第2話 初恋相手と幼馴染が比べられない理由


「ねぇ……ねぇ……ねぇってば!」


「……な、なに?」


「さっきからボッーとしてどうしたの?」


「なんでもない……うん、ホント大したことないから」


 俺がつい江口と初めて会話した時の事を思い出していると福永が心配そうにこちらを見ていた。

 福永は俺の幼馴染であるが、俺とは違ってこれまたハイスペックだったりする。


「なぁ、さよ。なんでお前って俺の事が好きなんだ?」


 福永は茶髪で肩下まである髪の毛を手でクルクル巻きながら答える。


「う~ん、なんかずっと一緒だし、一番安心できる存在だからかな。それに湊優しいし」


 小柄の癖に巨乳で童顔。これまた絵に描いた可愛い系の美少女とも呼べよう。

 それに身長145センチで甘えん坊さんなのは反則的だと言える。

 それでいて人当たりが良くて、コミュニケーション能力も高いことから去年もクラスでは人気の高い女子だった。


「だって家ではよく私の頭撫でてくれたり、甘やかしてくれるじゃん♪」


 笑顔で言う福永。

 これに悪気がないのはよくわかる。福永は昔から素直でさっきみたいに俺に対しても素直な気持ちをいつもぶつけてくれるとても真っすぐな女の子だ。

 だけどな、ここを何処かを考えて欲しい。

 さっきの何気ない一言で


「リアルで可愛い幼馴染と仲良しで付き合わないとかどういう神経してるんだ」


 ほら見ろ。周りの男子達からの軽蔑を含んだ視線と言葉を。


「しょうがない。こうなったら窓から突き落とすか?」


「いや、待て。安易にそれをするとお見舞いイベントが発生してしまう。するならもっと確実性があるようにしよう」


「ならどうする……?」


 もしもーし。そこのお二人さん。声が聞こえてますよー。

 後そんな不謹慎な会話は今すぐにやめなさい。


 悩む俺に対して福永は「モテない男子の事なんてほっときなよ」と俺にだけ聞こえる小声でソッと囁いてきた。


「頼むからなんとかしてくれ」


「いや」


「頼む」


「いーや」


「……なぁ、頼むよ」


「…………なら付き合ってくれる?」


「もういいよ。俺が諦める」


 俺はその場で大きなため息をついた。

 もう一度言うが、福永はモテるし、男子達からの人気も非常に高い。

 だけど甘える相手が俺だけだと言う事から、俺は日々嫉妬の目を受けている事もまた事実なのだ。初恋をする前に告白をされていたら俺は福永と付き合っていただろう。要はタイミングが悪かったのだ。俺は人生で初めて女の子と仲良くなりたいと思い、福永に相談した。それを機に福永はアドバイスをくれるようになったが、それと同時に俺に想いをぶつけてくるようにもなった。俺は散々迷った結果、告白を断った。だけどこうなる事を見据えてかいつも冗談半分で付き合ってと言ってくるあたり、計算高いと言えよう。だけど初めて告白を断った日だけは違った。本気で告白をしてきてくれて、俺の返事を聞くと同時に大泣きした。これが福永の本心であることは間違いなかった。それでも諦めずにこうして一途に俺の事を思ってくれているあたり、本当にいい女の子だと俺は思っている。


「わかったって。ごめんね」


 それから福永は俺からクラスの男子達の方を向いて。


「私、人の悪口とか言う人嫌いだから。後、暴力をふるう人はもっと嫌い。だから皆仲良くしようね」


 と言ってくれた。

 それを機に俺に嫉妬の眼差しを向けていたクラスの男子達が一斉に黙り、視線を逸らし始めた。


「これで許してくれる? ごめんね」


「あぁ。頼むから爆弾はあまり放り込むなよな……心臓に悪い」


「だって寂しいからさ……」


 すると福永が視線で訴えてきた。

 まるで小動物のように目を丸くしてこちらに何かを期待している目だ。

 小学校から高校までずっと同じ学校で同じクラスと言うかなりの腐れ縁から大抵は福永が何を言いたいかはわかる。ここまでくると親しみやすいと言うか。だけれど俺が福永と付き合わなかったのにはちゃんとした理由もあるし、本人にもそれはしっかりと伝えてある。


「とりあえず、放課後は暇だ」


「やったー! なら今日は湊の家に行くね!」


「おう」


 俺は返事をしながら念の為に江口をチラッと見た。

 さっきの話しが聞こえていないことはないだろうが、それでも好きな人の反応はやっぱり気になる。

 すると、視線が重なった。

 それからニコッと微笑んでくれたが、目が笑っていない。

 あれ~新学期早々地雷を踏んだ気しかしないのは何故だろう……。

 そう思い、今度は小さくため息をついた。


「去年もだけど私達ホント昔から変わらずだよね~」


「そうだな」


「これからも仲良しでいようね」


「おう!」


 今みたいに福永とは小さい頃から学校でもプライベートでもよく一緒にいた。だから異性ではあるが、どちらかと言うと、兄妹みたいな感覚になっていた。だからなのか福永の事は人としては大好きだけど、異性としての好きかと言われれば何か違う気がする、それが俺の本心だった。だから福永より江口の方が可愛いからとか女性としての魅力が高いからと言った理由で俺が江口を選んだのではない。


