第15話 放課後のお出掛け 4 


 それからしばらくすると、ベッドの端に座る俺の横へと四つん這いでやってきては座り直す福永。


「あれ、熱いんじゃなかったのか?」


「冷めたからまた来たの」


 お前は猫か! と言うぐらいに気まぐれで悪戯好きにして甘えん坊で皆に対して基本的には優しくてしっかりした一面が多い幼馴染の福永。ただし一部俺限定仕様でありながら、俺の恋心を知っておきながら、それを肯定もせず否定もしないところがまた思いやりがあると言うかなんというか。そんなわけで絶賛俺の心を良い意味でも、悪い意味でも好き放題に荒らす女の子は隣に座ったかと思いきやチラチラとこっちを見ては視線を外して、また向けては外してを繰り返し始めた。


 俺はそんな福永をジッ―と見つめる。


「な、なに?」


「いや……急にどうしたのかなって」


「笑わない?」


 急に可笑しなことを言い始めたので、とりあえず聞いてみる事にする。


「うん」


「実は……悪戯してまた甘えようと思ってたんだけど……なんか急に緊張しちゃった。今思うとさ……身体が反応しちゃうぐらい私大胆な事してたんだなって……思っちゃって」


 その言葉に俺はクスッと笑ってしまった。

 なんだ小悪魔で俺の心をかき乱すだけかと思ってたのに、福永も心の中をかき乱していたんじゃないか。なら、ちょっとお返ししてみるか。


「それだけ俺の事が好きって事で解釈OKですか、さよちゃん」


 ぶわっーとようやく落ち着きを取り戻し始めた福永の全身から湯気がでた。

 そして俺の方に身体を向けて、ポカポカと両腕の拳を何度も何度も叩いてきた。


「ばか、ばか、ばか。からかわないで」


「急にどうしたんだ? そんなに顔赤くして。さては俺に――」


「だめぇー。それ以上言うなーばかぁー」


 それはもう必死になるぐらい本人の中では恥ずかしいらしい。

 その証拠に腕の回転率が上がったが、全然痛くないので正直見てて可愛いし、なんか小学生みたいで癒される。

 福永が俺の事を知っているように、俺も福永の事を知っている。

 なので、やられたらやり返す。幼馴染だからって俺だけドキドキさせられたままじゃ終わらない。


「ゾッコン状態なんだろー?」」


「いじわるぅー。言わないでよ……」


 と、福永が動かしていた手を止めて、唇を尖らせた。

 どうやらからかい過ぎたらしい。福永さよの部屋には俺を似せて作られた小さいぬいぐるみがあるのだ。本当にそれは良く出来ていて、中学生の時に家庭科の授業で仲の良い幼馴染ってことで作って見せてくれた。本来はそれだけで終わるはずのぬいぐるみだったのだが、今では福永は夜それを抱きしめたり、ぬいぐるみを見てニコニコしている日があるのだ。それを知ったのは春休み。家がお隣同士で部屋が向かい合ってあることから、カーテンを閉めてないとお互いの部屋の中が見えるのだが、ある日俺が夜風を浴びようと部屋の小窓を開けると、なんと福永がカーテンを閉め忘れたらしくぬいぐるみに向かって「意地悪するってのはね~それだけ私が大好きってことだよ~。ちなみに私意地悪されるの弱いからしちゃダメだよ?」と指でツンツンしながら言っているのを偶然見かけてしまった。その日は「ばかぁー覗き、変態!」と言われ怒られたが翌日絶対に他言をするなとかなり念を推してきたのだ。この日福永は俺にまだ見せていなかった弱みを握られたのだ。


「ならさっきのお返しだけで許してやるよ――」


 俺はさよに顔を近づけて、耳元で。


「さよって本当は甘えん坊だけど俺の前だけじゃん、それってさ――」


「!?!?!?!?!?」


 おっ、いい反応。


「はひ!?」


 大きく見開いた目で俺だけを見る福永。

 黒く綺麗な瞳は今から言われるであろうことを覚悟してるように。

 でも逃亡しないってことは、そうゆうことなんだろう。


「俺を特別扱いしてくれているってことだよな、いつもありがとうな」


「んなことにゃいもーん!」


 福永がベッドの上で立って、えいっと言って叩いた。


「てかわかってるなら言わないでください……死ぬほど恥ずかしいので……」


 そのまま力が抜けたのかボソッと下半身から崩れ落ち、女の子座りをする福永。


「それにね私から意地悪するのはいいけど、されちゃうと心臓が余計にドキドキしちゃうから……」


「ん?」


「だ。か・ら。……意地悪する時は自分のペースだからある程度は感情の制御ができるの。でも意地悪されるとその……湊のペースだから覚悟できていない分なにされるのかなって……期待しちゃったり、不安になっちゃったりしてドキドキしちゃうの」


 つい弱々しくなった福永を見て、これはやり過ぎた、てか弱すぎ、と思わずにはいられなかったので素直に謝る。


「ごめんな。だからそんなに睨むなって」


「……わかればいいの」


 それから福永はうつむきながら俺にギリギリ聞こえる小声で言った。


「でもね。二人きりの時は今みたいに私に意地悪してくれていいよ。……湊の意地悪は嫌いじゃないから……ね?」


「でもさっきは嫌がってたよな?」


「あれは恥ずかしいから! とにかく二人きりの時だけはして!」


 まじか。福永がめっちゃ女の子になってる。とにかく二人きりの時はしていいのか。理屈はわからんが、とにかく納得した。福永には弄られ願望があることを。

 頬をフグのように膨らませプンプンと怒っている福永。


「わかった?」


「はい……」


「なによ!? 嫌なの!? それとも私じゃ不満なの!?」


「そうじゃないけど……なんで怒ってるの?」


「あーもう、怒ってないもん! 全くこれだから彼女の一人も未だにできないんだよ」


 その何気ない言葉に俺の心が大ダメージを受けてしまった。

 

「もう知らない。そんな冷たい湊なんか嫌い!」


 と言いつつ俺の方に身体を預けてきたかと思いきや、そのまま太ももの上に頭を乗せてきた福永。それから俺の右手を手探りで探して掴むと頭の方へと持っていき、無言で頭を撫でろと言ってきた。無言の圧に負けた俺は福永の機嫌がなおるまで甘やかす。


 嫌いという割にはなんで顔がニヤケて身体がいつもより熱いのと言いたかったが、ここで余計な事を言えばようやく静まり始めた福永の心の火に自ら油を注ぐのだろうと思い自重したのは俺だけの秘密。

 てか途中「えへへ~、幸せ~」とかさり気なく言うなよな。ついドキッとしてしまったじゃねぇか!


 その後、福永は「甘えさせてくれてありがとう」とお礼を言って笑顔で帰宅した。

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