?」

「え? ああ、はい」

「そうですか、よかった!」


 少女は寝台へすり寄ると、僕の手を取った。

 そして、潤んだ瞳で見つめてくる。


「安心しました。魔術師さまが、もしこのまま目覚めなければどうしようかと。この感謝の気持ちを、どうお伝えすればよいのかと」


 いきなり距離が近くて、思わず仰け反る。同時に、奇妙な感覚に陥った。声がとてもニルヤに似ていて、初対面のはずなのに気安い間柄のように錯覚しそうになる。そしてこの状況。鼓動が早くなるのを感じつつも、僕は自分に言い聞かせる。


 骨格が似ていると声も似るという。背格好が近いし、少しだけど、面立ちも重なるところがある。別に不思議ではない。ただの偶然だ。

 ニルヤは、もういないんだから。


 急に思考が冷めた気がした。

 僕は少女に目をやりながら通信を開く。


《エコー、いるか》

《被探知を避けるため、建造物内外に希薄化中。通常機能に必要な密度は維持している》


 僕は少しほっとする。

 また起動停止していたらどうしようかと思った。


《今これは、僕はどういう状況なんだ》

《十代半ばから後半と見られる女性に手を握られている》

《おいふざけるな。僕が気を失ってからどうなったか時系列順に説明しろ。簡潔にだ》


 エコーは僅かな遅延の後、淡々とした圧縮思考を送ってきた。


《戦闘終了後意識を失ったケイ主任は、友好的意思を持つと推測される者数名に発見され、負傷の手当を受けた。この建造物に運び込まれ、約二十六時間四十八分が経過したところである》

《助けられて……丸一日以上寝てたのか。怪我はどうなってる》

《治癒率六十八・七五パーセント。外的な処置として、物理的な止血が施されている。残りはナノマシンによる治療のみで完治可能》


 左足を動かすと、僅かな痛みと共に違和感。手を伸ばして左足に触れると、なにか固いものに当たった。


《なんだこれ》

《原始的な圧迫止血術と推測。低効率、感染症リスク、患部周辺組織の損傷可能性等の問題がある手段だが、概ね目的は達成される》


 思わず顔をしかめる。本当に大丈夫なのか、これ?

 マナがいたらこんな怪我、一分以内に治してくれたのに。

 まあいい、と僕は気を取り直す。ほっといても完治するようだし。


「あの」僕は少女へと声をかける。「ここは?」


 少女は穏やかな笑みと共に答える。


「ここは都市クルーストの市長用公邸です。と言っても今、市長は住んでいませんが」

「今はいつ?」

「今日は建国より二百八十一年目の翡翠月、十日です。魔術師さまは、丸一日眠っていたのですよ」

「そうか……」


 僕は考え込むふりをする。


《エコー》

《内蔵辞書にある『都市国家ケルスティア』の項目に、国名の由来はかつてその地に存在した山岳都市、クルーストであるとの記述がある。翡翠月はメルジウス歴、通称魔王歴における五月》

《……ここは……やっぱり本当に、旧世界なのか? 酔狂な都市国家が作った、手の込んだテーマパークだって言われた方がよほど信じられるんだけど》

《その可能性は、当機種の観測結果により否定される。昨夜見られた天体の運行は、現代におけるどの地点のものとも合致しない。シミュレーションの結果、カーキシー大陸南東部における約一万から一万四百年前の星空が、これと概ね合致することが判明した。ケイ主任、我々は――》


 実のところ、改めて言われるまでもなかった。

 これは、間違いなく現実なのだから。



《確実に、旧世界の時代にいる》



 ◆ ◆ ◆



《……タイムスリップ、ってやつか》

《正確には異なる。現代では過去の世界などというものは存在せず、したがって創作作品で語られるようなタイムスリップは不可能という説が一般である》

《え、そうなのか? でも前に何度か、どこかの企業とか研究機関が過去に観測機を送るプロジェクトとかやってなかったっけ》

《厳密には、過去に類似した隣接世界である。ケイ主任の言うプロジェクトは、複数の隣接世界が類似した未来に収斂するというコールマン仮説に基づき行われたものであるが、どれも科学的根拠に欠き、ラフラフ・トイズ社などは出資者より提訴されている。観測機の回収は、未だ一機もなされていない》


 量子物理学はよくわからないが、つまりここは過去に似た隣接世界で、僕は二度と帰れない観測機になってしまった、ということだろうか。

 そんな感じで理解しても、さほど現代は恋しくならなかった。きっと、僕にとってはその程度のものだったのだ。

 みんなのことと同じように。


 僕は考えるふりをやめて目線を上げる。

 と、少女は待っていたかのような笑みを浮かべた。


「お腹が減ってはいませんか? 必要な物があればなんでも手配させましょう、魔術師さま」

「それなら……僕の疑問に答えてくれるとうれしいな」


 今必要な物は、なにより情報だ。


「まず、僕を拘束しなくていいの? 君たちにとっては、物騒な魔法を使う得体の知れない人間だと思うけど。怪我だって動けないほどじゃない」

「おっしゃりたいことはわかります。ですが、『勇者』を倒し我々を救ってくださった恩人に対し、そのような仕打ちをするほど、我々は恥知らずではありませんよ。安心してください」

「それなら助かる。それと……君って、もしかして偉い人?」

「はい?」


 少女はぽかんとした表情を浮かべた。

 僕は少し焦り、言い訳のように続ける。


「手配させましょう、って言ってたから……違ったかな。よければ、君の立場を教えてほしい」

「私のことを、ご存じではなかったのですか?」


 今度は僕がぽかんとする番だった。次いで、微かに焦りがこみ上げる。知っていないといけなかったのか? でも、どういう理由で――。


「ごめん、わからない。僕は、その……遠くから来たから」


 少女は不思議そうな顔をしていたが、やがてにっこり笑う。


「いえ、構いません。こちらこそ、ずいぶん申し遅れてしまいました」


 少女はすっと立ち上がると、スカートの裾をつまみ、そして、優雅に一礼する。


「私はシーズニア・エル・メルジウス。ここマグナメルジア魔族連合王国十三代目の君主、当代の魔王です」



 ◆ ◆ ◆



 魔王。

 マグナ・メルジアの魔王。

 かつて魔族と呼称されていた類人種の諸部族を束ね、人類国家への侵攻を繰り返してきた専制者。創作物の中では限りないほど語られてきた、人間世界最大の敵。


「ま、魔王? 魔王? 君が?」

「ええ」

「いや、その……ほんとに?」

「影武者を疑われているのですね。無理もありません」

「というより、単純に信じられない。だって」


 僕はこめかみを押さえる。


「君みたいな女の子が魔王って、嘘だろ?」


 創作作品は別として、少なくとも脳記述された史実では、成人男性以外の魔王なんていなかったはずだ。

 シーズニアは不思議そうな表情で訊ねる。


「魔術師さまは、魔王の再臨をご存じなかったのですか?」

「なんだって?」

「我が国が二年前に共和制を廃し、王政復古がなされたことです」

「共和制だった? マグナ・メルジア魔王国が?」


 そんなの聞いたこともない。

 というかよくよく考えると、脳記述された歴史には十一代目魔王までしか出てきていない。

 旧世界の記録が刻まれた蒼文石碑ラズリスは、未発見のものが存在すると言われている。とすると今は、現代で知られているよりも後の時代なのか。


 いずれにせよ。僕は体をずらし、シーズニアの方へと向き直った。咳払いをし、メルズ語における敬語表現を記述記憶から引っ張り出す。


「これは……大変失礼いたしました、陛下。この身は一介の民に過ぎぬゆえ、政にも疎く、陛下のご尊顔も初めて拝しました次第で。数々の無礼、何卒ご容赦いただきたく……」

「やめてください、魔術師さま。私に対し、そのような態度は不要です」


 僕の言葉に打たれたように、少女は悲しそうに目を伏せる。


「どうかこれまで通りに」

「いえ、しかしながら……」

「私がそうして欲しいのです、魔術師さま。私のことは、どうかシーズニアと」

「……そうですか、わかりまし……わかっ、たよ、シーズニア」


 僕が呼び方を改めると、シーズニアは幸せそうな笑顔を浮かべる。

 王という割には、シーズニアは奇妙なほど腰が低い。僕のような人間の下に一人で訪れるという軽率さも不自然だ。だから、逆説的に本物っぽかった。騙りならこうは振る舞えないだろうから。

