第25話 楽しむ三人、放課後の時間
「ごめんなさい。二人を待たせてしまって」
「べつに大丈夫だけど、江口ってアザラシ好きなのか?」
俺は視線をある一点に向けて言う。
「えぇ。私も女の子だから」
江口が微笑む。
その微笑はとても綺麗で可愛いかった。まるで太陽だなと思っていると、わき腹が痛み始めた。最初はそんなに痛くなかったが、徐々に痛みが強くなる。そして俺がわき腹を抓る福永の手を止めようと手で触れた瞬間最後の一捻りの痛みが俺を襲った。
「いてぇぇぇぇぇぇーーーー!」
「なに幸せそうな顔してるのよ。まったく……ばか、なんだから」
「すみませんでした」
隣で苦しむ俺を置いて福永が江口に言う。
「それでこの後どうするの?」
「先に聞いておいてあげるけど福永さん的にはこの後どうしたいのかしら?」
江口の言葉に福永が即答する。
「解散」
すると江口が俺と福永を交互に見て「わかったわ」と納得する。
俺は俺でようやくわき腹の痛みがなくなったことで一安心していたのだが。
「なら福永さんだけ解散ってことでいいわ。そうゆうわけだからここからは二人きりの時間を楽しみましょうか、上条君」
まさかの言葉に俺は驚き言葉を失い、福永は福永でどこか慌てたように反応する。
「ちょ、なんでそうなるのよ!」
「だって解散って福永さん自分から言ったじゃない?」
「そうゆう意味じゃない!」
「ならどうゆう意味? もしかして私と上条君の進展の早さに嫉妬でもしたのかしら?」
「ち、ちがうもん!」
「そうなの? 一応ほら自分でも見てみるといいわ、顔真っ赤よ?」
そう言って江口は制服のポケットから手鏡を取り出して、福永に今の自分の顔を見せる。やっぱり江口の方が一枚上手だなと俺は心の中で思った。それにしても福永が後手後手になる姿は姿で新鮮で可愛いからずっと見ていたいし、クールな江口は江口で心が惹かれるのでずっと見ていたい。それにプライベートの江口はなにより色々と新鮮である。
「意地悪しないで!」
「なら三人でもう少し楽しむってことでいいかしら?」
「わかった。それでどこ行きたいの?」
「ゲームセンターよ」
「「ゲームセンター?」」
江口の言葉に俺は福永の顔を見て助けを求めるが、どうやら福永も俺と同じ事を考えていたらしい。
そんな俺と福永を見て江口がクスクス笑い「似た者同士なのね」と言った。
それから。
「えぇ。ってことでゲームセンターに行きましょ」
と言葉を残して一人歩き始めた。
「あっ、待ってよー」
俺は少し戸惑いながらも二人の後ろをついて行く。
正直、江口がゲームと聞くとなんか似合わないと言うか、興味なさそうな感じしかしない。そもそも江口ってゲームと無縁ってイメージしかないんだが。
だけど、実際にゲームセンターに行くとその疑問はすぐに解消された。
「あれ可愛いわね」
「あー本当だ。可愛い」
「福永さん悪いけどお金渡すから取ってくれないかしら?」
「まさかの他力本願!?」
「だって私クレーンゲームしたことないから」
いやいや、笑顔で言いきることじゃないから江口。
流石の福永もこれには正直驚いている様子。
だがな、福永先に一つだけ言っておくぞ。
俺が驚くのはわかるが、福永が驚くのは正直間違っていると!
心の声を二人に伝えようか伝えない方がいいのかと俺が密かに葛藤していると。
「それなら湊に頼んで。私こうゆうの苦手だから」
それは、ちがう。
苦手じゃなくて……。
「いつも俺に取らせてるから自信がないの……ッ!?」
正しい言葉に訂正してあげようとした瞬間、福永が履いていた革靴で思いっきりそれも俺と江口の視覚外から俺の足を踏んできた。
――黙りなさい?
