第3話 新たな目標
王都に着いた時、僕は気づいた。
「これ、武器にしようと思ったけどお金が無いんだった。」
武器を作ってもらうのにもお金がいる。常に金欠の僕にとっては武器を作って貰えるなんて夢のまた夢だな。
「お金、無いの?」
「……恥ずかしい事に。」
「なら、僕達のギルドに寄ってみないかい?そこには鍛治師がいる。なんとか無料で作って貰えるか聞いてみる。」
「え!?そんな、いいんですか!?」
「もちろん。マンティコアの爪なんて珍しい物、あんまり見ないし、興味ある鍛治師もいると思うしね。」
ほんと、今日はこのギルドに助けてもらってばかりだな。ありがたいよ。本当に。
「………やっぱり遠慮しておきます。ちゃんとお金を稼いで作った方が達成感があるし、愛着もわくと思うんです。だから、この話は無かった事にしておきます。」
「………そうか。君は本当に偉いな。」
「そんな事ありませんよ。……ちなみに武器を作るのにどのくらいのベルが必要なんですか?」
「うーん。確か十万ベルぐらいは必要かな。」
「じゅ……十万ベル………。」
「あはは。やっぱり頼むかい?」
「い、いえ。その方がやりがいがあっていいです……。」
「そうか。まぁ、頑張ってくれよ。アレス君。」
「は、はい……。」
苦笑しながらそう言う。
もっと強くなって、もっと働かなくちゃな。
「それで、これからアレスはどうするの?」
「うーん。一度家に帰ってこの爪を置いてからまた外に行って、ダンジョンに行ってみようかなって思ってる。」
「そう。頑張ってね。」
「うん!」
そうして僕は解散して二人から離れようとしたが、やり残した事が一つあった。
「ヴァレスさん!」
「どうしたんだい?」
「あ、握手お願いしてもいいですか?」
「うん。いいよ。」
僕とヴァレスさんは握手を交わす。
「それじゃあ、失礼します!」
手を離してお辞儀した後、今度こそ家に向かった。
新たな目標が二つも出来た。
マンティコアの爪を使って武器を作る。
強くなってアストライオスのギルドに入る。
この目標を成し遂げる為に僕はもっと強くなりたい。
***
一旦家に帰り、爪を置いた後、僕はまた王都の外に出ていた。
「初めてダンジョンに行くけど大丈夫かな……。」
ダンジョン。それは古代の人間が地下に作った要塞。誰にも使われなくなったその要塞は魔物の溜まり場となり、それを狙った冒険者の狩場ともなっている。
王都の近くに一つのダンジョンがある。そこは推定Eランクとされており、魔物は低レベルでも倒せる者達でビギナー達の狩場となっている。
今までゴブリンにすら苦戦していた為、ダンジョンに挑戦する事を控えていたが………。
「よし、行くぞ………。」
自分を鼓舞するように呟き、ダンジョンに入って行く。
地下へと続く階段を全て降りきると、細い道が三つに分かれていた。
ここは既に攻略されたダンジョン。僕はこのダンジョンの地図を確認し、真ん中の道へと進んで行く。
「っ!!」
その時、前方から凄まじい速さでこっちにやって来る一つの影があった。
その影は僕の後ろに行くのを確認した後、振り向いて影を確認する。
「………こ、これがヘルハウンド。」
紅い狼。口から炎を吐き、相手をじわじわと炙ってから食べるらしい。Eランクの中でも最も強いとされている魔物だ。
「勝てるか……?」
いや、勝てるかどうかじゃない。
勝つんだ。勝つしかないんだ。
「うおおおぉぉぉぉぉっっっーー!!」
ナイフを構えてヘルハウンドに立ち向かう。
「ぐっ!?」
ヘルハウンドは口から炎を吐き出す。
右肩に少し当たったが、躱す事が出来た。
「せやああぁぁぁっ!!」
再びヘルハウンドが攻撃を仕掛けてきたが、体を回転させる事で回避し、その勢いと共にナイフをヘルハウンドに突き刺した。
『グガアアアァァァッッ!!』
ナイフをもっと深く刺そうとしたが、ヘルハウンドの抵抗力は凄まじく、ナイフと共に吹き飛ばされてしまう。
「ぐっ」
壁に叩きつけられ、地面に膝をつける。
諦めるな。足掻け。立ち上がれ。
自分に言い聞かせ、僕は血を吐きながらも立ち上がる。
ナイフを握りしめ、目の前にいる敵を睨む。
「はああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」
ヘルハウンド目掛け豪快に走り、ナイフを前に突き出す。
『グギガアアアアアァァァッッ!!』
ヘルハウンドは口を大きく開け、炎を吐き出す。
逃げるな!避けるな!!勢いを消すな!!