 それに記憶を辿れば、広場で気を失う寸前、ニルヤに似た声の少女が魔王と呼ばれていた気もする。


「魔術師さまのお名前は、なんとおっしゃるのですか?」

「僕は、サリハ・ケイ」

「サリ、ハ」

「ケイでいいよ。苗字はあんまり好きじゃないから」

「ケイ。ケイ、ですね」


 シーズニアは少しだけ弾んだ調子で繰り返した。

 そして、はにかんだような控えめな声で続ける。


「ケイのこと、よろしければもっと教えてくださいませんか? どんな地方から、なぜこの街に来られたのでしょう。どうしてそんなにお強いのですか? それに、あの特異な使役獣のことも」

「使役獣?」

「ケイは『勇者』との戦いで、微細な雲霞のような魔獣を従えていたと聞いています。それによって魔法陣を描かせていたとも」


 エコーのことだろう。あの場を見ていた人間がいたのか。


「ケイをお連れしたときには、すでに姿が見えなくなっていましたが……必要なら、この場に呼んでくださっても構いませんよ。私も見てみたく思います」


 屈託なさそうに言うシーズニア。しかし、僕は反射的に断る。


「ごめん、それは難しいな。あれは今、近くにいない」


 見せたとして、なんと説明していいのかわからない。エコーはこの世界では確実に理解不能なものだ。とりあえず、ここは誤魔化しておく。


「そうですか? でも……先ほどもお話しになっていましたよね」


 だが、シーズニアは僕の目をまっすぐに見つめながらそんなことを返してきた。


「……先ほど、って?」

「目覚めてから、何度か」

「……僕、なにか喋ってたかな」


 自分で言って否定する。あのときのやりとりは全て圧縮思考通信によるものだ。性質上情報の収受は数ミリ秒で済むから、沈黙も不自然なほどではなかったはず、だが。


「いえ。ですが、なにやらどなたかの言葉を聞いている様子でしたので」

 シーズニアはにこやかに答える。


「魔術師の中には、人ならざる存在と声なき声で会話する者もいると聞きます。凍月の『勇者』を倒すほどの方ならば、きっとそのようなことも可能だろうと」


 僕は沈黙する。ちらと、シーズニアを見た。年も僕と変わらない位の、魔王を名乗る少女を。


《どう思う?》

《ケイ主任に判断を委ねる》


 僕はあっさり決断した。

 どのみち展開が予想できない以上、嘘をつくのもリスクがある。


《エコー、自己紹介だ。顧客カスタマーにするみたいな感じで》


 エコーの解放音声をオンに。

 同時に各ナノ砂へ集合命令をかける。


「わかった。それなら今呼ぶよ」


 扉の隙間や窓の外から、希薄化していたエコーが凝集していく。ナノ砂の流れが空気分子を巻き込み、部屋に風が吹いた。

 あっという間に球形態へと変化したエコーが、知性を示すように各色の光を明滅させる。滑らかな合成音声が流れ出す。


「ようこそ。当機種はエコー・コンダクターRDX7、制御人工意識オペレーション・アーティフィシャル・コンシャスネスはエコーである。当機種は新形式と呼ばれる第六世代型圧縮思考通信に対応。さらに六十四の内蔵魔法陣、百二十八の計算処理系オプションから任意のものを選んで追加することができる。必ずや、すばらしい使用感を約束しよう。宣伝プロモーション映像を視聴する場合はこちら」


 エコーがもやもやとした光と共に、再生開始ボタンのホログラム映像を投射する。

 シーズニアは一連の流れを、呆気にとられたように見ていた。ボタンを指さす。


「これに触れればよいのでしょうか?」

「いや……やめた方がいいよ、それ長いから」


 メルズ語版はないだろうし。というかエコーも、もうちょっとなんとかならなかったのかよ。宣伝だこれ。

 少女はゆっくりとエコーに歩み寄り、その外殻にそっと指を触れる。


「アストラル系の魔獣かと思いましたが、実体があるのですね。エコー、というのですか」

イエス

「珍しい魔獣……いえ、魔獣ではないようですね。これは……」


 じっとエコーを見つめていたシーズニアだったが、やがて僕へと振り返る。


「ケイ、エコーとはどのようにして……いえ、あなたは、どこから来たのでしょう?」


 シーズニアの笑みからは、今ひとつ内心が窺えない。

 僕は顔をしかめ、口を開いた。エコーを明かした以上話すことに異存はない。ただ、どうにもうさんくさい言い方になってしまうのが嫌だった。


「僕は、一万年後の未来から来た」



 ◆ ◆ ◆



「とても信じられません……一万年後、だなんて」


 短い沈黙の後に、シーズニアはそう呟いた。

 無理もない。未来から来た人間。それも百年や千年でなく、一万年後。荒唐無稽に過ぎる。


「なにか証明できるものなどは……?」

「エコーや、僕の持っていた剣や服が、この時代にありふれた物でないことはわかってもらえると思う。でも証明は難しいな。信じてもらうしかない」

「それでは、いくつかお訊きしても? 未来のことを」


 僕は頷く。しかし、どれほど意味があるのか疑問だった。未来のことなど誰にもわからない。適当に話したところで、真偽なんて確認のしようがない。


 シーズニアは、先ほどまでとは打って変わって真剣な表情をしていた。


「我が国は、未来ではどのように」

「言いにくいけど……今はもうないよ」

「でしょうね。一国が、それほど長い期間存続するわけがありません。あるとおっしゃってくれれば、虚言であろうと判断できたのですが」


 シーズニアはそう言って薄い笑みを浮かべる。

 少し様子の変わった言動に、僕は微かな緊張を覚える。


「未来ではいくつの国があるのでしょう。どのような政治形態が採用されていますか?」

「だいたい、千三百くらいだ。政治形態はいろいろあるけど、一党独裁色の強い共和政が一番多いよ。次が王政かな」

「ずいぶん数が多いのですね。そう、不自然なほどに」

「厳密に言えば、世界は一度完全に統一された。国とは言っているけど、今あるのは行政区域に近いな。すべての立法権は統一法の下にあって、僕らは入国も出国も、定住も移住も、独立も併合も自由にできる」

「なるほど……食物生産はどのように? 一人が何人分の食糧を生産できるのですか?」

「穀物に限れば数万人分、だったかな。畑じゃなくて大きな建物の中で、機械がすべての作業を行う。人間がするのはその管理だけ」

「巨大で複雑な水車小屋のようなものでしょうか。すばらしいです。きっと飢えとは無縁の世界なのでしょうね。では……」


 シーズニアは少し考え込んだ。


「もっとも使われている燃料はなんでしょうか?」

「え、燃料? なんだろう、あまり使わないから……」

「未来では、灯りや暖をとることをしないのですか?」

「ああそういう意味なら、電気だよ。電気っていうのは雷のことで」

「存じています。そしてそうではありません。電気を、どのように生み出しているのでしょう。私たちが薪や蝋を燃やす代わりに」


 僕は言葉に詰まる。

 知らないからではない。答えの内容が、確実に一万年後の技術の話になるからだった。


「……対消滅、っていう方法だ。説明が難しいけど、簡単に言えば魔法でこちらの世界とは反対の物質を作り出して、こちらの世界の物質と反応させるんだ。両方の物質が消えて、その重さの分、熱量が生まれる」

「なるほど……それ以上の方法はないのですか?」

「え?」

「たとえば、世界の穴に物質を捨て、代わりに熱を取り出すような」


 頭の中に疑問符が浮かぶ。

 訊ね返そうとする寸前、僕は気づいた。


「もしかして、サイガ式縮退炉のことか? いやそれは……質量熱量効率が変わらないし、小規模ブラックホールは維持が難しいから、今でも実用化はされてない。たしかに時間あたりの発電量は増えるって言われてる、けど……」

