第二章 幼馴染と美女の攻防

第18話 遅い目覚め


 ペンネーム木菊一華(もくいちか)が作る恋愛小説『アイリス』。

 それは高校生になると同時にデビューした女性作家のデビュー作である。


 ところで皆さんはアイリスの花言葉をご存知だろうか。花言葉は「希望」「信じる心吉報」「良き便り」「知恵」などの意味を持っている。後は「(恋の)メッセージ」という意味も。

 そこで木菊一華はもう会う事がないかもしれない一人の男の子に対して私の想いが伝わればいいなと言う気持ちから小説のタイトルを『アイリス』と名付けた。小説の中身は小学生の頃ある男の子が好きだと言った少しもどかしくなるような遠距離恋愛を主人公とメインヒロインがするラブストーリー。

 そこで主人公とメインヒロインが物理的に離れても二人の想いは変わらず仲良しから始まり、徐々に会えない寂しさに負けて疎遠になっていく展開である。そしてある日突然メインヒロイン――明日香との連絡が一方的に途切れた。幾ら主人公がLINEや電話を掛けても明日香は反応を見せてくれない。一見二人の縁に亀裂が入ったように見えたが――と会えないからこそ寂しさとは別に違う感情が生まれたのをしっかりと書かれた作品だった。木菊一華は知らず知らずのうちにメインヒロインに自分を重ねていた。そして主人公もいつしか成長したある男の子として見ており感情移入していた。そのため、長い執筆活動の中で彼女――木菊一華は知らず知らずのうちに恋をする事となってしまった。もう会えないと思っていたからこそ会えたその時に今まで知らず知らずのうちに募っていた想いが膨れ上がり表面へとでてきた。


 このことにある女の子は最近気付いた。

 そう私は無意識にある少年――上条湊を心の中で愛していたのだと。


 そんな一人の女の子が朝から悩んでいる頃、ある男の子はお布団の中でぐっすりと眠っていた。それはもう気持ちよさそうに「いただきま~す」と寝言を言うぐらいに幸せな夢を見ていた。なんの夢かはさておき、時刻は八時十三分で金曜日である。今もこうして時計の針が一秒、また一秒と進んでいる。


 ――七分後。


 プルプル、プルプル、プルプル

 

 スマートフォンが音を鳴らす。


「ん~こんな朝から誰だよ?」


 俺は重たい瞼を擦りながら枕元に置いてあるスマートフォンに手を伸ばし画面を見る。

 正直今は眠たいし無視してもいいのではないかと思ったが気付けば着信が二件別にあった事から出るまで電話が掛かってくるのだろうと思い、渋々電話にでた。


「もしもし、さよか? 朝からどうしたんだよ」


 寝起きでまだ眠い頭を動かして言う。


「あっ、やっと出た。今どこ?」


「今? 家だけど?」


 朝から煩いなーと言いたくなるぐらいに福永の声が大きい。

 せめて朝ぐらいゆっくり寝かして欲しいところではある。ってか今日は土曜日なんだしまじでゆっくり寝かせて欲しい。


 すると、スピーカー越しに大きなため息をついてきた。


 ため息をつきたいのは俺だと言いたかったが、欠伸が邪魔で声がでなかった。


「今すぐ学校に来て! 遅刻はともかく今日の一時間目は数学の小テストだよ!? 小テストゼロ点は内申点かなりまずくなるのわかってる!? わかったら急いでくること!」


 福永が朝からお母さんみたいな事を言っている……。

 数学……小テスト……はっ!?

 その一言に俺の脳が瞬く間に目覚めた。

 もしやと思い、机の上にある電子時計に目を向ける。

 時刻八時二十二分。曜日は……金曜日!?


 あれ、……。

 なんで俺は曜日を間違えたんだ。

 そうか、わかった。昨日福永と寝る前に明日が土曜日だったらって言う話しをしてたからだ。土曜日だったら朝ゆっくりできるから久しぶりに二人で夜更かししてゲームでもしたいねって言う話しをしていた為に、俺の頭が寝る前に今日は金曜日だと勝手に勘違いしたんだ。


 自己解決までした俺は今の危機的状況に大声で叫んでしまった。


「やらかしたぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」


 俺は返事どころではなく、急いで電話を切り、ベッドから飛び起きて、制服に着替えた。

 そして俺は過去最速で学校へと向かった。

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