第三章 美女の過去と宣戦布告

第26話 三人での食事


 俺の片想いの相手二人が満足した所で俺達のお出掛けが終わり帰宅した。

 一人ぼっちとなった俺は学ランを脱ぎ、部屋着に着替える。

 それからスマートフォンに付けたばかりのストラップをちょっとだけ眺めてみる。


「…………」


 やっぱり猫は可愛い。

 そう思いながら、部屋着のズボンのポケットにスマートフォンと一緒にいれる。

 それから部屋を出て階段を下りる。


「さて、後は夜ご飯だな」


 親は仕事の関係でいない。

 そんな事から本来であれば自分で作るか、コンビニで買ってくることで食糧問題を解決している。


「ルン、ルン、ルーン――♪」


 さてと財布も持ったし、コンビニでも行くか。

 と思ったその時、リビングから音が聞こえる。

 もしや、幽霊?

 いや、いや、いや、そ……んな……バカな……。

 ここは幻聴だと思い無視するか?

 だが無視するには……今も聞こえる音が気になる。

 一体何がどうなっている……。

 おかしい。


 そう思い俺は勇気を振り絞り目的地を玄関からリビングに変える。

 どうか幽霊ではありませんように。


 ゴクリ。


「……ってなんで二人が家にいるの!?」


 俺は思わず叫んでしまった。


「だって今日のお礼は夜ご飯って言ったじゃない」


「そうなると、湊の口に合うように私も必要でしょ」


 たしかに、その場合福永がいてくれた方が味への心配もなくなるから安心だ。

 なんたって俺の味覚を家族の次に把握してくれているからだ。

 って、あれ?


「でも……さっき俺家入る前に二人と別れたよな?」


「ん? あれはこういう意味だよね? 俺は一回部屋に行くからバイバイって」


「私も福永さんと同じ意見だけど?」


「……さよ、江口。本気?」


「「うん」」


 この状況。

 俺がおかしいのか。

 そんなはずはない。と思う。

 落ち着け。

 ってことで、まずは深呼吸。

 それから玄関の鍵を開けてからの状況を思い出す。

 たしかに俺は二人に手を振り、お別れの挨拶をしてから鍵を開けて玄関に入った。

 それから人の視線を背中に感じたが福永と江口が見送ってくれているかと思い無視――あっこの時か。人の気配がやけに背中に感じるなと思ったこの時に二人が家に上がったのか。って人の気配を感じている時点でめんどくさがらずに一度振り向けよ、オレ!!!


「ってことで部屋でくつろいでていいよ。ご飯できたら持っていくから」


「そうか、すまん。なら俺は……ってちがーーーーーーう!」


「湊?」


 聞きたい事と、確認したい事は沢山ある。

 だけどここは優先順位をつけて聞く事にする。

 でないといつまでも質問タイムが終わらない気しかしないから。


「いやご飯はありがたいけど二人共時間とか大丈夫なの?」


「うん。湊の家でご飯食べて帰るって言ったらお母さん「それならゆっくりしてくるといいわ」って言ってくれた」


「私は実家だけど今日も両親は帰って来ないから帰りは別に気にしていないわ。一応タクシーで帰るつもりだから帰りの心配も無用よ」


「でもお金とか……」


「私の本業は?」


「学生……」


「と」


「作家……あーなるほど。収入があるからってことか」


「そうゆうことよ。まぁ実家でほとんど使わないから数百万はあると思うわ。だから気にしないでいいわ」


 数百万って……一体どれだけ持っているんだよ。

 これが高校生にして社会デビューと同時に成功した作家様の人生なのか。

 正直羨ましい。

 よくよく考えてみたら作家の収入がいくらが相場なのかは知らないが、デビュー作で重版までしていたらかなりの収入になるのだろう。そこに新人賞の賞金も合わせれば随分と現実味のある金額だなと思った。


「それより有難く思いなさい。私の手料理を食べられるのはみーくんが初めての人よ」


「……江口?」


「あっ……」


「みーくんってなに?」


 福永の冷たい声に江口が慌てて口を閉じるが既に遅かった。


「わかったから、全部話すからその目止めて。怖い……」


「本当に?」


「うん。そもそもみーくんともその約束を福永さんが『アイリス』に夢中になっている間にしたのよ。すっかり忘れていたけど……」


「なら聞かせて」


「わかった、わかったから、怒らないで。別にやましい関係とかではないから」


「ならどうゆう関係?」


 どうしても気になるのか鋭い視線を向けてくる福永に江口が口を割る。

 と言うか実は俺も気になっていたのだが。


「そもそも福永さんまだ思い出してくれないの? 私と小学校一緒だったのよ?」


「えっ……うそ」


「噓じゃないわ。福永さん小学生の時に上条君の事をみーくんって呼んでいた女の子が一人いたの覚えていないかしら。短髪で黒髪。口が悪くて愛想の悪いいじめられっこの女の子の事よ」


 その言葉に福永が手を止めて何かを考え始める。

 それを見た江口が素早く火を止めて鍋に蓋をする。

 その間に福神漬けの用意を済ませる。

 口を動かしながらも手を休めることのない江口。

 すると。


「あっ! 一人いた。いつも湊を横取りしてた泥棒男装女子猫だ!」 


 なにかを思い出したように声をあげる福永。


「へぇー、忘れられたあげく当時の私は泥棒男装女子猫って思われてたのね。いつも私がみーくんに近づくと嫌な顔をしていた理由ようやくわかったわ」


「あっ……もしかしてご本人様ですか?」


 急に申し訳なさそうに江口の顔色を伺いながら言う。

 だが時すでに遅し。

 初めて聞く悪口ネーミングに江口がイライラしているご様子。


「そうですが、なにか問題でもあるのかしら? 小学生の時から幼馴染大好きなふ・く・な・が・さ・ん♪」


「…………」


 福永は逃げるようにしてその場を走り去り俺の背中に隠れた。


「べ、別に私がいつから湊大好きでも関係ないでしょ!」


「そう? ならもう上条君のことは貴女の前でもみーくんって呼ぶわね。それとみーくん後で二人きりで昔の想い出話しでもしましょう? そこの性悪女でありながらこの私に対して泥棒男装女子猫呼ばわりする腹黒ヒロインは置いてね」


「う、うん」


 俺はついその場で返事をしてしまった。

 なんかいつもより声のトーンが一つ高かったせいか、福永が圧倒され黙りこんでしまった。

 だって料理に必要がないタイミングで包丁を持った相手には変に逆らったらダメだろ。

 そう意見を言うにも何事にもタイミングというものがあるのだ。

 だからこれは俺が福永を見捨てたとかそうゆうのではない。


 ただ今回に限っては非は福永にあると俺は思った。



 それから三人で食卓を囲み俺達は夜ご飯――カレーを食べた。

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