「ふうん、なるほど……そのくらいまでですか……」


 シーズニアは、なにか納得したように呟く。

 一方で僕は混乱していた。違和感が降り積もる。


「では最後に――これから先、文明は何度滅びますか?」

「っ……一度だ」

「人間以外に、生き残った人類は?」

「……いない、よ」


 聞いたシーズニアは、一つ息を吐いた。

 そして、今までの様子が嘘のような、柔らかい笑みを浮かべる。寝台の横に膝をつき、僕の足にやさしく手を乗せる。


「ありがとうございました、ケイ。そして……疑って申し訳ありません。ケイは間違いなく、遙か遠い未来から来られたのでしょう。魔術師としての高い実力も、一万年先の魔法技術を学んだからなのですね」

「……僕の実力というより、ほとんどエコーの力だけど」

「使役獣の力を十分に引き出せるのは、主人の実力あってこそでしょう。その力を見込んで――ケイ、あなたにお願いがあります」


 僕は思考の波が冷たく凪いでいくのを感じる。


「なに?」

魔王わたし使い魔リクトル、つまり、近衛になってくださいませんか」


 驚かなかった、わけではない。しかし表情に出すほどではなかった。

 僕は問い返す。


「どうして」

「この街には『勇者』が攻めてきます。魔王である、私の首を狙って。しかしながら、初代とは違い私には戦う力などなく、配下ももはやありません。信頼できる、唯一の使い魔リクトルであったハスビヤは……ケイもご存じのとおりです」

「……」

「ですが、まだ私は斃れるわけにはいかないのです。我が国のため、民のため、あるべき魔王となり、その目的を果たすために」


 シーズニアは、寝台の上に身を乗り出し、その透き通るような青緑柱石アクアマリンの瞳を潤ませる。太腿に置かれた手に微かに力がこもり、少女の体重と熱が伝わってくる。


「ですからケイ、どうかお願いです。私を守ってください。お礼なら、私にできることならなんでも――」

「あー……待って」

「……?」

「とりあえずさ……」


 僕は眉間の辺りを押さえる。


「その演技やめてもらえないかな」


 少女が愕然と目を見開くが、僕は構わず続ける。


「悪いんだけどクサすぎるよ。そのなんか、悲劇のお姫様みたいな。あまりにもそれっぽすぎる。嘘だろ、それ」

「ケイ……? なにをおっしゃっているのですか? 私は……」

「いやさっき君、微妙にそういうキャラじゃなかっただろ……。続けるだけ時間の無駄だ」


 シーズニアは泣き出しそうに顔を歪めると、わっと顔を手で覆う。


「そんな、ケイ、私はっ……そんなつもりではっ……」

「だから、そういうのだって」

「私は、ただ純粋に……っ」

「……」

「……」

「……」

「…………はーあ。もうやめです」


 シーズニアはがっくりと肩を落とすと、すっと立ち上がり、手を後ろで組んでふて腐れたような顔で僕を見た。涙は影すらなかった。


「まったく、慣れないことをするものではないですね。容姿には自信があったのですが。それともケイは、見た目通り男色家でしたか?」


 豹変したようなシーズニアの言葉に、僕は顔が引きつる。


「君、素だとけっこうひどいこと言うね。違うよ」

「ならやっぱり、一万年後に恋人さんが? ニルヤさんという方がそうでしたか?」


 思わぬ名前が出て言葉に詰まる。

 あのときか。


「おや、当たりです?」

「違う、別に恋人じゃない。というかそんなことはどうでもいい」


 僕は深呼吸する。


「君は、何者だ?」

「……」

「どうしてそこまで未来を知ってる。国や食糧のことはともかく、なぜエネルギー炉のことなんて訊ねられる? どうして大絶滅カタストロフが起こることを知っているんだ。いや……」


 喋りながら、僕は思考が渦を巻いていくのを感じる。

 改めて考えると、この状況はなにもかもあまりに異常だ。舌が勝手に言葉を紡ぐ。


「そうだ……もう茶番はいい。今はいつだ? ここは本当はどこなんだ。一万年前だなんて、ここが旧世界だなんてそんなわけない。おい、僕をどうしたんだ。ニルヤは、みんなはっ――――」


 思わず声を止める。

 シーズニアの細い指が、僕の唇に添えられていた。


「落ち着いてください」


 少女は温度の低いまなざしで言う。

 澄んだ湖のような瞳。引き込まれそうな錯覚すら覚える。


「あなたが一万年後の人間かどうか、私にはわかりません。旧世界という呼称にも聞き覚えはありません。しかし、ここが魔王国であること、建国二百八十一年目の春であること、そして、あなたが『勇者』を倒し、魔王たる私を救ってくれた恩人であることは事実です。私はあなたの敵ではありません」



『――私は、ケイの敵じゃないんだよ。だからもっと――』



「っ……」


 固まる僕をよそに、シーズニアは静かに言葉を続ける。


「私は未来を知っているわけではありません。私の持つどんな知識も、過去の賢者たちが導き出した思想や概念や真理に過ぎません。未来の人々は、我々のことを英知も持たぬ蛮族と考えていたようですね。無理もないでしょう。なにせ、一万年も昔の人類なのですから」


 シーズニアは言葉の端々に皮肉を滲ませてそう言い切った。

 冷静になった僕は、言いようにとげを感じて返答に詰まる。なにか誤魔化されている感もあったが、追求しづらい。

 仕方なく話を本題に戻す。


「……いきなり近衛になれっていうのはどういうつもりだ?」

「先ほど言ったとおりです。私は小芝居はしましたが、別に嘘はついていませんよ」


 シーズニアは含みのある笑みを浮かべる。


「魔王は今、倒されようとしているのです。危機の渦中にあれば、藁にでも縋りましょう。それが一万年後の、強靱な藁であればなおさらです」

「なるほどね。断る」


 僕は即答する。


「君と一緒に沈んでやる理由がない」

「魔王の命に逆らうということが、どのような結果をもたらすか理解していますか?」

「それは脅しか? 自分は戦えないし、配下はもういないとか言ってなかったっけ?」

「ええ、その通りです。十分に理解しているようですね」


 シーズニアは笑顔で肯定する。


「では話はここで終わるとして、ケイはこれからどうするのですか? どこかあてでも?」


 僕は口ごもる。痛いところをついてきた。

 この先どうするか、当たり前だが見通しはまったく立っていない。苦い顔で沈黙する僕に、シーズニアが朗らかに提案する。


「ならば、自分の生活を守るために戦う、というのはどうでしょう?」

「?」

「私が生存する限り、クルースト内においてケイの住まいと食事は保障しましょう。だからケイは、私の生存を脅かす『勇者』を、撃退したければしてかまいません。死ぬまで戦う必要はありません。劣勢になれば逃げてくださっても結構。これでどうでしょう?」


 僕は少し考える。

 わかりやすい提案だった。悪くない。少なくとも僕にとっては。


「いいね、それ。しばらくはそうさせてもらうよ」

「ケイ主任、それは社内規則第――」


 エコーの解放音声をオフ。通信も無視する。


「ただし、事情をもう少し詳しく教えてほしい。勇者とは何者で、なぜ君は狙われているのか、どうして王が満足な近衛兵すら持っていないのか」

「おかしなことを訊きますね。『勇者』が魔王を狙うのは当たり前ではないですか……冗談ですよ。ケイは、この時代のことをなにもかも知っているわけではないのですね。わかりました。必要なことはお話ししましょう。しかし、それは後日に」


 シーズニアは寝台の周りを沿うように歩きながら、小さくあくびをする。


「あなたは知らなかったでしょうが、私はあの小芝居を打つため、あなたが目覚めるのを明け方からずっと待ち続けていたのですよ。さすがに少し疲れました。私はこのあと用もありますし、ケイもしばらくは養生してください。近いうちにクルーストを案内しましょう。続きはそのときにでも」

