第21話 先制攻撃は江口、放課後の時間 前半
今思えばなんだけど、俺の右手に江口、左手に福永ってある意味やばくねぇか! と実感し始めた放課後、俺達三人は学校から少し離れた大型ショッピングセンターに来ていた。江口に限っては現役女子高生にしてプロの小説家として活躍。さらには新人若手作家として今注目の的にもなっていたりと本来では俺なんかがここまでお近づきになれない美女。対して福永は幼馴染でありながら、基本的に皆から明るい性格の為か愛されているクラスの人気者。それでいて先生達からの評判もかなりよく、信頼もされている。そして二人に言えるのが一人はとても綺麗で、一人はとても可愛い、ことからクラス、学年、いや学校中の男子から一目置かれている美女であると言う事だ。なにが言いたいかというとそんな二人と放課後デート……じゃなくて放課後にお出掛けをすると緊張して気が休まらないと言う事である。理由はそれだけではないが……。
「ここの書店私の本こんなに置いてるわね。そんなに需要ないと思うのだけれどここの店主大丈夫かしら?」
書店のしかも出入口の棚に見やすく置かれた小説『アイリス』を見て江口が呟く。これだけ聞くと、『アイリス』をバカにしているように聞こえるが何を隠そうその作者である。その為、ファンの俺でも何も言えない。
「ここは普通喜ぶところなのでは?」
(需要あるから! 重版している時点で察して!)
「私の願いはもう叶ったの。だからもう打ち切りでも満足してるのよ」
と訳のわからない事を言って江口は『アイリス』ではなく、その隣に置いてある本を一冊手に取り読み始めた。一応説明しておくと、某出版社の新人賞を受賞した作家様は他の作者が書いたラブコメが大好きと思われる。
「へぇ~江口さんってこんなに有名なんだ」
「ぶっちゃけある意味超有名人。原稿の締め切りを守らないで発刊が遅れた期待の新人若手作家としてだけど。その名目は確か学業優先だったから世間もすぐに納得していたけどな」
(別の噂ではスランプだったのでは? とかも言われているけどな)
「まぁ、性格に難がありそうだから無理ないね」
と俺を挟み反対側にいる福永は『木菊一華の本気! 『アイリス』第三巻』と見出しが書かれたその下にあるPR文を読みながらそんな事を言ってきた。木菊一華をバカにしているような気がするが、それは決して悪口や陰口ではない。だって本人が俺を挟んですぐ隣にいるのだから。江口は福永の呟きが聞こえていないのか全て無視して本を読んでいる。
「でもこれも才能なんだろうね。羨ましいな~」
そう言って『アイリス』第三巻を手に持ち読み始めた。
すると。
「当たり前よ」
「自慢?」
「そうよ」
「ムカつく」
「ありがとう」
「褒めてない」
俺を挟んで視線は本の文字列のままぶつかる二人。
これを見るとめっちゃ仲が悪いように見えるじゃん。
でもな……。
「うそよ」
「ごめん、言い過ぎた」
「気にしなくていいわ」
「ありがとう」
「才能なら福永さんもあるじゃない」
「え?」
「好きな人の前で素直になるっていう才能がね」
「そうゆう江口さんこそ。湊の前では素直って感じがする」
「そう言った意味では私も福永さんも変わらないわね」
「そうだね。さっきは馬鹿にして本当にごめん」
「全然。むしろ元気があっていいと思うわ」
「ありがとう」
とか二人して言うんだぜ。
視線は変わらずで、俺を挟んでだけど。
喧嘩までの発展が早い分、物凄く仲直りも早いという謎展開。なにより一番驚いていることが、お互いにお互いの事を認めてるってところ。教室でふと思ったんだけど多分この二人仲良くなりたいんだけど、お互いにどう接していいかわからないからこんな感じなんじゃないかって思えた。
「決めた。今日はこれを買うわ。上条君もし良かったらレジまで付いてきてくれないかしら」
「わかった」
「なら私ここで待ってる。湊くれぐれもイチャイチャはしないようにね」
「はい……」
福永は本から俺の方に視線を移して言った。
俺は一度頷いてから江口へとレジへと向かった。
どうやら他のお客さんがいて三人待ちのようだ。でもこれならすぐに順番が来そうだなと思っていると、江口が一回福永の方を見て、本に集中している事を確認してからさり気なく俺の方に身体を寄せてきた。
「こうゆうのって友達以上恋人未満って感じがしてドキドキしないかしら」
突然のことに俺の心臓が反応した。
それに顔が急に熱くなってきた。一体江口は何を考えているんだ……。
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