第14話 放課後のお出掛け 3


 俺と福永はそのまま二人並んで歩き俺の家に向かって歩いた。

 川辺から俺の家までの距離は歩いて五分もかからないので、すぐに到着した。

 それから誰もいない家に入り、「ただいまー」と言い、福永と一緒に二階にある自室へと向かった。自室に着くと俺は勉強机に鞄を掛けて、福永は部屋の出入口付近の壁に立て掛けて置き、ベッドの方へと向かった。と言っても福永が「こっちに来てよ」と誘ってきたからであって、俺からやましい気持ちで二人でベッド向かったわけではないと自分に言い聞かせて健全な気持ちで近づく。それから福永はベッドの上で体育座りをして足を広げる。その間に俺の身体を挟むようにして後ろ向きで寝かせてきた。


 俺は背中に福永の温もりと感じる。それと同時に後ろから腕が伸びてきて、俺の胸元あたりでクロスさせてきた。すると後頭部に福永のアレがちょうどくるわけで……。


「ちょ、さよ。この弾力って……」


「言うな、ばかぁ。恥ずかしいから……」


 俺が見上げるようにして、福永の顔を見ると頬が赤くなった。


「お触りは禁止。でも湊こうゆうの好きでしょ?」


「否定はしないかな」


「触れないけどこうゆうもどかしい悪戯を好きな子からされたら意識しちゃうでしょ?」


 全身の血の巡りが速くなった。

 おい、そうやって身体を押し付けて胸の弾力を堪能させるあたり……。


「お、おいっ、身体を揺らすな……。そんなことされたらっ!」


「ん~、頬が緩んでるよ。本当は嬉しいんでしょ?」


 俺の頭は今女の子の胸の弾力を感じては弾みを連続で堪能している。


「……う、うれしくなんか」


「素直になってくれないならもう二度とこんな事してあげないよ~」


「ず、ずるいぞ、さよ!」


「それで、どうして欲しいの?」


「し、して欲しいです……」


 すると恥ずかしくなった俺の頭に顔を近づけてきた。

 それから顔を真っ赤にして福永が言う。


「素直な湊大好きだよ。えへへ~」


「……俺を困られて楽しいのか」


「うん。だって湊が顔真っ赤にしてるの見るの好きだから。それにさ好きな人の照れた顔ってやっぱり可愛いからいっぱい見たいしね」


「ならこれがさっきのズルいことなのか?」


「そうだよ。ちょっとエッチなドキドキイベントだよ。湊が喜んでくれて、私にもどかしさを感じて、もっと先の事をしたいって思ったら私の勝ちだからね」


 小悪魔のようにニコッと笑みを浮かべる福永。

 お互いの顔が近くてお互いの熱を感じる距離。


 俺はこの時、思った。


 福永は俺の弱点を徹底的について俺の心を自分だけしか見られないようにしようとしているんだって。だけど絶対に俺が不快にならない線引きを正しく理解している。甘くて一度味わったら忘れられない毒を少しずつ俺に与えることで単純な俺の心を虜にしようとしているんだって。


「ってことで昨日みたいにキスしよ?」


 俺を誘惑してくる。

 この甘い毒に一度でも触れたら最後俺の心も甘い毒の中毒性に犯させてしまう気がする。それから恋のペンデュラムを福永サイドで止められてしまうのではないだろうか。

 今は江口サイドと福永サイドを行ったり来たりして揺れている。だけど徐々にだけど福永サイドで最後は止まりたいと心がそう思い始めてしまった。


「……いじわるなんだな」


「うん。それで? 素直にならないと私怒るからね」


「……したい。けどそれは絶対にダメだ。俺はまださよ一途じゃない。今すればさよを傷つけてしまう。だから絶対にできない。なにより俺自身女の子を傷つけてまで自分の欲望を叶えたいとは思わない」


「ならしよっか」


「ちょ、うそっ……さよ!? 聞いてた俺の話し?」


「聞いてたよ」


 そう言って顔を更に近づけてくる福永。

 そして俺と福永の唇が触れる所で、小悪魔が本性を見せた。


「うそ。でも湊ドキドキしたし、私とのキス言葉では否定してたけど内心期待してたでしょ?」


 そのまま後少しで重なりあうかと思われた唇が離れていく。


「…………」


「顔は正直だね」


「う、うるさい……」


 すると、腕の力を強くして俺の身体をさらに密着させてきた。

 そして気付いた。

 福永が本当は強がっていて、本当は身体を震わせるぐらいに必死なんだってことが。

 やっぱり福永は凄いやつだ。

 学校一の美少女と呼ばれる江口を俺は好きになった。だけど俺の恋の邪魔は一切せずに来るべきをひたすら待ち続けて、俺の心を揺らしてくる。そこに焦りもあるだろうが、それを抑制し俺と今まで積み上げてきた信頼関係を軸に俺の心を少しずつ江口から引き離して自分に向けようとしてくる。なんて可憐で強い女の子なのだろうか。


「嬉しい顔見せてくれたから、こっちまでドキドキしちゃったじゃん。ほら離れて、恥ずかしくて私まで身体が熱くなっちゃったから」


 俺の身体を細い両腕で持ち上げてから、手を使って顔に風を送る福永。

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