「ああ、わかった」

「しかし――ケイは、少し妙ですね」


 シーズニアが立ち止まる。即時翻訳の誤りかと思うような言い方に、僕は眉を顰める。


「ケイは戦いに慣れているようです。凍月の『勇者』を難なく屠り、この先の戦いも恐れていない。元の時代ではきっと傭兵のようなことをしていたのでしょう。ですが聞く限り、未来の社会で、そんなことをしなければならないとは思えません。食糧も燃料も潤沢にあるならば、奪う必要も奪われる恐れもない。まして、世界は統一されているのでしょう? 殺し合う事情がないではないですか。ケイ――あなたは、どうして戦うのですか?」


 僕は息をのむ。

 それは、あまりに本質的な問いだったからだ。

 いや、問いではなく指摘だ。攻性人材として派遣企業に登録している一万年後の冒険者たちにとって、最も耳にしたくない類の指摘。


「それは、君にとって重要なことなのか」


 かろうじてそれだけ返すと、シーズニアは目を細め、口の端をつり上げる。


「いえ――どうでもいいことでした」


 医者は不要だと伝えると、では使用人を呼びますと言って、シーズニアは出て行った。

 少女の問いを頭の中で反芻する。あれは、こう言われているに等しかった。

 僕の戦いに意味はない。


《ケイ主任、現地協力者を含む第三勢力への武力供与は社内規則において厳に禁じ――》

《うるさい黙れ。この状況でなにが社内規則だ》


 どうでもよかった。

 規則も、戦う意味も。


 僕が戦うのは、僕が戦いたいから。


 他人は腹立たしい。世界は忌まわしい。神の賽子は僕ばかりを不幸にする。だから、僕は命を危険にさらし、痕跡器官となった闘争本能を賦活させ、主観世界を塗り替える。誤った達成感を得て気を紛らわす。


 ふと、みんなのことが思い浮かんだ。自分じゃない、誰かのために戦っていたみんな。すばらしい仲間だったみんな。胸が痛んだ。悲しみじゃない。自己嫌悪の痛みだ。


 僕は、みんなのようにはなれない。なる資格もない。


 大切な仲間を皆失っても、涙一つ流さないような僕には。


◇◇◇


『わたしが、戦う理由?』


 マナにそのことを訊いたのは、私有の小規模山岳で見つかった深層迷宮ダンジョン探索の折だった。


 かつてこの近くには金鉱山があり、最奥にあるはずのメイキュウリュウの死骸には金が多量に含まれている可能性が高いという。それを回収するのがこのクエストで、僕にとっては初めての深層迷宮だった。

 事前の音波探査で構造はほとんど解明しており、難易度は低い、はずだったのだが、慣れない暗闇と足場に僕は大いに苦戦し、あげくはハモノトカゲの一種に足をひどく切りつけられる始末だった。

 そういう経緯でマナに治療をお願いしたとき、僕は、自然と訊ねていた。


『……そういうこと訊く人は、珍しい。冒険者は、下品で粗野で、ノリで生きているような人も多いけど、不思議とそこには触れないから』


 僕が謝ると、マナはふるふると首を横に振った。


『怒ってない。ただ、そうだ、ってだけ』


 そう言うと、マナは顔を俯けて僕の傷に目をやり、戦棍メイス型端末のイウ・オプティマイザーを小さく掲げた。


 マナは〈高僧ハイプリースト〉職の救命士ヒーラーだった。

 救命士ヒーラーは業界の自主規制により、死亡事故を極力防ぐためにパーティに必須とされている人員だ。しかし、その需要に反して基準は厳しく、医学や薬学に関する膨大な知識と、高い状況対応力が求められる。それだけの脳記述適正があれば、たいていはもっと安全で所得の高い職業に就けるだろうから、常に不足気味というのも納得だった。

 マナはそれに加えて、生物学に基づいた適切な妨害デバフまで行う、聖職者クレリック系の職種ジョブとしては上級職の〈高僧ハイプリースト〉だ。特に量子雲生命アストラルへの対処などは、支援職ながら誰よりも上手かった。


 マナが僕より一つ年下であるにも関わらずカイロウに次ぐ冒険者歴を持っているのは、脳記述教育の圧縮過程が認められたからに他ならない。

 それほどの能力があって、なぜ冒険者になどなったのか。僕はずっと不思議だった。


『……昔、教育センターの同級生が、事故で死んだの。わたしの、目の前で』


 メイスの刺先スパイクから魔法陣が投射され、燐光が瞬いた。

 血まみれの傷口が次第に熱を帯びていく。


『ビルの外階段から落ちて……ほんとうなら、ぜったい助からないような高さだったんだけど、わたしが急いで下に降りたときには、まだ息があったの。他には誰もいなくて、巡回ドローンも、ソーシャルカメラもないところで……わたしだけを見て、なにか言おうとしてた。たぶん、助けて、って。だけどわたしは、なにもできなかったから』


 マナの声は、内容と裏腹に平坦なものだった。


『あの頃はイウもいなかったし、治療分子ジェルすら持ってなかったけど、止血をするとか、助けを呼びに行くとかは、たぶん意味なかったけど、できた。でも、できなかった。わたしは、なにも考えられずに、立ってた、だけだったから』


 傷口はさらに熱くなる。じくじくした痛みは、心地よい種類のものに変わっていた。以前マナに聞いた、外傷用治癒レシピ“Belebekraftベレーブクラフト・Plus”の、幹細胞分化による治療だった。


『うん、だから』


 マナはそう締めくくった。

 僕は、その状況では仕方なかったことを伝えて、それなら医師になることは考えなかったのかを訊ねた。マナならきっとなれただろうに、と。

 聞いたマナは、微かに表情を曇らせた。


『……研究医は、実験ばっかりだし、臨床医は、今はカウンセリングの技術ばかり求められるから。わたしは、どっちも、あんまりやりたくない』


 燐光が消え、魔法陣が消失する。

 マナが静かにメイスを下げた。僕はそっと傷口に触れる。痛みはまだ少し残っているが、深かった傷は完全に塞がり、固まった血の下には新しい皮膚の感覚があった。

 僕がお礼を言うと、小柄で物静かな少女は、ほんの少しだけ、控えめに笑う。


『戦いの中で、自分で誰かを助ける方が、わたしはすき。あのときは、できなかったことだから』


 僕はそれに、なんて返したのか覚えていない。でもきっと、共感を示したんだろう。

 それから少し、マナと仲良くなれたから。



 マナは最初に死んだ。

 廃研究施設の標準通路を進んでいたとき、どこからともなく排出されたスマートボムクラウドに、僕たちは完全に不意を突かれた。そんな防衛装置は資料になかったから。今思えば、あれは変異型ナノマシンに乗っ取られた試作品かなにかだったのだろう。


 ボムクラウド特有の連鎖的な破裂音を聞いて振り返ったときにはもう、僕は、マナは助からないとわかった。真っ赤に染まったその姿が、マナの助けられなかったという友達と重なった。


 通路は微細な爆弾で埋まり、マナに駆け寄るどころか、撤退すらできない状況だった。僕たちは逃げ出した。前へと。


 それが、パーティ崩壊の始まりだった。



 ◆ ◆ ◆



「ここクルーストは、王国の中では中規模の都市です」


 シーズニアに街を案内される機会は思ったより早く、具体的には二日後にやってきた。


「山岳地帯にありますが、あまり勾配がないでしょう? 街の発展にあたって山を大きく切り開いたそうです。なんでも過去に、力のある魔術師がたった一人で行ったのだとか。街の東には大きな農園も広がっています」


 僕たちは二人、朝の街を歩いていた。

 石畳の路地。周囲に並ぶのは、白やら赤の煉瓦でできた家々。平屋が多いが、三階建て四階建て、それ以上の建物も見かける。VRで見た旧世界の街並みを思い出した。大きく違うのは、吸い込んだ空気に朝の匂いがするところか。


「ねえ、ほんとにいいの?」

「なにがですか?」

「王さまが一人で歩いてることがだよ。普通、従者とか護衛とかつくもんじゃないの」


 僕がそう言うと、シーズニアは小首をかしげ、にっこりと笑う。


「あなたがいるではないですか、魔術師さま?」

「……そうじゃない。僕をその範疇に入れるな」

「歴代魔王は奴隷や使い魔リクトルを伴うことが多かったようですが、常にではありません。魔王はその力で君臨する絶対強者であり守られる存在ではないのです、本来は。ケイは、君主に対し少し偏ったイメージを持っているようですね」