「そう言えばさ、知ってる?」


「なにを?」


「江口さん今日の朝ね、三年生の男子の先輩に告白されたみたいだよ」


「まぁな。てかここに来た瞬間その噂でいっぱいだったから」


「なら理由も知ってる?」


 俺が江口の事を好きなのは福永にしか言っていない。

 なんでかってそれはほら……俺も思春期男子高校生だし……周りにこの想いがバレるのが恥ずかしいからである。

 なので俺は興味がない振りをして聞いてみる。


「理由って?」


「三年生の先輩を振った理由だよ」


「知らない。知ってるのか?」


「うん。知りたい?」


 こうもったいぶってくるあたりが小悪魔なんだよな、福永って。本当は今も俺の顔を見て俺の気持ちを知っておきながら、わざと焦らしてくるあたり意地悪と言うかなんというか。でもこの小悪魔ちゃん的な所が男としては惹かれると言うか、可愛いと言うか。実際にこの意地悪な所が好きって男子も実は結構この学校にはいたりする。


「…………まぁ」


「へぇ~興味がないなら教えないよ」


 女子の情報網恐るべし。

 てかその意地悪な顔止めろ。

 あーもう! 素直になればいいんだな!

 まったく、今回だけだからな!


「……お、おしえて……ください」


「声が小さくてきこえな~い」


「お、おしえてください!」


「へへぇ~、やっと素直になったね」


「うぅ、お前なー」


「なんでも好きな人がいるらしいよ。それが誰なのかはわからないけど、去年まで今は誰とも付き合う気がないって言っておきながら、今日は他に好きな人ができたから諦めてくださいって言ったんだって」


「好きな人?」


「そう、好きな人」


 福永はドヤ顔で俺に言ってきた。

 それにしても好きな人。あの江口にか……。

 そう思った時、俺の心の中が急にモヤモヤしだした。

 今日は本当に俺よくため息をつくよな。

 大きなため息をついてから俺は窓の外を見た。

 だけど俺の心は雲一つない大空とは違い、急にどんよりとして黒い雲でいっぱい。

 なんならそのまま大雨なんてことにもなりそうだった。


「まぁ、振られたら私が貰ってあげるから元気出しなよ」


「まだ振られてねぇよ!」


 落ち込んだ俺を励ます福永についムキになり大声で言い返してしまった。

 それもその場の勢いで席を立ちあがる程に。

 その声はクラス中に聞こえたらしく、皆の視線が再度俺に集まる。

 急に恥ずかしくなった俺は咳払いをして、椅子に座り直して机に顔を伏せた。


「顔赤くするぐらい好きってなんか嫉妬しちゃうなぁ~」


「さては俺をからかって楽しんでいるだろ?」


「えへへ~、ばれたか」


 楽しそうに笑う福永。

 その顔をチラッと机に伏せながら見た俺は意地悪をしてやることにした。


「さよのそうゆう所ズルいぞ。弱った時にそんな事言われたら勘違いして好きになるだろ、ばかぁ」


「/////////」


 さっきまで楽しそうに笑っていた福永の顔が真っ赤になった。

 どんなものだ。

 これでも幼馴染。お互いの弱点は既に把握済み。

 やられたらやり返すって言葉を覚えておくといい。


 僅か数秒で真っ赤になった頬と見開かれた目が福永の心理的状況を物語っている。

 そして急にキョロキョロとしだした。

 どうやら周囲の視線が俺から頬を真っ赤にした福永に移ったらしい。

 まぁ、冴えない男を見るより、可愛い女の子を見た方が色々とお得だからな。


「ばかぁ! そんなこと言うから私が期待しちゃうんぢゃよ~!」


 噛んだ。

 それも大声で叫びながら盛大に。


「あぁ~可愛い」


「いいなぁ~俺もあんなこと言われたい」


「ふ、ふつくしいぃ!」


 教室にいた福永ファンが一斉に声をあげる。

 恥ずかしさのあまり唇を噛みしめる福永。


「いてっ!?」


 羞恥心に耐えられなくなったのか、席を立ち上がると同時に俺の頭をぺちっと叩いて「お手洗い!」と言ってクラスを出て行った。

 本当に照れ隠しがお下手なことで。まぁ、なんだかんだ言って口元が緩んで嬉しそうだったあたりを見ると満更嫌そうでもなかったわけだが、それとは別に胸の奥がチクッと痛んだ。だけど、これが俺と福永の小さい頃からの日常でもある。だからそこに恋愛感情があろうがなかろうが俺と福永に限ってはこれが普通だし、福永も居心地がいいと言ってくれている。


 一人になった俺はそのまま机にうつ伏せて、ある事を考えた。



 ――江口って誰の事が好きなんだろう。。。

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