『そのときを』

「ひとつお願いがあるのだけれど。」

「うん、言ってみて。」

「牛乳が飲みたいの。普通の。」

「・・・牛乳は駄目なんだ。」

「どうして?こんなに惨めな私の、些細なお願いなのに。」

「・・・もちろん叶えてあげたいんだ。」

「ここのご飯は美味しくなくって。最近じゃあほとんど残してしまうわ。美味しい牛乳が飲みたい。」

「・・・ごめん、それはできないんだ。前に怒られてしまったんだ。勝手にされては困ると。」

「・・・そう。」

「ごめんね。」

「・・・。」

「・・・。」

「ねぇ、ねぇって。この世は紙で出来てるの。大変だわ。」

「うん。」

「みんな敵。敵なんだ。」

「・・・うん。落ち着いて、大丈夫。大丈夫だから。」

「ふぅーっ・・・。」

「大丈夫。」

「・・・ごめんなさい、またみっともない姿を。」

「いいんだ。目を見て。・・・うん、大丈夫だ。」

「・・・ごめん。ごめんね。」

「うん。」

「何もしてあげられなくてごめん。」

「ううん。いいんだって。」

「・・・。」

「じゃあそろそろ行かなきゃ。また来るからね。」

「そう、気を付けてね。・・・強く、生きてね。」

「・・・僕はちゃんと、あなたの息子だから。」

「うん。うん・・・ありがとう。」




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