 そうかもしれなかった。

 王と一言に言っても、旧世界から古代、中世、近世、近代、現代と、時代や土地でその性質はだいぶ異なる。それにしても不用心な気がするが。


「あとは、単純に今私に動かせる使い魔リクトルがいないというのもありますし、あるいは、まだ王の実感が持てていないのかもしれませんね。私も、周りの人たちも。扱いかねているのです、弱い魔王という存在を」

「……」


 前方から荷車を引いた馬車がやってきて、僕らとすれ違う。サスペンションもクソもないためか、ガタガタとひどくうるさかった。

 そんな中、シーズニアがなにか言った。たぶん、話を戻します、だ。


「ここはどの種族圏にも属さない共生都市で、様々な種族が暮らしています。そもそもが、流通の中継地として発展した街ですからね。今でもたくさんの商人が訪れます。戦争が始まってからはさらに増えました」

「戦争? 今この国は戦時中なのか。もしかして人間の国と?」

「それはもちろん。ああ、そこからでしたね。ちょっと長くなりますが」


 シーズニアは一拍おいて話し出す。


「ケイは十一代目魔王の時代までは知っているのでしたね。その次の、十二代目魔王の治世で、王国は一度終焉を迎えたのです。元老院による、当代魔王バルデキウスの追放によって。今から十二年前のことです」


 元老院という単語は記憶にあった。

 たしか初代魔王が魔族を統一した折、各種族の状況や要望を把握するため、各々の有力者を集めて作った諮問機関だったはずだ。


「ふうん……なんで追放なんて」


 僕が訊くと、シーズニアは微かに表情を曇らせた。


「一概には言えません。天候不順による穀物の高騰と、その保障による国家財政の悪化。長く共存の姿勢を保っていた人間帝国は皇帝の代替わりを機に軍拡を始め、国境に圧力をかけるようになりました。それらにより、税制度改正の割を食った商人を多数抱える猫態族ニクルや、開戦筆頭派の黒角族アブロといった有力種族から独立の機運が高まり、国内は不穏な状態にありました。そこで元老院は、過去に度々失政のあった魔王をやり玉に挙げ、追放し共和政を打ち立てることで不満の解消を狙ったのです」

「まあ……理屈はわかる」

「バルデキウスは産業振興や博物学の発展に心血を注ぐばかりで、魔王としての適正をまったく示せなかったとはよく言われることです。ですが私は、そうではないと思います。単に、民が皆、忘れてしまっていたのです。百年の平和に浸かっていたために、人間の脅威や、魔王の存在意義を。その証拠に、共和政はまったくうまくいきませんでした」


 シーズニアは、熱を捨てるように大きく息を吐いた。


「そもそも、この国で共和政などうまくいくわけがないのです。魔王国は人間帝国のような単一民族国家とは違い、見た目も文化も能力も異なる様々な種族の寄り集まりです。話し合いで一つにまとまるわけがない。だから元老院に議席を多く持つ、有力種族ばかりが優遇される政策が採られるのは必然でした。魔王追放劇の熱から民衆が冷める頃には、今度は弱小種族から独立の声が相次いで上がり、国内はそれまで以上の緊張状態に陥りました」


 なんとなく流れの想像がついた。


「それで、今度は王政復古?」

「ええ。それで、バルデキウス・ディブルス・エル・メルジウスの唯一の子シーズニアに、白羽の矢が立ったというわけです」


 シーズニアがやけくそみたいな笑みで自分を指さす。


「……根本的な解決にはなにもなってない気がするのは僕だけかな。あと当の魔王は、こんなところでなにやってんのって感じだけど」

「私はあくまで魔王という象徴だそうで。実際の政務は宰相が執っていますよ。今の体制は、任期は二年で同一種族の連任は不可、かつ三名の副官は全て異なる少数種族出身者でなければならないという混乱期の反省をだいぶ踏まえたもので、まあ今のところうまく機能しているようです。それに、王政復古以上に重要な施策が同時期にとられまして」

「なに?」

「人間帝国との開戦です」

「……なんでそうなるんだ?」

「簡単です。共通の敵が現れれば、身内で喧嘩している場合ではなくなるでしょう?」

「敵にされる方はたまったものじゃないな」

「ところが開戦は帝国側も望んでいたものなのです。あちらは、単純に土地と富が目的だったようですけどね。そういうわけで始まるべくして始まった戦争なのですが、一つ、誰にも予想外のことが起こりました」

「予想外のこと?」

「我が軍が圧倒的すぎたのです」


 なんじゃそりゃ。


「かつて人間は魔族を滅ぼしかけるほど強大な種族だったのですが……平和に浸かっていたのは人間帝国も同じだったようです。軍部の腐敗で優秀な指揮官は消えたのでしょう。単体の武力だけで言えば、魔族の方が強いですから。今、魔王軍は帝国の首都を完全包囲しています。もう八ヶ月以上になりますね」

「征服目前じゃないか。援軍が来なければだけど」

「来ませんね。属国は軒並み陥落、もしくはこちらに寝返っています。我が国の勝利は揺るがないでしょう。だからこそ、私は首都から離され、地方の山岳都市に護衛もなしでいるわけなのですが」

「全然話が繋がってないんだけど」

「あれは包囲から三週ほど過ぎた頃でした。魔王城に突如火の手が上がったのです」


 そこでシーズニアが一拍置く。流れが唐突すぎるのはわざとやってる気がする。


「魔王城は私の居城です。石造なので幸い大事には至りませんでしたが、魔王に敵の手が迫った事実に誰もが驚愕しました。調査の結果、飛竜に乗った数名の敵が、油を詰めた樽に火をつけ空から落としたのだとわかりました」


 たしか中世頃にはよくあった戦法だ。

 落とすのは糞尿や動物の死骸が多かったようだが。


「それからすぐに基地にされていた小さな村を発見、解放して危機は去ったのですが、人間側が戦場の法を無視し魔王を狙っている事実だけは残りました。万一に備え魔王を王都から密かに移すことが決定し――私はここにいるというわけです。山は竜が飛ぶのを躊躇いますから」

「じゃあ、勇者っていうのは」

「私を狙う『勇者』はほぼすべて魔術の徒でしょう。各地にある魔法の研究機関、塔は、どれも国家、特に軍からは距離を置き独立性を保っています。ですが個人、特に若者となればそうとも限らない――。帝国は包囲前に手を打っていたのでしょう。莫大な報償や魔王討伐の名声、もしくは祖国を魔族から救おうと、彼らは『勇者』として発つのです」

「そいつらはなにがしたいんだ? 君が死んだところで状況はなにも変わらないだろ」

「今この状況は、帝国にとって敗戦交渉の材料になっています。向こうも我が国が、戦争と魔王によってかろうじてまとまっているのだと知っている。多少不利な条件でも飲んで終戦しろ、『勇者』が魔王を斃す前に、とそういうわけです」

「だったら、居場所もばれてる以上王都に戻った方がいいんじゃないのか。なんで今は護衛の兵すらいないんだ」


 僕の当然の疑問に、シーズニアは苦笑してこう答えた。


「魔族の中にも、私に斃れて欲しい者がいるのです」


 僕は言葉を失う。


「人間帝国を徹底的に滅ぼす大義名分を欲しがる主戦派や、魔王を不要とする完全共和政派、王政派でも、私が魔王としてふさわしくないとする者もいます。もちろん私の生存を望む人たちも多いですが、様々なせめぎ合いの結果、私がここに捨て置かれているのは事実です。この街が『勇者』たちに早い段階で知られていたのも、あるいは」


 シーズニアが置かれている状況を理解して、僕は言葉をなくしていた。

 当の本人は、僕に向かって困ったような顔で首をかしげて見せる。


「私の立場を理解してくださいましたか、魔術師さま? 哀れにお思いになるなら、どうか私の力になってください。住まいや食事だけでなく、もっといろいろなものを差し上げられますから」

