第23話 福永のカウンター、放課後の時間 前半
江口は息抜き用に新しい小説を買い満足したのか今はやけに頬が緩んでいる。なんでも書くより読む方が実は好きだとか。まぁ読む方がドキドキするという気持ちはわからなくはないが、まさかその言葉をプロ作家の口から聞く事になるとは思いにもよらなかった。
そんな中、福永は俺の手を引っ張りショッピングセンターの中を歩いている。
「ところでさよ。一体どこに向かっているんだ?」
俺は福永に行き先を確認してみる。
「それはね、ここだよ」
「あー、なるほど。そう言えば新しいペンが欲しいって言ってたもんな」
「まぁね~」
そう言って福永はLoftの中へと入っていく。
俺にはほとんど無縁だが学生の本業とも言える勉強をしっかりとしている福永にはよくご縁がある場所だとここでは言っておく。
「二人共悪いけど、ここ寄るなら私も欲しい物があるから少し別行動させてもらうわ」
「わかった」
「は~い、迷子にならないでね」
「私は福永さんみたいなことにはならないから安心して」
「私も迷子にはならないから!」
「えっ……うそ!?」
江口がわざとらしく驚いた顔をする。
口を大きく開け手で隠し、目を大きく見開いたのだ。
「冗談よ。そんな顔してないでほら早く上条君と一緒にお買い物行ってきなさい」
「うん……江口さんって意地悪なんだね」
「褒めてくれてるの? ありがとう」
「褒めてない……」
どうも江口の前では調子が狂わされるのか福永が後手後手に回っている。
そんな光景を見て、平和だなーと思っていると福永が俺の手を掴んで言う。
「ほら行くよ。意地悪女は置いて行こう」
「あっ……うん」
そのまま俺は福永と一緒に店内を見て回ることとなった。
まず最初に言った場所はペン売り場である。
俺は便利が良い事から基本的に四色ペンを好んで使う。
だけど福永は四色ペンを使う時もあればそうじゃないときもある。
要は勉強ができる人間はその時の状況に応じて色々と使いわけていると言う事だ。
「沢山ある。どれにしよ……」
商品棚を見て悩む福永。
よく見れば身長が低い事から、つま先立ちして見ているではないか。
「ねぇ湊は赤ペンだとどれがいいと思う。単色の奴でね」
「そうだなーこれとかどうだ?」
俺は沢山ある中から一つ手に取り福永に渡す。
先日何かのCMで書きやすいと話題になっていたペンである。
「うん。確かにこれ書きやすいかも」
福永が試し書きの所に『悪女』と書き始めた時は肝が冷えたがどうやら赤ペンに関しては正解だったようだ。
それにしても字が綺麗だ。
その言葉の意味を考えなければ素晴らしいの一つに限る。
それから黒と青のペンも一緒に手に取る福永。
「二人でこうして買い物久しぶりだね」
「そうだな」
「やっぱり湊との買い物は楽しい。湊は私との買い物どう?」
「楽しいに決まってるだろ」
「ならよかった。あっ、ノートも必要だったんだ。付いてきて」
付いてきてと言いつつちゃっかりと俺の手を握る福永。
俺は「うん」と頷いて引っ張られる形で後をついて行く。
手を通して伝わってくる温もりがとても柔らかくて受け入れやすい。なによりいつも感じていたはずの温もりが今は何より新鮮でドキドキする。これも恋の病が原因なのだろうか。
あぁーダメだ。福永の温もりが俺の心の奥深くに少しずつ入り込んでいく。そのたびに愛おしく見えてしまうのは……。
妹感覚に近い幼馴染から異性の幼馴染に変わった福永。そのせいだろうか、今までは何ともない二人での買い物に今は緊張している。
「えっと……ノートはとりあえず五冊でいいかな」
そのまま商品棚から表紙が青色の物を選び手に取ろうとする福永。
ここでもその身長のせいか、背伸びをして頑張っている。
別に値段は変わらないのだから腰下にある別売りのを五個買えばいいのではと思ったが、福永はどうしても五パック梱包された方がいいらしい。
「言ってくれれば取るけど?」
「うやぁーだいじょうぶぅ~」
そのまま何とか無事五冊のノートを取ることに成功した福永は「ふぅー」と呟いて一人達成感を肌で感じていた。
それからニコッとこちらを向いて笑顔を見せてくれた。
「ねぇ、自分で取れたでしょ?」
「そうだな」
「もうちょっとだけ二人の時間楽しもうよ。だから、はい」
手を差し伸ばしてきてたので俺は自分の手を福永の手に重ねる。
「なら行こっか。湊もドキドキしてくれてるんだ、嬉しいな」
俺の顔を見て、微笑みながら福永が言った。
よく見れば、頬が少し熱を帯びているような気がする。
「べ、別にドキドキなんか……」
「してないの?」
「……うん」
「そっかぁ。ならそうゆうことでいいよ。手汗かいてる理由は熱いからってことにしておいてあげる」
「ちょ、気付いてるならそこは黙ってくれててもいいじゃねぇか! 恥ずかしくなるだろ?」
俺の顔が熱くなっていくのがわかる。
福永の言葉に図星なのがバレたくない一心で強がってみたが、俺の顔は本当に正直者らしい。そのため、福永の瞳に映っている俺の顔はどこか慌てていた。
「なら素直に言ったら? さよにドキドキしてるって」
「……さ、さよにドキドキしてます」
「ありがとう。私もドキドキしてるよ、湊」
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