俺はその微笑ましい表情でありながら目だけが笑っていないことにすぐに気付いた。
それから福永の言いたい事を正しく理解し、目から零れてきた涙を我慢して幼馴染の可愛いお願いと言う名の実力行使に従うことにする。
「――ではなく、俺の方が慣れているからだな」
「よくできました」
福永が俺にだけ聞こえる声で言った。
そして、ようやく可愛い笑みへと表情が戻った。
よかった、どうやら正しい言葉を言えたらしい。
「そうなのね。なら上条君にお願いするわ」
「ちなみにどれでもいいの?」
「えぇ。贅沢は言わないわ。出来れば全種類の猫ちゃんを取って欲しいのだけれど一つでいいわ」
それから江口がお財布を取り出してお金を入れる。
ガラスケースの中は厚紙のタグに小さな猫のストラップが二つ付いた景品だった。
さて、取れるとは言っていないが。
取ってあげるしかないのだろう。
正直に言うなら状況はかなり悪い。
集中しろ、俺。
まさか好きな人二人からじっーと見つめられるとか普通あり得ないだろ!
結果は二つに一つ。
取るor取れない。
言い方を変えれば。
好感度アップ! or 好感度ダウン……。
手汗をズボンでサッと拭いて。
景品ゲットの穴に近い所で狙い目の猫を探す。
それから一見取りにくそうに見える猫に狙いを決めた。
それからクレーンを操作してピンポイントで狙った猫の頭上へとクレーンを誘導していく。
ぎゅ。
掴んだ。
と言うよりかはひっかけた。
「おっ……」
「凄い……」
二人が息を飲み込んだ。
「これは……」
猫一匹の頭をしっかりと鷲掴み状態にしたクレーンは穴へと向かっていく。
よく見れば、タグが絡み合い二つ(四匹)引き連れいているではないか。
「上条君はやっぱり欲張りさんなのね」
それはどうゆう意味だ。
ん?
なんで江口は自分に指を向け、福永にも指を向けているんだ。
「どうゆう意味?」
「違うの?」
小首を傾げる江口。
その眼はなにかを期待。
いや認めろと言いたいのか無言の圧をかけてくる。
「…………」
「あら、後ろめたいことがあるのかしら」
「そ、それは……」
「冗談よ。ほら見て。後少しでゲットできそうよ」
さて、どうなる?
いけるか……。
タグの絡み合い具合が緩く、一つが落ちてしまいそうだ。
頼む……。
欲張りではないが、ここは……。
クレーンが穴の上でアームを開く。
ぽとっ。
「よし!」
ガッツポーズをして喜んでいると、江口が早速手に入れた猫四匹を掴んでニヤニヤし始める。猫も可愛いが、江口も可愛い……。
「ありがとう」
「へぇー可愛いじゃん」
「一匹いる?」
「いいの?」
それから江口は四匹の内の一匹を福永に渡す。
「はい。大事にしなさいよ」
「ありがとう、江口さん」
「それと。はい、上条君にも一匹あげる」
「あ、ありがとう」
「これで皆お揃いね。私は二匹だけどね~可愛いわこの子達本当に、うふふ」
すりすり。
頬を猫二匹に擦り付けて幸せそうな江口。
学校での江口とプライベートでの江口は別人だなと思った。
誰が何と言おうとも、江口はただ綺麗なだけじゃない。と思う。
それから福永と江口はどこに付けるかを話し合い、スマートフォンのケースの小さな穴にリングを通してお揃いのストラップにしていた。
そのまま俺も二人の真似をしてスマートフォンのケースにある小さい穴へとリングを通す。よく見ればこの猫も結構可愛いではないか。
「湊どうかな? 私の猫ちゃん」
「うん、猫もさよも可愛い」
「本当? ありがとう」
そう言えば女子とお揃いの物を見に付けた事って初めてな気がする。
それも好きな女の子とお揃いってなんか幸せだな。
そんな喜びに俺が一人慕っていると福永が俺の手を掴んで言う。
「ほら、ぼっーとしないで。一緒に行こう」
それから俺達三人はゲームセンターの中を歩き回った。
その時に見た、福永と江口の笑みに俺の心はチクリと痛みを覚えた。
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