「……それは無理」

「はあ……まあいいです。とりあえず今は。――あ、ここが商街区マルカです」


 顔を上げると、目の前には大通りがあった。

 ちょっとした広場とも言えそうなほど、幅の広い通りだ。ギリィがもたらした破壊の跡か、周囲には崩壊した建物と瓦礫が散乱している。

 しかしそれも再生されつつあるようだった。瓦礫が手押し車で運び出され、天然建材に釘が打たれる音が響く。空いた場所には、すでに露店がいくつも並んでいた。

 そして、それらを行う多くの人々の賑わい――人々、と言っていいのかわからないが。


「あー……シーズニア? あの煉瓦を運んでる鱗、っぽいのがある人は」

「ケイは魔族を知らないのでしたね。有鱗族スクアです。寒さが苦手な力持ちの種族ですよ」

恐竜人サウリアン種と推測》

「あの露店にいるなんかもふもふした猫、っぽい耳の人は」

猫態族ニクルです。商才で繁栄した大種族ですね。かわいらしいと思いませんか?」

猫態人リトルヤーディ種と推測》

「あの……お化けみたいな格好の人は」

「オバケ? ああ、吸血族クドラでしょう。長命ながら日の光に弱く、あまり普通の都市にはいないのですが……中にはああやって、布を纏い日中出歩く変わった方もいます」

夜牙人ノクティデントゥス種と推測》


 魔族は生まれながらに魔法を使うことができる人類の総称だ。

 現代では化石しか存在していないが、遺伝情報から推測される再現像は様々な媒体で目にした。しかし、実物となると……、


「うわあ、生きてるよ……」

「はあ? 当たり前ではないですか」

「あっ! まおーさま!」


 近くを走り回っていた子供の一人が、甲高い声を上げた。

 周りの子も一緒になって、シーズニアへと駆け寄ってくる。


「まおーさまこんにちは」

「まおーさま、ゆうしゃ、だいじょうぶだった?」


 猫態族ニクルが二人、それと黒い巻き角をもつ種族の子もいた。

 シーズニアは身をかがめ、にこにこと子供たちに答える。


「ええ、私はなんともありません。皆さんは、怪我などしませんでしたか?」

「うん!」「へーき」「ニィもだいじょうぶだよ」

「皆さん無事でよかったです。『勇者』の報が鳴ったら、すぐに中央街区に避難するのですよ」

「ううん」


 無口だった黒角の子が、首を横に振る。


「ぼくはたたかう。とうさんに剣をならってるんだ。まおうさまをまもる」


 シーズニアは黒角の子の前にしゃがみ込む。


「ありがとう、テム。ですが、あなたにはまだ早い。立派に成長し、先祖たちのような偉大な戦士になって、初めてあなたはその資格を得るのです。だから、今は逃げなさい。いいですね」


 口元を引き結んだ少年は、逡巡の後に頷いた。そして振り返り、瓦礫の通りを走り去っていく。猫態族ニクルの子たちが、囃し立てながらそれに続いた。


黒角族アブロは数こそ少ないながら、戦いに秀でた勇猛な種族です。あのくらいの子でも、その性質がはっきり出るものですね」


 シーズニアは立ち上がり、通りを歩き出す。僕はそれに続く。


「おお、魔王陛下。本日もご機嫌麗しゅう」

「ああっ、魔王様! このようなところにわざわざ……」

「あ、見て魔王さま!」「魔王さまー、今日もお綺麗ですー」


 時折人々の中から歓声が上がる。

 シーズニアはにこにこ笑いながら、手を振ったり、声を返したりしていた。


「あら魔王さま。ちょうどよかった。いいイチジクが入ったんだよ。ちょっと食べてきな」

「やった! 行きましょう、ケイ」


 そう言ってシーズニアは、果実の並ぶの屋台へ吸い込まれるように近づいていく。

 店主らしき恰幅のいい猫態族ニクルから楊枝の刺さったイチジクを受け取ると、心底うれしそうに礼を言う。


「ほら、そっちの色男な衛兵さんも」

「え、僕?」


 言われるままに楊枝をつまむ。


「ん! おいしいです。あとで買いに来させますのでとっておいてくださいね」

「あいよ」


 やりとりを横目で見ながら、イチジクを口に入れる。果肉が柔らかく崩れ、甘い果汁が舌に触れた。微かな青い風味。

 再び歩き出すシーズニアに、僕は声をかける。


「ずいぶん慕われてるんだな」

「んー……そうですか」


 シーズニアは曖昧な表情で、とぼけたような返事をした。そのまま前へ向き直る彼女へ、僕は少し迷って付け加える。


「あと……僕、イチジクって初めて食べたよ。おいしいんだね」

「ええっ、そうなのですか? 未来は豊かな食文化が衰退してしまったとか……?」

「そうじゃないけど……いや、そうかも」


 食事自体が面倒で、一人の時は錠剤で済ますことも多かった僕には、ここ数日の食生活は新鮮だった。


 周りを見ると、本当に色々な屋台がある。

 いい匂いのするソーセージや魚の串焼きに、果実飲料やパン、さらには生きた鶏まで売っている。食べ物だけでなく、小間物に金物、硝子製品を売っている店もあった。型枠に液体の土砂を流し込む工事の傍らでは、透明な硝子瓶に煮物を密閉した商品を売る露店。


「ん?」


 微かな違和感。

 疑問を形にしようと考えていると、前方から低い声が上がった。


「これはこれは、魔王様」


 見ると、数人の異なる魔族を伴った、目を引く大柄な姿があった。

 手や顔、目に見える部分は白く長い毛で覆われ、頭には三角耳。犬のような相貌には心当たりがある。


白狼人ルプセネクス種か……」

「こんにちは、市長。議会の皆様も。本日は復旧の視察でしょうか」


 シーズニアが朗らかに声を返す。

 白狼人ルプセネクスが牙を剥いた。


「ええ。そのようなところでございます」


 僕は一瞬経って、それがその人物の笑みなのだと思い至った。

 市長だという白狼人ルプセネクスが街を振り仰ぐ。


「しかし、此度はまた手ひどくやられてしまいましたな。せっかく賜った『街の灯』も、愚息の見たところ修理は難しいようで」

「道具はまた作ればよいのです。問題は、元には戻らぬもの……街の皆には迷惑をかけてしまっています」

「気になさることなど。我々とて、魔王様と我々の置かれている立場は理解しております。加えて魔王様には、これまでに十分な援助をいただいておりますからな――ところで、本日は何用でこのようなところに? まだなにかと慌ただしいゆえ、この辺りはあまり歩かれない方がよろしいかと存じますが」

「お邪魔してしまいごめんなさい。今日は、これに街の案内を」


 シーズニアが背後の僕を示す。

 市長の目が細められる。


「ほう」

「凍月の『勇者』を打倒した魔術師、ケイです。すでに魔王の配下となることを誓いました。今後は彼もまた、この街の守護にあたることとなります」

「なんと」


 背後の魔族たちの間でもざわめきが起こる。これが、あの。魔王様の使い魔となったとは。

 僕はシーズニアを肘で突く。


「ちょっと! 僕そんなこと約束して……」

「そういうことにしておいてください。なにかと都合がいいですから」


 シーズニアが小声で返してくる。

 僕は不承不承引き下がる。


「これは心強い」


 市長が一歩前に進み出る。目が合った。内心の読みにくい瞳。


「強大な魔術師の加勢は願ってもないこと。クルースト市長のグレニドです。なんでも、この破壊をもたらした『勇者』をただのお一人で打倒したのだとか。先の戦い、そして今後のお力添えに感謝します、ケイ殿」

