第5話 そして、走り出す
「はああああぁぁぁぁっっっ!!」
ナイフを振り回してダンジョンを駆け巡る。
通り過ぎていくゴブリンを切り裂いていき、どんどん奥へと進んで行く。
もっと。もっとだ。もっと来い。
細い道にいる魔物を傷を負いながら倒していく。
まだだ。まだ足りない。何もかも足りないんだ。僕は!!
「うおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!」
ナイフを逆手に持ち、次々倒していくが、いつの間にか刃はもう限界を迎えそうになっていた。
「なっ、ぐっ!!」
今更気づき、気を緩めてしまったその瞬間、ゴブリンに反撃を喰らう。
「はああああぁぁぁぁっ!!」
それでも、僕はナイフを強く握りしめゴブリンを斬り裂く。
切り味は落ちているがゴブリンを倒す事に成功した。
だが、ダンジョンは僕に牙を剥く。
「ヘルハウンドが二匹……。」
奥から二匹のヘルハウンドが獲物を見つけた狩人のようにゆっくり近づいて来る。
無我夢中だった今の僕は一旦退くと言う選択肢が無かった。
「………やってやる!!」
予備で持ってきていたもう一つのハンターナイフを取り出し、二つのナイフを構え、敵のいる方へ走り始める。
「はあああぁぁぁっっ!!」
『『グガガアアアァァッッ!』』
二匹のヘルハウンドは同時に炎を吐く。
細い道に吹く二つの炎。避ける方法は無いと思っていたが。
「ぐっ!!」
下に炎が吹かれていない隙間があり、僕はスライディングして避けながらヘルハウンドへ近づいていく。
『『グガァァッ!?』』
「せやあああああぁぁぁぁっっっ!!」
一気に距離を詰められて焦ったのかヘルハウンド達は炎を消し、爪で僕を迎え撃とうとする。だが、遅い。
二本のナイフを一匹のヘルハウンドの頭に深く突き刺す。絶命したヘルハウンドは灰になり消えていく。それと同時に、ボロボロだったナイフもついに使い物にならなくなる。
「くっ……」
もう一本のナイフを利き手に持ち替えたその時。
『グガガガアアアァァァッッ!!』
「ぐああっ!?」
鋭利な爪で左腕を切り裂かれた。
左腕から血が垂れ流れていく。痛みで左腕はもう使えそうにない。
『グガアアアアアァァァァッッッ!!』
「ぐっ!!」
もう一度、鋭い爪で攻撃を仕掛けてきた。
ナイフで攻撃を防ごうとしたが、ヘルハウンドの方が力は上。力負けし、僕は軽く吹き飛ぶ。
地面に転がり、衝撃で立ち上がれなくなっていた。
「うっ………!」
こんな所で死ぬのか?
否。死ぬわけにはいかない。
だったらどうする?
立ち上がるんだ。目の前にいる敵を倒す為に。
「ぐっ……! うおおおおぉぉぉぉっ!!」
僕は自分自身を奮い立たせる為に叫び、無理矢理立ち上がる。
口から血が垂れる。なんて貧弱な体なんだ。
悔しい。
貧弱で、軟弱。
そんな自分が情けなくなる。
変わりたい。こんな自分から、強い自分へと。
目指すべき姿は英雄。誰もが憧れる英雄。
「………。」
次で終わらせる。
右腕を前に出すように構える。
相手も同様。この一撃で狩るつもりでいるらしい。
足をゆっくり加速させていく。
「はああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」
『グガガガアアアァァァァァァッッッッ!!』
互いに雄叫びを挙げ、全力疾走で敵を迎え撃つ。
『グガアアアァァッッッ!!』
「うっ……」
ヘルハウンドは大きく口を開き、こっちへ飛びついてくる。だが、僕は咄嗟に横に回り込み、胴体にナイフを突き刺した。
「ふはあああああああぁぁぁぁっっっ!!」
強く。もっと強く。心臓に届くまで。
『グガガガアアアァァァッッ!!』
ヘルハウンドは灰となり、消滅した。
「………。」
一瞬倒れそうになったが、なんとか踏みとどまる。
勝てた。Eランクで最も強いとされるヘルハウンドを二匹同時に倒す事が出来た。
「うっ……。」
視界がぼやける。おそらく左腕の出血が原因だろう。
僕はバッグから包帯を取り出し、左腕に巻きつけ止血を試みる。
「ぐっ……!」
傷が痛むがなんとか成功した。バッグからポーションも取り出し、一気に飲み干す。
「……今日はもう帰るか。」
僕はまだ完全に治りきっていない体を動かし、地上へと目指して行く。
その道中、ゴブリンなどプランターなどと言うEランクの中で弱いとされる魔物が僕を襲ってきたが、ヘルハウンド二体に比べてたいした事は無かった。
「や、やっと地上に着いた。」
ダンジョンに続く階段を登り切る。だが、体力も限界を迎えてしまった。
「うっ………。」
入り口の少し先で僕は倒れてしまった。
まずい……。こんな所で倒れていたら魔物に襲われる。
『グギアァァッッ!!』
「–––––ご、ゴブリン。」
最悪の状況が起こってしまった。
こんな無防備に状態で魔物に遭遇してしまうなんて……。
『グゲッ』
ゴブリンは凶悪な笑みを浮かべながら、こっちへ近づいてくる。
『グガアアアァァァッッ!!』
「くっ!!」
ゴブリンが棍棒を振り下ろそうとしたその瞬間。
『グ、グガッ!?』
ゴブリンの体がいつの間にか細切れになっていた。
傷の隙間から血が噴き出す。そしてゴブリンの後ろ誰かが立っている事に気づいた。
太陽に照らされて輝く金色の髪。宝石のような綺麗な赤い瞳が印象的な少女だった。
「大丈夫……アレス?」
「え、エリスちゃん?」
その少女の正体は僕の幼馴染エリス=アスタリアだった。
「どうしたの?」
「––––––––。」
また、助けられた。
「アレス?」
「あっ。」
僕は見上げるようにエリスちゃんの顔を見る。
「……どうしたの。」
「それはこっちのセリフだよ。」
「–––––ダンジョンに潜っていた。」
「そう。頑張ってたんだね。」
「………まだまだ足りないんだ。」
「えっ?」
僕の声にエリスちゃんは少し驚いたような表情をした。僕の声にはほんの少し怒りが混じっていたからだろう。
僕はふらりと立ち上がり、エリスちゃんを見つめる。
「これだけじゃ足りないんだ。」
「足りない?」
「……君に追いつくにはまだまだ足りないんだ!」
「私に?」
「僕は追いつきたいんだ。君に。エリスちゃんに。」
「そう、だったんだ。」
言ってしまった。本人に。エリスちゃんに。
本当は言うつもりは無かった。でも、気持ちが昂っていたからか、口を滑らせてしまった。
「でもなんで?」
「君が遠くに行ってしまった気がしたから。気持ち悪いと思うけど、僕はそれが嫌なんだ。」
「………。」
エリスちゃんは何も言わずに話を聞いてくれる。
「……僕は君の隣に立ちたい。憧れのギルドに入団したい。だから、僕は強くなりたい。」
「………うん。待ってる。ずっと待ってるよ。アレスがここに来るまでずっと。」
待ってる。
エリスちゃんは待ってくれる。だから、僕は走り出そう。君に追いつく為に。君の隣に立つ為に。
「僕、強くなるよ。」
もう一度。今度は決意を込めて言葉を口にする。
エリスちゃんは何も言わずに微笑んだ。
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