可愛い幼馴染のライバルは学校一の美少女だった~幼馴染に後退(失恋)と言う二文字はない、あるのは前進(一途)の二文字のみ~

光影

プロローグ 交差する想い

第1話 出会い


 新学期になると、学校ではクラス替えが行われる。


 新しい出会いと言う意味からそれを楽しみにしている人もいれば、仲の良い友人と離れる事を寂しく思う人もいる。


 そして新しいクラスでの座席。

 もしかしたらあの子と隣の席になれるかもと思い、友情ではなく恋愛感情を優先している学生も中にはいるだろう。


 新しい出会いがあれば、別れもある。


 これは当たり前のこと。だけど俺達、私立青春高校の新二年生に限ってはそれは限定的な別れだと言えよう。

 なぜなら昼休みや放課後にクラスを一歩外に出ればすぐに会える距離なのだから。これは物理的な距離という意味である。だけどそれは友情に限っての話しなのかもしれない。

 好きな人と違う教室になるこの事実は青春を謳歌する学生にとっては辛いイベント、もしくは試練になるのかもしれない。ましてやそれが片想いならなおさら。とは言ってもその逆もあるわけで、その場合、片想いの相手と距離を縮めるチャンスであり試練となるのだろう。


「今年もよろしくね。って事でとりあえず私と恋人にならない?」


「また、それか」


「むぅ~。女の子だって性欲もあれば恋心もあるんだよ!」


「いや、それ……今カミングアウトする言葉じゃないよな!?」


「なら付き合って!」


「断る!」


 俺は隣の席になった幼馴染――福永さよに告げる。

 福永はよくこうして俺の恋人になろうとしてくる。正直気持ちは嬉しいが俺には心に決めた人がいるのだ。それが今年同じクラスになった江口唯(えぐちゆい)だ。


「そんなにあの子がいいんだ?」


 不貞腐れたのか唇を尖らせてブツブツと納得がいかない顔で呟く福永。


「そうだよ」


 俺は遠目でクラスに入ってきた江口を見て答える。

 彼女は一言でいうなら、とても綺麗で美人。

 容姿は整っており、凛として清楚系の女の子。それでいて胸は大きくて、お尻はふっくらとしていながら、引っ込む所は引っ込んでいる。腕や足は細く、髪も艶があり黒髪ロングと正に絵に描いたような完璧美少女である。


 これで八方美人だと言うなら俺にもチャンスがあるのだが、彼女は高嶺の花が似合う女でもあった。男と女がこの世にいる以上これは仕方がない事なのかもしれないが、その美しさを一目見た多くの男が心を持っていかれた。しかし誰一人江口の心を掴む事はできなかった。時にイケメン、時に金持ちの息子、時に野球部エースの美男と言ったハイスペック持ちの先輩が去年全員撃沈した。


 その為、俺は去年高嶺の花にあたる彼女を遠目で見ているだけだった。


 とは言っても叶わない恋をいつまでも続けていく。そんな人生もまっぴらごめんだなと思い諦めようとしたときだった。



 ――。


 ――――。




「ねぇ、貴方。隣のクラスの上条湊くんよね?」


 彼女は俺が放課後の図書室で本を読んでいると、唐突に話しかけてきた。

 なんで彼女がこんな所に? そう思い疑問にも思ったが、なによりなんで俺なんかに話しかけてきたのかと思うと困惑しかなかった。

 そう嬉しさよりも困惑しかなかったのだ。

 なんで? 

 俺と彼女に接点は何一つない。

 なのにどうして? と言う困惑。


「はい、そうですけど?」


「私の作品は面白いかしら?」


 あろうことか江口は俺の隣の空席に座って、顔を覗き込んできた。

 そして、今まで男子に向けた事がないと思われる、笑みを見せてくれた。


「学校で噂になってるからもう知っているだろうけど、私ね、その作品の作者なの。それで感想は?」


「……正直に言っていいですか?」


「えぇ、もちろん」


「とても面白いと思います。特に主人公とヒロインのもどかしさがいいと言うか素晴らしいと言うか」


「そう、なら良かったわ」


 江口は俺が好きなライトノベル『アイリス』の作者であり、プロの小説家である。

 プロの小説家だと言う事は学校の多くの生徒が知っており、またその美貌さに一人の時間であっても注目の的だし、何よりも男子には冷たい、それがまた彼女の女としての魅力を引き立てていた。

 そんな彼女に俺が恋した理由。それは単純で一目惚れだった。誰の物にもならない彼女を自分の物にしたいと言う欲望、もっと言えば支配欲が俺の心の中で生まれ、気付けば一目惚れをして好きになっていた。

 人間だったら好きな人を一人占めしたい、この気持ちは至って普通だと思う。


「ところで一つ聞いてもいいかしら?」


「いいですけど、答えられるかはわかりませんよ?」


「なんでそんなに他人行儀なの?」


「…………」


 俺の頭がパンクした。

 確かに同じ学校で同じ学年と言う事を考えれば、江口からしたら俺の接し方は他人行儀なのかもしれないが、俺からしたら密かにずっと好きだった相手が急に隣にやってきたことによる嬉しさと緊張が入り混じっていてそれでフレンドリーに接してくる江口に回す心の余裕などどこにもない。むしろこれは仲良くなるチャンスだと頭では分かっているが、まずは嫌われないようにと慎重になる自分がいるのもまた事実だった。


「まぁいいわ。縁があればまた仲良くしましょう」


「仲良く……俺と江口さんが?」


「えぇ。嫌かしら?」


「いえ」


「そう、なら良かったわ。私の原点は貴方よ、上条湊くん。今まで頑張ってきた努力がこれで報われた……そう思うととても嬉しいわ」


 そう言って江口は笑顔を見せてくれた。その笑顔は今でも俺の脳裏に焼き付いている。それだけ彼女の笑顔はとても新鮮で綺麗だったし、彼女との会話はなによりとても嬉しいものだったからだ。本当はもっと具体的に感想を言って、話しの幅を広げたかったが残念ながら俺はそこまで気が回らなかった。


 でも気付いた。


 俺は彼女と話す口実がこれでできたのだと。


 理由はなんでもいい。ただ、江口とお話しがしたい。それってさ、恋をしているからだと思うんだよね。それにあの笑顔をもう一度見たい、そう思った時点で俺は恋を諦める事を諦めた。



 高校一年生の冬、俺は初恋を続けることにした。


「それと言い忘れたけど、今度から敬語はなしよ。私達お友達でしょ」


 そう言って、彼女は静かに席を立ち上がると、小さく手を振り図書室を出て行った。

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