「いえ……恐縮です。サリハ・ケイといいます。どうぞよろしく」

「ケイ殿ハ、どちラの種族のご出身ナのですカナ?」


 声は市長ではなく、傍らにいた小柄な有鱗族スクアから上がった。


「失敬。石工組合の長をしておりマす、エ・ボという者でごザいます」


 爬虫類の目が細められる。

 鱗で覆われた顔には唇がないためか、一部の音が抜けるような発音だった。

 僕よりも先にシーズニアが答える。


「ケイは人間ですよ。見てのとおり」

「ナんと、ヤハり」

「大丈夫なのですかな」


 丸顔の猫態族ニクルが口を開く。


「ああなに、勘違いなされるな。同族と争うのは、やはりやりにくかろうという意味で」

「しかし、信じられんな」


 細身の黒角族アブロが険のある声を上げる。


「見るに年若いが、いずれの魔法でも極めるには年月を要するものだ。このような若輩が、果たして本当に『勇者』を斃すだけの力を持っているのか?」


 聞いていて僕はうんざりする。

 クルーストのお偉方らしいが、どうもうさんくさく見られているようだった。端から見た僕の怪しさを思えばもっともではあるが。

 僕がなにか言う前に、シーズニアはにこやかに告げる。


「芸術や数理と同じように、魔法もまた早熟の天才を多く生む分野です。私のハスビヤのことは評価してくださっていたではないですか、ゼオム議員」

「……左様であったな」


 黒角族アブロが肩をすくめる。シーズニアは議員らに向かって話す。


「ご心配なく。ケイのことは私が保証しましょう。この者が『勇者』とは無関係で、街に害なす意思も持っていないことはハスビヤも確認したことです」


 議員たちがざわつく。それならば、という声が聞こえた。なんだか納得したみたいな空気だったが、僕の頭には疑問。


「ねぇシーズニア? それって……」


 訊きかけたとき、突然悲鳴が上がった。全員が声の方に目を向ける。


「おおいっ! くそっ、誰かそれ止めてくれぇ!!」


 男の声と共に、なにか灰色の大きなものが道ばたの露店に衝突した。

 木材が破壊される音。店主や客たちが逃げ回る。

 破壊の主は次の突進先を見定めるように振り返りながら、粗い呼吸音を漏らす。白狼人ルプセネクスの若者をはじめ数名がそれを阻止しようと取り巻くが、どうにも手を出せないでいる様子だ。


「あれ、なんだ? 豚……?」

《鯨偶蹄目猪科の魔獣、グレイボアを家畜化した古代豚と推測。気性がやや荒くパニックを起こしやすい習性があり、現代では一部の地域で対象遺伝子を欠落ノックアウトさせた品種が》

「ケイ」


 名前を呼ばれて振り返ると、シーズニアの笑顔。

 言わんとしていることを察して、僕は溜息をつく。仕方ない。


 前に歩み出る。大きく息を吸い込み、思い切り指笛を鳴らした。古代豚が反応する。周りのぎょっとしたような視線が僕に集まる。

 もう少し近づいてくれないと困る。小石を拾って豚へ投げつけた。大きな体躯が僕へ向き直る。動物らしい唐突さで、短い足が地面を蹴った。加速する。いいぞ。

 背後では議員たちが後ずさる気配。

 推定体重は約百二十キロ。データストレージを展開する。麻酔弾のレシピもあるが、もう少し派手な方がいいだろう。


《“BlitzブリッツΩオメガ”をロード》


 魔法陣が前方に展開。

 電流の唸り声と共に一筋の雷光が迸る。それは空を裂いて飛翔し、古代豚の背へと突き立った。灰色の体躯が全身を引きつらせ、突進の勢いのままに倒れ込む。


 静寂。

 豚はそのまま動かない。体毛の焼ける焦げ臭い臭気が漂う。


 不意に、周りから歓声が上がった。拍手の音すら聞こえてくる。予想以上の反応に、僕はたじろぐ。


「すばらしい」


 市長が声をかけてくる。


「ハスビヤ殿と同じ稲妻の魔法とは。ケイ殿も天鳴の塔のご出身なのですかな」

「いえ、僕はその……」

「いやー、助かったぜ。あんた魔術師か? やるじゃねーかよ!」


 肩を乱暴に叩かれる。振り返ると、市長に似た白狼人ルプセネクスの青年が立っていた。さっき豚を捕まえようとしていた一人だ。

 青年は僕の顔を見ると、どういうわけか面食らったように後ずさり、白い毛で覆われた頬を掻く。


「お、わ、悪ぃな。なんだあんた、てっきり男かと思ったぜ。あんなことするもんだから」

「男であってるけど」

「は……?」


 青年が金色の目を細めて僕の顔を見る。


「野郎、なのか? そのツラで?」


 僕は顔が引きつるのを感じる。


「……お前は、一体なにをしているんだ」


 市長の低い声に対し、青年が睨み返す。


「あ? チッ、なんで親父がこんなとこいるんだよ」

「復旧の視察だ。お前はそれを邪魔していたようだが」

「ちげーよボケ。これは人助けだ」


 青年はそう言うと、気絶した豚の足を掴んで持ち上げ、人混みの方へ引きずっていく。


「ほらよ、ばあさん。今度はちゃんと繋いでおけよ」


 すまないねぇ、の声と共に、小柄で全体的に丸い老婆が豚の足を受け取った。そしてそのまま引きずっていく。百キロ以上あるはずだが、苦労する様子はなかった。あれもきっと魔族なのだろう。


「グレン」


 シーズニアが青年へと声をかける。


「お? なんだ、魔王サマまで。今日はずいぶんお偉いさんが集まってるなぁ」


 青年の気軽な口調に、市長が渋い声を出す。


「お前は……我らの王に、もっと敬意を払えんのか」

「うるせぇ! あーっと、そうだ、魔王サマな、『街の灯』なんだが、やっぱり修理は無理そうだぜ。一応見てもらおうかと思ったんだが」

「グレンが無理というのなら無理なのでしょう。仕方のないことです」

「なあ……あれ、また作れねーか? 材料が高価なのはわかってるんだが」

「魔王様、私からも何卒。残念がっている者たちも多い。費用ならば市の財政から用立てられます」

「構いませんよ。グレンの手は、また借りることになると思いますが」

「おう、任せとけ!」「それは存分に。愚息の数少ない取り柄ですので」


 周囲の人だかりからも喜びの声が上がる。

 僕はそれを、完全な部外者顔で聞いていた。なんだろう、『街の灯』って。

 ふと、視界の端に動く影があった。

 反射的に体が動く。


「グレン、紹介します。これはケイ。先の『勇者』を倒した魔術師で、私の使い魔に――」


 僕は無言でハーモナイザーを抜き打つ。シーズニアへと。

 少女の目が見開かれる。


 有機鋼の刃は、シーズニアへと放たれていた礫を弾いた。

 乾いた音が響き、拳大の石が路上に転がる。


「そいつだ」


 ハーモナイザーの切っ先で凶徒を指し示す。肌が白く、背の高い女性。

 グレンを含めた数名が、即座に取り押さえた。女性が大声で喚く。


「****! *******!」


 悲痛な表情には、怨念の色が混じっている。

 即時翻訳の働かない未知の言語だったが、なんとなく内容は想像がついた。

 人々はざわついていたが、いやな静けさがあった。まるで、魔王の言葉を待っているかのような。


「連れて行け!」


 市長の声。

 騒ぎを聞きつけた自警団らしき者たちが、女性を連行していく。


「魔王様、あの者の処遇は、どうかお任せください」

「ええ、任せます。どうか穏便に」


 シーズニアが振り返る。


「行きましょう、ケイ。長居はしない方がよさそうです」


 歩き出すシーズニアに、僕は無言で追従する。

 民衆のざわめきが、僕らの背中を押していた。



 ◆ ◆ ◆



「グレニド市長とグレンは、白狼族ルーパという調和を重んじる種族です。北方起源の大種族ですが、あまり離散傾向が強くないので、猫態族ニクルほど数は見ませんね」


 帰り道で、シーズニアは変わらない調子で話し出した。僕もそれに合わせる。


「普通に人間みたいな人たちもけっこういたけど」

「今は混血が進んでいますから。共生都市では特に。人間との混血は、人間の血が強く出るのです。私やハスビヤもそう。でも、よく見れば違いがわかりますよ。例えば……あの女性は、妖精族アルヴの末裔でしょうね。言葉がそうだったというのもありますが」


