『ひとり』

「そんなことあるものか。」

「あるんだよ、実際、君の目の前で起きていることなんだ、受け入れなよ。」

「俺は、俺だ。」

「君は私を否定するの?」

「・・・。」

「私たちは随分長い間あなたを見てきた。最近になって君の出番が減ってきたから、てっきり気付いているもんだと。」

「あいつを止められないのか。」

「私か貴方が出てこなければいけない。もっとも、その方法はわかりかねるけどね。」

「・・・俺は臆病だ。俺ら三人のうちで言えば、間違いなく俺のもののはずなんだ。なのに何故か、それに対して理由も形もない違和感があるんだ。俺が彼を押し退けて出ていったところで、これは俺のものではないという真実を突きつけられそうで、それがたまらなく恐ろしいんだ。」

「・・・真実をいうなら、彼のものでも私のものでもなく、間違いなく貴方のものだ。そして更に真実をいうなら、貴方は今、逃げている。口では彼を止めなくてはいけない、というけれど、本心は違うね。自分ではやりきれない苦しみを、行き場のない怒りを、彼に託しているの。加えると、その事実からも逃げている。」

「俺は・・・。」

「私はほとんど出番がないものだから、誰よりも貴方を見てきた。彼と貴方は二人のようで一人なの。信じてあげて、彼を・・・いや、貴方を。ああそう、ついでに私のこともね。」



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