第4話 遠すぎる距離

「れ、レベル4!?」


 ダンジョンから帰還した後、僕はすぐさまステータスカードを確認するとレベルが4になっていた。


「た、たった一日でレベルが上がるなんて……。」


 ヘルハウンドを倒した後にもさまざまな魔物を倒していったから経験値が溜まったのだろうが、それでも一日で上がるとは思っていなかった。


 レベル以外にも僕はステータスも確認する。


 アレス=ガイア Lv4


 力E+(12)

 耐久E(10)

 敏捷E+(14)

 技能D(25)

 魔力E(0)

 不幸E+(14)


 スキル

 蒼眼


 魔法

 無し


「よかった。不幸は上がってない……。」


 むしろ下がって欲しいが、そこは我慢しよう。


「それにしても……。」


 僕は自分の目蓋に触れる。


 この青い目。この世界では青い目は珍しいらしいけど、その目がスキルになるなんて思わなかった。


 蒼眼。あらゆる状態異常を無効にする。


 このスキルは冒険者をやり始めた時からあった。

 地味に見えるが凄く心強いスキルだ。


「これが無かったらとっくに死んでたかも……。あ、まだ、状態異常を与える魔物に会ってないな。」


 僕は一人で苦笑した後、ベッドに倒れる。


「………それにしても。」


 エリスが冒険者になっていたとは。しかも、最強ギルドと呼ばれているアストライオスに入ってるなんて。


 五年前までは身近にいた幼馴染だったのに、いつの間にか遠い存在になっていた。


 僕もいつか……エリスちゃんみたいになれるかな。




 ***


「アシアさーん!!」


 冒険者窓口。そこでアシア=アルゴスはいつものように仕事をしていると、聞き慣れた少年の声が遠くから聞こえてきた。


「アレス君?」


 アシアは走ってこっちに来てくるアレスを確認し、首を傾げる。


(何かあったのかな?)


 そう思っていると、アレスはアシアがいるカウンターに到着する。


「僕、昨日レベル4になりました!」

「–––––えっ!?たった一日で上がったの!?」

「はい!ダンジョンに行って頑張りました!」

「ダンジョンに行ったの!?」


 驚きが止まない。


 たった一日でレベルが1も上がった事。アレスがダンジョンに行った事。


「………アレス君。私との約束破ったね?」

「あっ。」


 以前、アシアはアレスにダンジョンは危険だからレベル5以上になってからじゃないと行ってはいけないと約束したのだ。


「す、すみません!!昨日、いろんな事が起きて頭から完全に抜け落ちていました!!」

「いろんな事?何があったの?」

「えっとですね––––––。」


 アシアはアレスの話を聞いた。


 いつもの狩場より奥に行った事。そこでマンティコアに出会ってしまった事。幼馴染、そしてアストライオスの団長ヴァレス=ライオットに出会い、ギルドの入団を許可してもった事。


「確かにいろんな事が起きたんだね……。」

「はい……。アストライオスギルドに早く入団したくてがむしゃらになってました。」

「………」


 アシアは黙り込む。目標の為に走り始めたアレスを応援するべきなのか、やはり危険だと止めるのか……。


「––––––行くのは許可するけど、ほどほどにね?」

「はい!ありがとうございます!!」

「はぁ……。」


 自分の甘さにため息が出る。アレスには死んでほしくないけど、頑張って冒険してほしい。そんな矛盾を抱える。


「あっ、そうだこれ。換金してください。」

 

 何か思い出したような顔し、アレスは大きな袋をカウンターに置いた。


「これ、全部ドロップアイテム?」

「はい。ダンジョンで戦ってると結構溜まりました。」


 アシアは驚きながら、袋を開ける。


「えっ!これ、本当にアレス君一人で集めたの?」

「はい。」

「本当に頑張ったんだね。」


 袋に入っていたドロップアイテムは一個や二個ではなかった。少なくとも十個以上はあった。


「おかげで家に帰って来たのは深夜ですよ。」

「もー。ちゃんと夜になったら帰るんだよ?」

「あはは。すいません……。」

「まぁ、とりあえず、換金をしてくるからちょっと待っててね。」

「はい。」




 ***


「明日だよね。キングラムに行くの。」

「うん。そーだよ。凄い楽しみ!」

「……寂しいな。」

「ん、なんで?」

「………離ればれになるから。」

「ならないよー。」

「えっ?」

「心が繋がってるじゃん。」

「–––––––そ、そうだね。」

「…………。」

「…………。」

「………。」

「–––––僕も、行くから。」

「えっ?」

「僕も必ず、必ず王都に行くから!だ、だから、待ってて!!」

「……うん。待ってる。」



 ***


「んっ………。」


 誰かに肩を叩かれている事に気づき、ゆっくり目を開けていく。


「あっ、やっと起きた。」

「んん。アシア……さん?」


 僕は、寝ていたようだ。


 目蓋を擦り、何度か瞬きをする。


「良い夢見れた?」

「………懐かしい夢なら。」

「懐かしい夢?」

「はい。五年前、エリスちゃんと一緒にいた頃の夢です。あっ、エリスはさっき言った幼馴染です。」

「……エリス?」

「ん、どうしたんですか?アシアさん。」


 アシアさんが驚いた表情でエリスの名前を呟く。もしかしてエリスちゃんの事を知っているのかな。


「確認だけど、エリスってエリス=アスタリアの事だよね?」

「はい。やっぱり、エリスちゃんの事知ってるんですか?」

「知ってる。と言うか、エリスさん、凄い有名人なんだよ?」

「えっ?」


 エリスちゃんが有名人?確かに、有名なギルドに入ってるけど、彼女自身が有名?


「たった二年でレベル40まで上り詰めたんだよ。冒険者の間では記録姫レコードクイーンや最速の美女とまでも呼ばれている有名人だよ。アレス君、凄い幼馴染を持ってるんだね。」

記録姫レコードクイーン。最速の美女………。」



 絶望した。圧倒的な距離に。


 僕がどう足掻いても埋まらないと思えてくる、とてつもない距離に。


 自分と彼女とはここまでの差があるのか。


「ん?どうしたの。アレス君。」

「えっ、あっいや、なんでもないです。」


 不思議に僕を見つめてきたアシアさんの目を逸らし、今の状況を思い出す。


「……そうだ。報酬は?」

「ああ。はいこれ。1500ベル。」

「せ、1500。僕が受ける依頼より高いぞ……。」

「強くなってきてる証だよ。」

「強くなってきてる証……。」

「そうだよ。だから、あまり気にしすぎちゃ駄目だよ?エリスさんとは二年の差があるんだから。」


 でも、彼女はたった二年でレベル40にまで上り詰めた。それに対して僕は四ヶ月経ってようやくレベル4だ。


「………そうですね。それじゃあ、今日は帰りますね。」

「うん。帰った後は何するの?」

「–––––ちょっとダンジョンに潜ろうかなって思います。それじゃあ、さようなら。」

「あ、ちょっと待って。 ––––––あまり無理をしないでね。」

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