第11話 会心の一撃

 魔物に足は無く、代わりに尾ひれがついており、手には鋭い爪。目は白目。口からはよだれが垂れており、さらに獲物に喰らい付く為の牙が光る。


「マーマン……っ!?」


 この魔物につけられたランクはC。レベル25あたりで倒せる相手だと資料に書いてあった……。つまり、今の僕には倒せない……。


「そのナイフ貸して。」


 エリスちゃんは僕が持っているナイフを取るとマーマンに向かって走り出す。

 そんなナイフじゃああの魔物には通用しないんじゃあ……!


「ふっ!!」


 エリスちゃんはナイフを逆手に持ち、縦に振り上げた後、八の字を描くように、ナイフを滑らせて行く。


『ブババアァァッ!?』


 マーマンは斬られた傷口から血が大量に吐き出し、倒れる。


「………」


 エリスちゃんは何も言わず、とどめの一撃を心臓に突き刺す。

 マーマンは灰に変わり、どこかへ散っていく。


「やっぱり、ハンターナイフじゃあ斬りにくいね。」

「す、凄い……。」


 あれだけの斬れ味で斬りにくい?そんなわけあるはずない。あんな簡単にCランクの魔物を斬り裂いたじゃないか。


『『ブババアアアァァァアアッッ』』


 今度は二体マーマンが現れた。


「今度は僕も戦う!」


 予備のナイフを取り出し、構える。


「うああああああああぁぁぁああっっ!!」

「っ!?駄目!!」


 僕は雄叫びをあげながら突き進む。その際、エリスちゃんの声が聞こえた気がした。だけど、僕だって冒険者なんだ。戦ってみせる。


 ナイフを逆手に持って姿勢を低くした後、マーマンの腹を狙い、ナイフを振るう。


「ふっ!」

『…………』


 だが、刃は通らなかった。


『ブバアアッッ!』

「ぐあっ!?」


 マーマンに振り払われ、僕は後ろへ飛んだ。


 なんで、刃が通らなかったんだ?エリスちゃんと同じナイフを使っているはずなのに……。


「私に任せて……!」


 マーマンを見つめながらそう言うとエリスちゃんはナイフを自分の前に構え始める。


「–––––エンチャント。サンダー!」


 突如、エリスちゃんが持つナイフから小さな稲妻が走り始めた。


 これが……、エリスちゃんの魔法。


 エンチャント。武器に魔法を纏わせて戦いを有利にさせる強化魔法。今使えるのは炎と雷だとさっき、本人から聞いた。


「はっ!」


 その瞬間。彼女は目に見えない速さで駆け出し、二体のマーマンの前に立つ。


『『!?』』


 エンチャントの効果では無い。これはエリスちゃんの持つ、敏捷のステータスによる影響なのだろう。

 これが、上級冒険者の速さなのか……。


 ただただ圧倒。そしてそれと同時に自分の無力さを痛感する。


 エリスちゃんは雷を纏ったナイフを振り下ろして行き、二体のマーマンを斬り裂く。約5秒の出来事だった。


「………大丈夫?」


 飛ばされた僕を心配してくれてるのか、エリスちゃんは僕の側まで、歩み寄ってくる。


「う、うん。大丈夫。」


 僕は一人で立ち上がり、エリスちゃんの後をついて行く。


『ワンッ!!』


 その時、どこからか鳴き声が聞こえてきた。


「犬の鳴き声!!」

「行こう!」

「うん。」


 暗闇の中でも進めるエリスちゃんを頼りに僕も後を追う。


 右、右、左。


 入り組んだ下水道を進み、ようやく、犬のもとへたどり着く事が出来た。


 だが。


『ワンッ!!ワン!!』

『『『フババアアアァァァアアッッッ!!』』』


 三体のマーマンに囲まれ、今にも犬は襲われそうになっていた。


 おばさんに聞いた特徴と一緒。あれはシルビーだ。


「エンチャント、サンダー!」


 エリスちゃんは再びエンチャントをかけ直し、ナイフを構える。


 エリスちゃんの前に、二体のマーマンが立ちはだかる。もう一体は今にも犬を襲いおうとしていた。


「……邪魔っ!」


 エリスちゃんはマーマンに斬りかかったが、ナイフの寿命が尽きてしまい、刃が折れる。


『ブバババアアアァァァアアッッ!!』


 後ろにいたマーマンは鋭利な爪で、犬に襲いかかろうとしていた。



 –––––僕にも何か出来る事がないのか?


 自分に問いかける。答えは返ってこない。


 今の僕には何も出来ない。だからなりたい。目の前の幼馴染。エリス=アスタリアのような立派な冒険者になりたい。


 助けたい!救いたい!!目の前にある命を!!


 その時、僕の体から青い光が発光する。


 憧憬投影。無意識のうちに発動していたのだ。しかも以前やったときよりも、光は強く綺麗に輝いていた。


「うッッ!!」


 気づけば、何も考えずに走り出していた。いつの間にか、エリスちゃんや二体のマーマンを抜き去り、爪を突き刺そうとしている敵の目の前までやって来ていた。


「えっ?」


 あまりの速さにエリスちゃんは驚いていた。


「ああああぁぁぁぁあああッッッ!!」


 そんなのは今は構わない。

 僕はナイフを強く握り、振りかざそうとしている爪にぶつける。


 鍔迫り合いが起きるかと思ったがマーマンの爪はあっという間に砕け、ナイフの勢いは止まらず、そのまま、首へと、突き刺さる。


『ブアッ!?』

「ッッ!!」


 ナイフを両手で持ち、力任せに押し込む。


 首にどんどん食い込み、血が吹き出し、僕の顔を赤く染める。


 そして、ナイフは首をかっ飛ばし、絶命したマーマンは灰へと変わっていく。


 僕から青い光が消えて行く。同時に力がなくなり、膝をつく。


「アレス!ナイフを投げて!!」


 僕は言われた通りに、力を振り絞って、エリスちゃんにナイフを投げる。


「ふっ!」


 エリスちゃんをナイフを受け取ると、逆手に構え、再びエンチャントを施す。


 雷を纏ったナイフは二体のマーマンを斬り裂く。


 灰になった事を確認し、エリスちゃんは僕と犬のもとに向かう。


 でも、その前に僕の意識は消え失せてしまった。



 ***


 エリスは倒れそうになったアレスを支える。


(これが、憧憬投影……。)


 大幅にステータスを上げるが、体力も多く使う。

 そのデメリットに気がついていなかったのか、アレスは全力を振り絞った。


「凄かったよ。アレス。」


 意識が無いアレスに呟いた後、彼を背負い、近くにいた犬と一緒に下水道から脱出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る