第4話 お昼休み


「ちょっと、私との時間は!?」


 完全に不貞腐れて、頬を膨らませて、両手を腰にあて怒っている福永が目の前にいる。

 四時間目が終わり、お昼ご飯を食べ終わったタイミングで手を引っ張られて俺が福永に連行されたのが俺達が今いる校舎の屋上と言うわけだ。


「私は二人で放課後過ごしたかったのに……」


 唇を尖らせて、ベンチに座った俺に向かって前のめりになりながら福永が言う。

 

「ってこら、湊。さり気なく胸見ないでこの変態!」


「ごめん」


「それで、なんで私との約束があるのに江口さんと放課後会う事を了承したの?」


「つい嬉しくてその場の勢いで……」


 福永は大きなため息をついた。

 それから間をあけて。


「……ったく、ホント単純すぎ!」


「すみません」


「別にいいけどさー。先約は私なんだからさ、せめて一言相談ぐらいはしてくれてもいいと思うんだけど、反論はありますか、み・な・と・く・ん?」


「いえ、ありません」


「ならもういいよ。実際の所そんなに怒ってないからさ。でも今度から気を付けてね。私は湊の気持ちを理解してあげるけど湊もさ少しは私の気持ち考えて欲しいの。一度振られた相手とは言えそれくらいは我儘言う権利が私にもあると思うんだけどどうかな?」


「その通りだと思います」


「なら今度から隠し事はなし。なにかあったらまずは相談すること」


 うつむいて下を向いていた俺の顔を覗き込むようにして、下から覗き込んでくる。

 その上目遣いがまたなんとも優しさに満ちていると言うか。


「わかった?」


「はい」


 納得した俺を見て、許してくれたのか俺の隣に座る福永。

 腕と腕がぶつかるかぶつからないかの距離。

 周りから見たら恋人に見えるこの距離感が俺と福永の距離感でもあり、お互いにそれだけ心を許している証なのかもしれない。

 俺が悪いことをしたら怒ってくれて、困っていたら助けてくれる。また落ち込んでいる時は何も言わずに甘えさせてくれる。二人きりでプライベートでは甘えん坊な一面が多い福永ではあるが、いざと言う時は誰よりも頼りになる存在。


「ところでさ湊。去年話しは聞いたけど、江口さんの事大好きじゃん?」


「まぁな」


「やっぱり……告白とか考えているの?」


 不安混じりの声で、どこか寂しげな声で福永が聞いてきた。

 俺は一瞬福永の気持ちを考えるべきかと思ったが、ここは傷つけるとわかっていながら、本心を伝えることにした。


「あぁ。多分振られると思う。でもそれでもいいから伝えるつもり」


「そっかぁ。ちなみにいつ?」


「実は今日の放課後呼ばれた時にタイミングが合えばしようと思っているかな。何て言うか江口と二人きりになれるタイミングって殆どないからさ」


「ならもし湊が江口さんと付き合ったら私は身を引くから安心して。辛いけど二人の幸せを願ってあげる。だけどさ……たまには私の相手もするって今約束して欲しいかな」


 福永は真剣な表情で俺の顔を見ている。

 だけどその綺麗な瞳はどこか怯えているようにも見えた。


「あぁ。仮にもし付き合えたとしても俺とさよの関係は変わらない。そうだろ?」


 俺は確認をするようにして質問した。

 そう、別に俺と江口が付き合っても俺と福永の関係は変わらない。

 これからもずっと幼馴染っていう関係は。


「だよね、私達ずっと一緒だよね」


 すると福永の顔に笑顔が戻った。


「そうだな」


「ねぇ、今二人きりで周りに誰もいないからさ。ちょっとだけ頭撫でて欲しいな。ほら放課後ずっと二人きりじゃなくなったから……だめかな……?」


 少し照れているのか頬を赤く染めて、上目遣いで言ってくる。

 それから人目がないのを再度確認して俺の右腕に抱き着いてきた。

 女の子の胸の柔らかい感触がしっかりと伝わる。

 おぉーこれは最高だな! 超柔らかいし、何と言うか弾力も最高!


「こうゆうの好きでしょ」


 そう言って、自慢の胸を腕に押し当ててくる。

 俺はニヤニヤを抑えながら、左手で福永の頭を撫でてあげる。

 すると猫のように自分から俺の手に頭をこすりつけて気持ちよさそうに「えへへ~」と言って甘え始めた。

 本当に甘えん坊さんで可愛いんだよな。それでいてちょっとエッチなサービスをしてくれる妹。……じゃなかった幼馴染。


「ありがとう。ちなみに他の男子には絶対に見せないし、こんなサービスしないから、二人だけの秘密だよ?」


「あ、当たり前だ!」


「嬉しいんだ。なら良かった」


「う、うるさい……恥ずかしくなるだろ」


「相変わらずわかりやすいね。でも学校で甘えたの始めてだからドキドキしちゃった」


 気付けば顔を真っ赤にした福永。

 ニヤニヤが止まらなくなった頬は柔らかくなっており、試しに左手の人差し指で突いてみるとやっぱり柔らかかった。


「きゃ!?」


「あははは」


「もう、笑わないでよ」


「わりぃ、わりぃ」


「もう、そんな意地悪するからまだ好きな気持ちが消えないんだよ?」


 俺の腕から離れて、意地悪を言ってくる福永。


「私ね、湊の彼女にはなれなかった。でもね、こうして片想いをしている時ってやっぱり楽しいしドキドキしてこれはこれで新鮮でいいなって思ってるの」


「さよ……」


「強がりとかじゃないよ。まぁ少しは強がっているけど、でもね今が最高に楽しいの。好きな人にこうしてありのままの自分を見せて、同じ時間を共有できてるから。普通は振られたら気まずい関係にお互いなって終わり。でも湊は私の告白を断ったけどこうして私が望んだ時間を提供してくれている。だから今も幸せなんだ。だからさ、湊も頑張って幸せになりなよ!」


 満面の笑みでそう言ってくれる福永。

 福永が幼馴染で本当に良かった。

 こんなにも相手の気持ちを考えてくれる福永には俺とではない誰かと幸せになって欲しい、そう思っていると。


「ちなみに子供作るときは江口さんと本番する前に私が練習台になってあげてもいいよ?」


 俺の頭が福永とそう言った事をしている所を想像してしまった。

 そして全身の血管が熱くなった。

 俺の目は福永の胸を見て、さらなる想像をしてしまう。


「あー顔真っ赤になってる。でも頭の中で想像したってことは私の事異性として見てるって事だよね。先に言っておくけど私まだ諦めてないからね。なら昼休み終わるし教室に戻ろうか」


 顔を真っ赤にした俺の手を握り、福永は満足そうにして俺と一緒に校舎の中に入った。

 それと同時に手を離して耳元で囁いてきた。


「振られても気まずい関係にならないってわかった今の私に後退と言う二文字はないから気を付けてね」


 そう言って福永は俺を置いて小走りで自分のクラスへと戻っていく。


 それから俺の頭はようやく理解する。


 後退はない、つまり恋の応援はするけど、俺を落とすと言う意味でもあったことを――。


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