 僕が黙っていると、シーズニアはぽつりと続ける。


「あの方は、先の『勇者』の襲撃の際に、息子さんを亡くしたそうです」

「……やっぱり、君はどうかしてる」


 シーズニアが僕の顔を見る。


「魔王がいるから勇者が現れる。戦争に関係なかったはずのこの街に。君が撒き餌みたいに放置されている理由も、政治的なパワーゲームの結果でしかない。そんな状況で……街の人たちに恨まれていないわけがない。それなのに、不用心に街を出歩くか? 普通」

「……ふふ」

「なんだよ」

「いえ、恨まれているだけではありませんよ。あの凶手への対応を、市長が積極的に買って出たのはなぜだと思います?」

「……さあ」

「魔王の強権から市民を守るためですよ。つまり、私を狙ったかどであの女性が処刑されることを防ごうとしたのです。笑っちゃいますね。今の魔王には、地方自治に口を出す権限すらないというのに。ですが多くの人たちにとって、魔王は未だ絶対なる専制者で、恐れを抱く存在なのです。さて、そんな存在が誰にも顔を見せず、ずっと引きこもっていたらどうなるでしょう?」


 僕が答える前に、シーズニアが続ける。


「あっという間に屋敷を焼き討ちされて終わりです。それで問題は解決するのですから。『勇者』の仕業とすれば、誰もおとがめなし。戦争もそのうち終わります。安易な手段を肯定する空気が集団の中で醸成されていき、すぐに実行に移されるでしょう。ですが……私が街へ赴き、集団の一人となれば、ある程度それを抑制できます。見えない者はいない者ですが、見知った仲間を害するとなるとずっと抵抗が大きくなりますからね。まあそれ以外にもいろいろやっていますが……ですから、ケイ」


 シーズニアが数歩進み出て、僕へと振り返る。

 薄い笑みを浮かべて言う。


「私が街を出歩くのは、それが必要だからです。多少の危険を許容しなければ、破滅に向かうことになります。私はこうするしかないのです」


 僕は溜息をついて、シーズニアの脇を通り過ぎる。


「……そんなこと、よく笑いながら言えるな。僕ならストレスで死にそうだ」


 シーズニアが横に並んでくる。ついでに、僕は考えていたことを訊ねる。


「というか、そんな状況でなんで魔王をやめないんだ?」

「え?」

「王族なら国外に伝手くらいあるだろ。そんな分の悪い賭けを続けるくらいなら、思い切って亡命でもした方がよほどマシじゃないのか」

「そ、そんなことっ……」


 シーズニアが言葉を詰まらせる。


「……そんなこと、できません。私は求められ、納得して今の地位にいるのです。民のためにも、投げ出すことなどもってのほかです」


 堪えるように言ったその言葉に、僕は無性に反感が湧いた。


「お飾り魔王が民のためって、ずいぶん意識が高いんだな」

「……なにが、そんなに気にくわないのですか?」


 見透かしたようなシーズニアの問いに、今度は僕が押し黙る。

 なにが? そんなの決まっている。

 その立派な答えそのものだ。

 シーズニアも、他人のために戦える人間なのだろう。そうでない僕は、隣にいるだけで批判されている気分になる。ひどく居心地が悪い。


「いや……別に。ただ国民より、もっと自分の身を案じてもいいんじゃないかと思って」

「お気遣いどうも。でもこれは、私のためでもありますので」


 シーズニアが、思いを秘めたような表情で呟いた。

 僕が訊ね返すよりも先に、前を見据えたまま話し始める。


「ある賢者によれば、人間や動物がときに身を挺して仲間を守ろうとするのは、それが結果的に自らの子孫を守ること、すなわち自分の利益につながるからなのだそうです。ケイはこのような話を知っていましたか?」

「……まあ」


 僕はあからさまに不機嫌な声音になったことを自覚する。

 まさか、旧世界時代からこの思想があるとは思わなかった。



『――利己的な利他性って言うんだって――』



 この話を聞いたときのことが、否応なく思い返される。


「私が民のためと言うのも、そういうことです」

「……ふうん」


 僕は適当な相づちを打つ。それがどういう意味なのか、聞き返す気も起きなかった。

 僕の興味なさげな様子など無視するように、シーズニアは明るい表情で続ける。


「それに、なにも悪いことばかりではありませんよ。街は楽しいですし、いい人もたくさんいます。他人と関われば意外な収穫があるものです。ケイのときもそうでしたしね」


 意味がわからず首をかしげる僕を尻目に、シーズニアは続ける。


「ケイが目覚めたあのとき、実は、私は結構怖かったのです。強大な『勇者』を屠る魔術師がどんな人物なのか、本当に我々魔族と敵対しないのか、私を見たあなたがなにをしようとするのか、まったくわかりませんでしたから。確かだったのは、あなたがどんなつもりでも、その力に抗するのはきっと不可能ということだけ」

「……」

「まさか未来の人間だなんて言われるとは思いませんでしたけどね。でもそんなことよりも、ケイが秩序を重んじ、利益と善意に基づいて我々と共に戦える人だったということがなによりの収穫でした」


 僕は沈黙で答える。単純に、言葉が見つからなかった。

 シーズニアは不機嫌そうな顔で付け加える。


「まあ、恥を掻かされたのには腹が立ちますが」

「じゃあどうすればよかったんだよ」

「それは、その……こう、目が合って照れるとか……」


 口ごもって俯くシーズニア。

 僕は馬鹿馬鹿しくなる。



 ◆ ◆ ◆



 丘を登り、豪華で広大な市長公邸に戻ってくると、門の前に誰かを探す人影があった。


「あっ、シィ! おーいっ」


 その人物は腕を振ると、こちらに駆け寄ってきた。

 錆色の髪と琥珀色の瞳。

 見覚えのある人相に、僕は言葉を失う。


「もう! 街へ出るならあたしも行くって言っただろっ」

「ハスビヤ、あなたはまだ怪我が治ってないんですから」

「これくらい平気だ」


 ハスビヤは吊った左腕を振ってみせ、顔をしかめる。


「だいたい、危ないじゃないか。『勇者』が来たばかりなんだから」

「大丈夫です。ケイがちゃんと仕事をしてくれましたから」

「ふーん?」


 ハスビヤが下から半眼で睨んでくる。

 僕は、呆然としながら口を開く。


「君……生きてたのか」

「む? 勝手に殺すな。大理石の柱はともかく、煉瓦は動かすのが少し難しいから脱出に手間取っただけだ。シ……魔王様から聞いてなかったのか?」


 シーズニアを見ると、言ってませんでしたっけ? とすっとぼけられる。


「いや、シーズニアの言い方からもしかしたらとは思ってたんだけど……そっか、生きてたのか。よかった」


 ふと言葉が漏れた。自然に口元が緩む。

 ハスビヤはしばしぽかんとしていたが、やがて花が咲いたように笑った。


「なんだ、ケイとかいうやつ。お前意外といいやつだったんだな! すかした顔してるからてっきり性格の悪い優男かと思ってたぞ。そうだ、あの『勇者』を一人で倒したんだってな。すごいなぁ! 時の魔法をどうやって破ったんだ?」

「あの、ハスビヤ? とりあえず中に入りませんか?」

「む、そうだな……そうですな、シ……魔王様」

「あと、ケイの前では普通に話していいですよ」

「そうか! じゃあ行こう、シィ。今日の食事はなー……」


 門へ歩いて行くハスビヤ。あっちもあっちで第一印象とはずいぶん違う。

 僕も歩き出そうとすると、シーズニアがわざわざ寄ってきて真顔で呟く。


「なんでにやにやしてるんですか」

「……してない」

「あの子は素直でかわいいですからね。ケイはすごいと思われているようです。よかったですね」

「……」

「でも手を出そうなどとは考えないことですね。あの子は私の使い魔なんですからねっ」


 憤然として門へ向かうシーズニア。そんなに根に持ってたのかと動揺したが、冷静に考えると、たぶんからかわれただけだろう。微妙な表情のまま二人に続く。

 でも、なんだか気持ちが軽い。

 なぜだろうと考えて、一緒に戦った少女が生きていたからだと思い至る。


 仲間でもなんでもないはずなのに。

 みんなの顔が浮かんで、少しだけ罪悪感が湧いた。

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