第10話 『血塗られた一日』

 エリスちゃんについて行き、いろんな場所をまわった。


 イカ焼きや、カステラ、フランクフルトにチキン。いろんな屋台をまわった。


 ………食べ物関係しかまわってないのは、なぜだろうか。エリスちゃんはこんなに食べるの好きだったか?


 それとも5年間の中で、食べ歩きという趣味が増えたのか?


「ぶぅ……づぎはどご行くの?」


 既に満腹の腹を抑えながら、僕はエリスちゃんに聞いてみる。


「次は……、何食べようか?」


 あっ、やっぱりまだ食べるんだね。どこ行くか聞いてるのに、何食べるかになってるし。


「あぁ……。シルビーっ!!」


 苦笑していると、前にいたおばさんが、誰かの名前を嘆くように呼んでいた。


「どうしたんですか?」


 悲しんでいる様子をしたおばさんをほっとけず、僕は声をかけてみた。


「あなたは……冒険者様?それにエリス様?あぁ、よかった!お願いします!シルビーを連れ戻してください!!」


 僕と、エリスちゃんを見たおばさんは、僕達のもとに駆け寄り、泣き叫ぶ。お願いをされたけど、内容がまったくわからない……。


「えっと……。何かあったんですか?」

「うちの飼い犬のシルビーが地下の下水道に迷い込んだの!」

「下水道……。」

「どうしたの。エリスちゃん?」

「最近、下水道に魔物がいるって噂があったような……。」


 下水道に魔物?どうやって王都に入って来たんだ?


「そうなの!魔物がいるって噂だから、私は行けなくて……っ!お願いします!どうかシルビーを連れ戻してくれませんか!?」

「僕はもちろんいいけど、エリスちゃんは?」

「うん。行こっか。」

「………ありがとうございますっ!」

「いえいえ、それより、どこから入ったかわかりますか?」

「えぇ、ついて来てください。」


 おばさんに言われるがままついて行く。 


 その間、犬の特徴を聞き、探す際の手がかりを手に入れた。


 目的地まで遠くは無く、1分もかからずに着いた。


 目の前には地下に続く厳重な扉があった。その扉は普段開かないはずなのに……。


「その扉から地下に行ってそこから下水道に………。」

「わかりました。僕達が行ってくるんで、待っていてください。」

「私達に、任せて。」

「–––––ありがとうございます。」


 おばさんは涙を流しながら頭を下げる。僕は慌てて、頭を上げるよう言った後、扉の前に向かう。


「それじゃあ、行って来ますね。」


 そうして、僕達は地下への入り口に足を踏み入れる。



 ***


「それにしても、どうして地下に魔物が……。どこか外と繋がってるのかな?」


 地下を歩きながら僕が疑問を浮かべていると、隣にいたエリスちゃんは話し始める。


「外には繋がってる。でも、そこは鉄格子があって侵入出来ない。」

「なら、どうやって……。」

「多分、3年前の生き残りだと、思う。」

「ん?3年前に魔物がいたの?」

「うん。いたと言うか、突然現れた。」

「?」

「そっか。アレスは知らないんだね。あの、『血塗られた一日』を。」


 そう言った後、エリスちゃんは3年前にあった出来事を話し始めてくれた。


「本当に突然だったよ。魔物が町の中央に現れたのは。たくさんの魔物が現れて、そこにいた町の住民を大量虐殺していったの……。」


 話している最中。エリスちゃんの表情が険しくなっていく事に気づいた。

 3年前だから、やっぱり、エリスちゃんもその光景を目の当たりにしたのかな……。


 そんな事を考えている間にも、エリスちゃんは説明を続けた。


「突然の事に、冒険者達は準備に遅れた……。町を警備しているジャスティスギルドは別だったけど。」


 ジャスティスギルド。文字通り正義を語り、町の警備や犯罪を取り締まっているギルドだ。僕の憧れのギルドの一つでもある。


「でも、ジャスティスギルドだけじゃあ対処出来なくて、たくさんの人が死んだ。……私の目の前で大切な人も殺された……っ!」


 エリスちゃんが魔物に向ける憎悪の理由。それを垣間見得た。そんな気がした。

 確か3年前はエリスちゃんはまだ冒険者じゃないはず。この出来事がきっかけで冒険者になったのかな……?


「–––––時間が経ってようやく他の冒険者も現れ、魔物を倒していった。たった一日の出来事だったけど、死者が多すぎて『血塗られた一日』って呼ばれるようになったの。」

「『血塗られた一日』……。下水道にいるのが、その生き残りかもしれないって事?」

「––––––多分。」

「………。」


 突然魔物が現れたって言ってだけど、どう言う事なんだろう。ぱっと召喚されたみたいに現れたのか、町の影から突然姿を現したのか……。


 どっちが正解か、エリスちゃんに聞こうとしたその時、地下のおくから呻き声が聞こえた。その声は人間でも動物でもなかった。


「っ!?」

「早く行かなくちゃ!」


 そう言って、僕はエリスちゃんと共に地下を走り始めた。


 地下は狭い。僕達の足音がこの狭い空間に響き渡る。


 しばらく走ると、足下が冷たくなるのを感じた。見ると、下に深さ3センチほどの水が溜まっていた。


「着いた。ここが下水道……。」


 さっきより一層暗くなっており、なんとか前が見える状況だった。だが、レベル40のエリスちゃんは迷う事無く、道を進んでいく。


 僕は前を歩くエリスちゃんを頼りに歩く。


『ブバアアァァァァアアアッッッ!!』


 その時、魔物の咆哮が下水道の中に響いた。


「っ!行くよ!!」

「わ、わかった!」


 走り始めたエリスちゃんをなんとか追う。視界が暗くてエリスちゃんを見失ったら迷子になってしまうかもしれない。


 しばらく必死に追っていると、前を走っていたエリスちゃんは突然止まりだす。


「ぶっ!?」


 ブレーキが効かず、僕はエリスちゃんの背中に激突し、倒れかけるが、なんとか体勢を立て直す事に成功。


「ど、どうしたの?」

「いた。」


 いた。その言葉で僕は状況を察する事が出来た。


『ブバアアァァッッ!!』


 魔物が現れたのだ。王都の地下、この下水道で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る