左手で顔を炎から防ぎながら炎の中を走り抜ける。
体中が熱い。でも、今はそんな事どうでもいい。
この一撃で決める。
ヘルハウンドの炎を振り切った僕はナイフを脳天に突き刺す。今度は抵抗出来ないように強く。
ヘルハウンドは断末魔か雄叫びかはわからないが咆哮し、やがて灰になって消えていく。
「た、倒した………!」
Eランクの中でも強いとされる魔物を倒した。
だが、倒した代償は大きかった。
「ぐっ!」
全身に高熱の炎を浴びた為、火傷が酷い。
バッグに入れていたポーションを二個取り出し、全て飲み干す。
火傷は少しずつ消えていき、少しはマシになった。
その時、前と後ろから足音が聞こえてきた。
「……二対一か。」
現れたのは棍棒を持ったゴブリンだった。
––––––大丈夫だ。僕なら勝てる。
瓶をポーチの中にしまい、僕は再びナイフを構え、吠えた。
***
ギルドに帰った後ヴァレスは自室に戻り、今日出会った少年を思い出して微笑していた。
(アレス=ガイアか。)
ギルドの入団を許可し、マンティコアの爪を武器にする為のお金を貸そうとしたが、全て断り、自分で叶えようとしていた。目指すべき目標として。
(目標を持ち、それを叶える為に走り続ける者は強くなれる。身体だけじゃない。心もだ。)
コンコン。
扉の向こうからノックの音が聞こえた。
「どうぞ。」
入室を許可するとゆっくりと扉が開かれて行く。
「ゼルドか。どうしたんだ?」
現れたのはこのギルドでもトップクラスの実力を持つ青年。ゼルド=バートムだ。
「暇だから話しに来た。」
「………君はいつまでクール系を演じているんだい?」
彼、ゼルドはみんなからクール系と言われている。だが、本当はそんな事は無く、話すのが好きなのだが、みんなのイメージを保つ為に、クールに演じて続けている。ヴァレスを除いて。
ヴァレスには本当の自分を知られている為、たまにこうして、話し相手を求めてヴァレスの部屋へとやって来るのだ。
「………。まぁいい。今日、エリスの幼馴染の少年に出会った。」
「エリスの?そいつはどんな奴だったんだ?」
ゼルドは興味ありげにそう聞いてくる。ヴァレスも「あぁ」と言い、
「真面目な子だったよ。僕が救済を与えようとしても、自分の力でどうにかすると断った。見た所、まだまだビギナーだけど、あの子は強くなるよ。」
「………エリスと同様、随分その子を買ってるようだな。」
ゼルドは微笑し、そう言う。
「あはは。まぁね。あの子、このギルドに入団するつもりらしいから、その時は可愛がってやってくれ。」
「このギルドに?……そうか。わかった。その時になったら戦い方でも教えてやるか。」
「うん。頼んだよ。」
「あぁ、それで、その子の名前は?」
「アレス=ガイア。」
「……覚えておこう。」
そうしてアレス=ガイアの話題は終わったが、二人の雑談はまだ続いた。
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