第24話 福永のカウンター、放課後の時間 後半
それから俺と福永は店内を見て回る。
「あっ、この手帳可愛い!」
「ウサギのやつ?」
「うん、こっちには犬と猫もあるよ」
「こっちにはストラップ」
「本当だ」
「どう似合う?」
「おっ、いいんじゃないか」
とても楽しそうに色々な物を手に取ってみる福永はとても楽しそうだった。
そう言えば江口置いてあちこち行ってるけど大丈夫かなと思い少し視線を周りに飛ばして見ると、案外すぐ近くにいた。
江口は動物が好きなのかイルカとアザラシのぬいぐるみをじっくりと見つめてどちらにするか悩んでいた。あのクールな印象が目立つ江口でも女の子らしい場面結構あるんだなと思い俺はすぐに目を逸らした。江口が一人でわざわざ行動している理由を少し考えてみると多分可愛い自分を見られるのが恥ずかしかったのではないかと思った。そう俺にではなく、俺の目の前にいる福永にだ。だから俺が見てて、それに福永が気付いたら多分江口を冗談半分でからかうような気がしたから一応目を逸らして気付いていない振りをした。
「ならこの猫のストラップ一個買おうかな」
「さよって可愛いの大好きだよな」
「見てて癒されるからね。そう言った意味でも湊の事も大好きだよ」
「そうか、そうか……っておい! 俺は動物じゃねぇ!」
「あはは~」
俺の反論に福永が楽しそうに笑って誤魔化してきた。
くそー江口を守ったら俺がからかわれてしまった。
これでは本末転倒だ。
すると落ち込む俺の頭に手を被せて、撫でてくる福永。
ただ撫でられているだけなのに心が嬉しい気持ちに……。
「って、今内心嬉しかったけど、原因はさよだって忘れないからな」
「まぁそう言わずに撫でられな」
そのまま人目を気にせずに頭を撫でてくる福永に俺は大人しく従う事にした。
心の中はもう嵐だ。
福永にからかわれてショックを受けたかと思いきや、急に優しくされてと俺の心は喜びと大忙し。
でも福永の笑顔を見ていると、福永が喜んでくれているならいいやと思ってしまう俺がいるのも事実。
「顔赤くなってきたね。嬉しいんだ?」
「うん……」
「やっぱり湊は素直で可愛い。それにね、たまに見せてくれる男らしさがかっこよくて好きかな。だからこうして二人の時間を大切にしたいの。だからこれからもありのままの私を受け入れてもっと好きになって欲しいな」
そんな眩しい笑顔で言われたら俺なんて答えたらいいんだ。
戸惑う俺を見て、グッと俺の下あごを持ち上げて、一歩近づいてくる福永。
「お返事は?」
初めてのシチュエーションに俺の心臓が破裂しそうになる。
それに顔と顔が近づいたことで女の子の甘い吐息が俺の肌に触れる。
「は、はい……」
「よくできました。先に言っておくけど私一途だし諦め悪いからね」
小悪魔のように俺に聞こえるか聞こえないかの声で囁いてきた。
動揺する俺に福永は超攻撃的だった。
「なら一緒にレジいこっか」
「…………あぁ」
「湊ってさ、こうゆう積極的な女の子に弱いんでしょ。私全部知ってるんだからね」
全てを見透かしたかのように言葉を紡ぎ、再び俺の指に自分の指を絡めてしっかりと固定してからレジへと向かう福永に俺の心は大きくかき乱される。
ズルい、ズル過ぎる……。
目の前にいる女の子は俺の弱点を的確に突いてくる。
そこに手加減は一切ない。
あるのは全力全開の恋の猛攻のみ。
狙っているんだ。俺が負けを認めるその時を。
だけどそれを阻止し護ろうとする江口。
二人の恋武将が俺の中で――あぁー俺はいま何を自分中心の物語を考えているんだ……んなわけないじゃないか。
こうして自分で自分の低スペックさを実感した俺は余計に疲れてしまった。
そんな俺に福永はまたしても恋の毒を盛ってくる。
「私と付き合ったら毎日こんな事ができるんだよ。前向きに私とのお付き合い考えてみたら、み・な・と」
「……それは本当ですか、さよさん!?」
「うん。なんならもっと甘い展開もあるかもよ」
「あ、甘い展開……!?」
俺はもしもの未来を想像……っておい! また福永の手で遊ばれてしまった。
なので仕返しとして、
「この小悪魔め」
と言ってやった。
「どうせ私は小悪魔だもん」
開き直る福永。
ならば俺だってやればできる男だってここで見せてやる。
「そんなこと言って本当はさよが俺との甘い展開に期待してるんだろ?」
耳元で囁いてみる。
すると急に福永が慌てて繋いでいた手を離して、俺から一歩離れた。
口元が波打ったようにあわわわ状態になり、熱があるときみたく目の焦点がいきなりズレ始めた。
「そ、そそそそんにゃことないもぉん」
赤面癖はお互い様だが、大分わかりやすい反応に俺はクスッと笑ってしまった。
「ばかぁ……」
福永が小声で言った。
かと思いきや急に黙って下を向いていじけてしまった。
その割にはチラチラとこちらを見るのがまたなんとも可愛いくて一歩近づいてみると、一歩離れられた。
「照れてるのか?」
「てれてにゃいもん」
攻められるのはかなり弱い福永。
これは何度も見ても可愛いし好印象ってことで俺がニヤニヤして見ているととうとうこっちに視線を向けてくれなくなった。
「拗ねた?」
「…………」
あれー……。
うそだろ……まさか口まで聞いてくれなくなるとは困ってしまった。
俺と福永の間に少し気まずい雰囲気ができるとすぐに救済のお告げが聞こえてくる。
「次の方どうぞー」
店員さんがレジ待ちをしていた俺達に声をかけてきたのだ。
マジで、ナイス!
「は、はーい」
福永が返事をしてレジへと向かう。
俺は一歩後ろに下がり会計の邪魔にならないようにしてその姿を見守った。
こうして福永の買い物が終わり、そのままお店を出る。
すると。
「ごめん。からかい過ぎた。だから……人前では恥ずかしいから攻めないでください」
と福永が俺に言ってきた。
「わかった」
「ありがとう。なら一緒に座る」
それから近くのベンチに二人並んで座り、買い物が終わった事をLINEで江口に伝える。数分後会計を終わらせて、幸せそうにして江口が俺と福永の元へとやって来た。大きな紙袋の中にはさっき俺が見かけた時に眺めていた大きなアザラシのぬいぐるみが入っていた。
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