第5話 放課後の試練――告白
――放課後。
俺が教科書をカバンの中にしまい終わった頃、クラスの生徒が部活や放課後の楽しみを求めて教室を順次に出て行く。それから人目が少なるのを見計らって江口が俺の所にやってくる。視線を少し外に向ければ廊下から福永が他クラスの女子達とお話しをしながらもやはり気になるのかこちらをチラチラと見ていた。
「もしかして二人きりの方がいい?」
俺が廊下をチラチラと見ている事に気付いたのか江口が俺と福永を交互に見て気を利かせてくれる。
「あっ……うん」
「なら屋上に行きましょう。放課後は基本誰もいないから」
「わかった」
俺は机の横にかけてある鞄を手に持ち、江口と一緒に教室を出て屋上へと向かった。
やっぱりその時に見た、江口の背中は凛々しくて、氷の女王様って感じがした。
あるいは難攻不落の城とでもいうべきなのだろうか。
ハイスペック男子達が己の持つ最大火力の武器をもってしても振り向かせるどころか気にもかけてもらうことができなかった要塞とも呼べる難攻不落の城、そんな感じ。
それから屋上に到着した俺と江口は屋上に置かれた木のベンチに一メートル程距離を開けて座る。
さっきから緊張して言葉が上手くでない。
どころか緊張して変な汗までかいてきてしまった。
「やっぱり間違ったかしら」
ソワソワが止まらなくなったなと思うと、江口の冷たい声が耳に入ってきた。
あ~たぶん。
――もしかして。
俺は嫌な予感を頭の中で抱えながら恐る恐る隣を見る。
すると江口がため息をついて、呆れた目でこちらを見ていた。
「感想。聞こうと思ったけど、もういいわ。やっぱり皆私に向ける視線なんて一緒なのよね……」
どこか寂しそうにして心が疲れたような声と視線で俺は見つめられる。
そして少し困ったような顔で江口が言う。
「いいわよ。聞いてあげる」
たったそれだけ。
江口はあからさまに嫌な顔をせず、慈悲深い笑みをみせてくれる。
だけどその顔は夕日が眩しくてハッキリとは見えないが、俺でもわかるぐらいに無理して作られた笑みだとわかってしまった。
この瞬間、俺はこの後の事を全て察した。
だからこの想いを伝えるか強く迷ってしまった。
「私今日の朝、好きな人がいるって嘘ついたわ。それでしばらくは誰が私を彼女にできるかみたいな酷いゲームを止められるかと思ってね。全員本気なのはわかっている。だけど私からしたらゲームの景品みたいに人として女として見られてないなって思えるのよね。だから真面目に相手にしようとは思わなかったわ。告白をOKして喜んで終わるような人とは間違っても付き合いたいとも思わないし、仲良くしようとも思わないから。後は下心がある人は特に私苦手でね。でも上条君はそうじゃなさそうね、たぶん」
それから江口はゆっくりと腰をあげて俺の前へとくる。
「それにしても上条君は分かりやすいのね。顔に全部出てるわよ。だから私の今の気持ちを伝えた上で真面目に聞いてあげるわ」
「……いや、いいよ。ごめん。迷惑なら最初からそう言ってくれた方が嬉しかった」
なんだか泣けてきた。
俺って自分の都合ばかりで、何一つ江口の事を考えられてなかった。
悔しかった。
頭がくらくらする。
もう告白したいのかしたくないのかわからなくなってきた。
「やっぱりやめる?」
「…………ぅう」
言えよ。
この想い伝えるんだろ。だったら言えよ。
振られることぐらい…………だめだ。
喉の奥が潰れてうめき声しかでない。
「それなら私帰るわね。ねぇこれだけは教えてくれないかしら?」
「…………」
「友達だと思っていたのは私だけだったのかしら?」
鞄を手に持ち、気まずそうにしてこちらを見る江口。
「友達だった。ずっと……。だけど……友達だけど……好きになった俺がいる。ただそれだけだと思います」
震える両手に力を入れて拳をつくり、下をうつむきながら、顔が見えないようにして、唇を嚙みしめながら答えた。
「そう……。やっぱり私に純粋な男友達は難しいのかもしれないわね。私の作品を楽しそうに読んでくれていたからもしかしたら昔みたいにって期待しちゃった。上条君に辛い思いをさせて本当にごめんなさい」
身体の正面で鞄をもって、頭を下げて謝る江口。
てかなんで江口が泣いているんだよ。
なんでそんなに辛そうな顔をしているんだよ。
いつも告白されても表情一つ変えない江口がなんで俺の時だけそんな辛そうにするんだよ。
これじゃ俺期待してしまうじゃねぇかよ。万に一つの可能性かもしれないけど、もしかしらって……だからやめてくれよ。なんで江口が泣くんだよ。もう意味がわからねぇよ。
そうだ。江口は最初から純粋な気持ちで俺と仲良くしてくれようとしていたんじゃねぇか。俺本当にどうしようもないバカだな……。自分の事しかやっぱり考えられてなかったんだな。
「なら私今日は帰るわ。さようなら」
制服の袖で涙を拭いた江口が顔を上げて俺に言い残す。
それから一人歩き、校舎の中へと戻っていった。
一人になった俺はその場で発狂し叫んだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そして大声で今日と言う日を後悔した。
全部が中途半端で終わった今日という日を。
そして俺の恋が消化不良で終わった今日という日を後悔した。
悔しくてベンチから落ちそのまま地面に四つん這いになって、何度も何度も地面を叩いた。
心の痛みを幾ら誤魔化そうとしてもそれは消える事がなく、俺の心に深い傷として残った。
手から血が出ても全く痛くない。
目から零れ落ちる涙は止まる事を知らず、永遠と俺の頬を伝い流れ落ちる。
これが失恋の痛みだと知った。
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