第38話 タイムリミット
――放課後。
ようやくこの時が来た。
俺の片想いに決着をつける時がついに訪れたのだ。
俺は屋上に一人来ていた。
後は武藤がさりげなく俺の想い人を連れて来てくれる手筈となっている。
クラスで俺が声をかけ、変に周りにかいくぐられても嫌だからだ。
ちなみに俺がクラスを出る時は二人共まだ帰りの荷物の準備をしていた。
その為、そこから武藤が声をかけて誘導となるともう少し時間が必要な気もする。
そうなるともう少し待たないといけないのか。
あーなんだか急にドキドキしてきたなぁー。
だけどこればかりは慌てても仕方がないと思い、大人しく待つことにする。
あー緊張もしてきたなぁー。
さっきから心臓の鼓動がバクバクしているし手に変な汗をかきはじめた。
流石に最後まで緊張せずに事を成し遂げることは無理なようだ。
なんたって今からの結果次第でこれからの学生生活がピンク色か黒色かに決まるのだ。
そう考えると幾ら準備していても無理がないといえる。
落ち着け、落ち着け、落ち着け。
お前なら出来る、お前なら出来る、お前なら出来る。
自分に言い聞かせながら大きく深呼吸を三回して心を落ち着かせる。
俺が今本当に好きな相手はただ一人。
だけどそれは比べる相手がいたからこそ、この想いにしっかりとたどり着いたとも言える。まずは心の中で二人の女の子に会えた事に感謝した。そしてこんな俺にチャンスをくれていつも向き合ってくれたことにも心の中で感謝した。後はその期待に答えるだけ。残念ながら一人しか選べない。だけどそれでいい。その後の関係は神のみぞ知ると言った所だろう。
だって成功するかすらまだわからないのだから。
あくまで成功する確率が高いってだけ。
それを頭の片隅にしっかりと入れておく。
ここで油断してぼろを出しては全てが水の泡となると思い、緩んだ気を再度引き締める。
一人心のどこかで不安になりながらも空を見上げてみる。
すると朝は快晴だった空が今は夕暮れで徐々に光を弱くしていた。
だけれども今の俺には太陽の陽がそれでも眩しかった。
告白それは人生の一大イベント。
俺もこんな時だからこそ胸を張り、太陽のようにどんな時も堂々としないといけないのだろう。そんな気持ちに何故かなってしまった。そう今だけでもいいから想い人をしっかりと振り向かせて輝かせられる太陽に俺はならないといけない。女の子はよく花に例えられる。だとしたら男は花を輝かせる太陽と言った所なのではないだろうか。そして俺は想い人の太陽――彼氏に今日なる覚悟を決めた。後は沢山ある太陽の中から俺を選んでもらうだけだ。
とても静かだ。
放課後誰もいない屋上。
時折吹く風がちょっと肌寒いけど、これはこれで緊張で体温が上昇した俺には心地よかった。
全身で太陽の陽と風を浴びる。
そうして人が必死に気持ちを落ち着かせているとスマートフォンが鳴り始めた。
「……ったく、誰だよ。人がリラックスして――」
俺はスマートフォンの画面を見た時、戸惑いを感じてしまった。
嫌な予感がする。
そう思わずにはいられなかった。
こう言う時の嫌な予感ってのは大抵当たるからだ。
だけど出ないわけにはいかない。
「もしもし?」
俺は不安を胸に抱えながらスピーカーの向こうにいる相手に向かって語りかけた。
『緊急事態発生だ』
この状況で?
スピーカーの向こうの相手は武藤だが、声だけでもわかる。
これは冗談で俺をバカにしたりからかっている時の声のトーンではない。
本当にマズい事がなにか起き、切羽詰まっている時のガチのトーンだと。
「どうした?」
俺は最悪の事態を想定しながらも、それだけは勘弁してくれと心の中で願い質問をする。
せめてもう帰っただけはマジで頼むから勘弁して欲しい。
これは武藤にも黙っているが、実は昨日緊張して満足に寝れなかったのだ。
ここまでのコンディションを作るのもそう簡単ではないことから今日を逃せばしばらく俺の告白一大イベントはやってこない。と言うかメンタル面の負担からすぐには出来ない。告白とはそれだけパワーを使う特別な行動なのだ。
『いいか、落ち着いて聞け』
「わかった」
『江口と福永が前代未聞の行動にでた』
「具体的には?」
『二人で今教室を出たんだよ。それも話しながらだ。話しの内容は聞こえた限りだが江口が友達として誕生日だから福永に美味しいご飯を奢るとかなんとかだ。どうする?』
「えっ!?」
俺の頭は想定外のパターンについていけなかった。
今まで三人で帰る事はあってもあの二人がお話しをしながら一緒に帰ることを一度もしなかったからだ。
『この際二人共屋上に呼ぶか? それとも強引に一人だけ呼ぶか?』
そうあくまで俺と武藤が考えていた作戦行動ではさり気なくが基本だった。
それから二人きりの時間を作り告白。
これがあくまで今日のシナリオ。
だけどここで武藤が二人の間に入って話しかければ俺と武藤の関係から二人で来てしまう気しかしない。そうなると告白が本当に上手くいくのかと言う不安が一気に大きくなる。
一人一人を相手にするのならばまだしも、二人の前で告白をして、片方だけを選ばせて頂くこれはある意味俺の中では修羅場でしかない。
これが友達で三角関係の相手とかじゃなければまだ問題がないのだが、俺と福永と江口の三人に限ってはそう上手い話しにはならないのだ。なぜなら恋のトライアングルを既に形成してしまっているからだ。
『今日は止めて、後日仕切り直すか?』
「いや、告白は今日しかない」
『わかった。なら俺は今からどうしたらいい? 友達としてこうなった以上最後まで協力してやる』
「助かる。十秒でいい考える時間をくれ」
『わかった。でも早くしろよ。でないと本当にゲームオーバーになっちまうからな』
「あぁ、言われなくてもそれぐらいわかってる」
俺はそう言って、脳をフル回転させる。
この状況、どうすればいいのか。
何が正解で不正解なのか。
そもそも福永と江口の仲を見誤った以上、俺にとって最良の選択肢は消えた。
この期に及んでまだ弱虫な俺は怯えていた。
いい加減この弱虫も卒業しないといけないよな……。
「仕方がない。こうなった以上俺が男を見せるしかないだろうな」
俺は覚悟を決めた。
『なら二人を屋上に呼ぶでいいんだな?』
武藤が最終確認をしてくる。
「いや、逆だ。二人が校舎を出たら教えてくれ。俺のありのままの気持ちをこうなった以上二人にぶつける。もう俺は迷わねぇ」
『そうか』
武藤が察したように返事をした。
流石武藤だ。俺の気持ちを察してくれたらしい。
『なら場所が違う。いいか、屋上から愛を叫ぶ。現実でやってみろ、本当に声が下まで届くと思うか? 風が強ければ声は下まで聞こえない』
「たしかに……」
『だから今から××に来い。俺がお前を男にしてやる』
「わかった」
俺はスマートフォンを学ランのポケットに入れて、武藤が指定した場所へと急いで向かった。
どうやら俺も焼きが回ったらしい。
だけどな恋の神様、お前に一言先に言っておくぞ。
俺は今日男になって、ぜってぇ今日の事を後悔しねぇと!
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