第29話 幼馴染の特権は強力な武器 後半
「私じゃ不満?」
「いえ……」
「なら今の感想聞かせて。本音で」
「超柔らかくて、気持ちいいです……」
「それだけ?」
「幸せです」
「ならさ、教えて。このまま私を抱きしめたらもっと身体で感じられるけどどうしたい?」
ゆっくりと言葉を紡ぐ福永。
顔が真っ赤になった福永もやっぱり可愛い。
それに頬の熱が――福永の胸を通して伝わってくる熱が――全身の熱が熱くなっていく。不快じゃない。むしろここまでダイレクトに好意を伝えられて、気分が異常に高揚している。
沢山の感情が生まれてはそれがごちゃ混ぜになっていく。
……まずい。
俺の理性が今まで周りの目を気にして素直になれなかったと判断し始めた。
それと同時に……。
福永が女の顔になっている。
甘い吐息がやけにいやらしい。
福永ってこんなに魅力的な女性だったけ……。
まて、まて、まて、俺は童貞を今まで守り続けてきた男だぞ!
こんなラブコメみたいな展開に簡単にやられるはずがない……はずなのに。
やっぱり俺も男だったってわけか。単純だろ、もう一人の俺。
「どうしたの? 理性が邪魔なら本能に従っていいんだよ?」
「さよ……俺ヤバイかも。もう我慢……」
「責任さえ取ってくれるなら私の身体を好きにしていいよ……」
落ち着け、落ち着け、落ち着け。
俺の理性が人生史上最大レベルで本能を抑えようとするが無駄に終わっていく。
本能……なんて凄い強敵なんだ。
そうだ、とりあえず目を閉じよう。
男は目で見て興奮するんだ。
視界が五十五%ならば視覚情報を断てばなんとかなるはずだ。
すると福永から腕に力を入れて身体を密着させてきた。
「もうさ、なんでそうやって我慢するの。私ずっと待ってるんだよ」
「……そりゃ――」
最後の力を振り絞って、紳士を演じる俺に追撃がきた。
ペロッ
「ひぇ、はぁ、ふぁい?」
意地悪をしてきた。
俺の耳をそのいやらしい吐息をかけながら、舌で舐めてきたのだ。
「大好きだよ、湊」
心理的にどんどん攻撃を仕掛けてくる福永に対して、俺の心は防戦一方になり、これでもかと超ド級の一撃を次から次へと放ってくる福永に俺の理性はもう八割以上が吹き飛んでいる。だけど湧いてくるのは怒りではなく、戸惑いばかりだった。
俺の恋のペンデュラムはまだ揺れる事をやめていない。
あーもう、こうなったら、俺も男だ。
俺の本心をぶつけてやる!
俺は閉じていた目を開ける。
「あーもう! そんな事をするからさよの事が可愛いく見えるし、好きになってしまうんだろ! それに内心めっちゃ嬉しくてその唇を今すぐにでも奪ってやりてぇとか思っている俺最低だろ!? もうこの際だからハッキリ言うけど俺の中でさよの好感度が今超々昇竜拳状態なんだぞ! だからゆーちゃん一途だった俺が今さよに心が超揺れてるの! 本当は俺の事色々とわかってんだろ!? このままいけばどうなるかも……」
福永は目を丸くして何度か瞬きをした。
そのまま過去最高に顔を赤くして黙ってしまった。
「……ごめん、言い過ぎた」
なんでそこでさらに照れちゃうの。
あーもう福永ズルいんだよ。
「意地悪してごめんね。でもありがとう」
「…………」
「湊の気持ちそれも本音の部分が聞けて私とても嬉しい」
ちょっと気まずい雰囲気になりながらも福永が俺の目を見て照れくさそうに言ってきた。
もうなんて言うかさ、お互いに本音駄々洩れだな。
でも福永となら別にそれならそれでいいかと受け入れられる俺がいる。
「はい、これ素直になったご褒美」
福永の柔らかい唇が俺のオデコに触れた。
それから俺の首に回していた腕が離れていく。
「あー顔真っ赤になってる。可愛いね。でもこれじゃちょっと物足りないんでしょ?」
「……っう!?」
俺の本心を見抜いたように呟く福永。
「なら付き合うのは気持ちが固まってからと言うことで既成事実作って気持ち固めてみる? そしたら全部解決するよ。湊の欲望の全部をこの場で私が受け止めてあげてもいいんだよ。ちなみに今日は危険日だから既成事実はほぼ百パーセント成立するよ」
ぶっ! 俺は思わず吹き出してしまった。
「はいぃぃぃぃぃぃぃ!?」
「だって私達男と女じゃん。勢いでやっちゃってもなんも不思議じゃないし、それに初めての相手が湊ならいいかなって」
「やばい、やばい、それをしたら俺がさよにゾッコンになってしまうかもしれないから……」
「なったらダメなの? 女の子がここまで誘っているのにまだ我慢するの?」
福永が挑発的に寝間着の上着の第二ボタンまでをあけて誘惑してくる。
さっき俺の身体にあてた、大きな胸の谷間がほんの少しだけ姿を見せた。
そして俺の視線を惹きつけてしまう。
もう一度福永の顔を見れば、いつの間にか目が完全に据わっているではないか。
福永は福永で色々スイッチが入っていたみたいだ。
俺は本心に正直になりたい一方で大切な存在だからこそ、その場の勢いだけではやっぱり出来ないのだともう一つの本心そして理性の気持ちを優先した。
「もしこのまま勢いに任せたら後戻りできなくなるよな……」
「たぶんね。でも人間はおろかな生き物だから。後先考えないことだって時にはあるよ」
「……さよ?」
「まだ後先の事考えているの? やっぱり私じゃ……だめ……なの?」
これは完全に超攻撃的な甘えん坊福永の全力攻撃で間違いない。
そしてそれが自分でも制御できない諸刃の剣でありながら乱用した結果、福永の理性が制御不能になり本能に支配されたのだろう。
その時だった。
――武藤から電話がかかって来た。
その音に福永がハッと我に返り、俺のスマートフォンに鋭い視線を向けて舌打ちした。
そのまま頬を膨らませて言う。
「ちぇ~、後数分で落とせたのにー」
なんとも理不尽な怒りが武藤へ向けられた。
――すまない、武藤。
お前後日さよに殺されるかもしれないが、おかげで俺は助かった
と心の中でお礼を言った。
そんな中お怒りモードの福永は俺に電話に出ていいよと言うといつもの甘えん坊になって俺の手を頭に持っていって「撫でて」と言ってきた。
それから純粋な目で俺をチラチラと見ては視線を逸らして繰り返して終始ニコニコしていた。
電話が終わる頃には。
男、武藤。
――避雷針の素質あり! と俺の中で武藤への信頼度が少し上がった。
「終わった?」
「あぁ」
「なら私帰るね。おやすみ、湊」
「あぁ、気を付けてな。お休み、さよ」
「ばいばーい!」
福永は俺に手を振って部屋を出て行った。
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