第3話 筋肉vs脂肪
メシテロリーダーは大統領の前に立つや否や、早速と言わんばかりに脂肪から折りたたみ式キッチンを取り出して展開した。
「まだデザートが残っていたよなぁ? 大統領?」
「その通りだ」
「ならばスイーツ勝負だ! これをくらえ!」
まともに勝負する筈がなく、彼はキッチンに仕込んだ機関砲で大統領のキッチンを破壊してしまった。
「それはまさか、違法キッチンか!?」
最近巷では非合法のキッチンが裏世界で売買されているという。様々な武器を仕込み、料理勝負する相手のキッチンを破壊する卑劣なもの。
何より違法キッチンには『違法』と書かれており堂々としている。
「そうだ、だがそれがどうした! 違法だろうが正しく使えば合法となるんだよ!」
「いや貴様のは普通に違法だ」
「そこは目をつぶれ」
「無理だ」
「ならば料理勝負だ!!」
「最初からそうでは?」
そういう事になった。
「だが大統領のキッチンは俺が破壊した! 勝利は確実だな!」
「果たしてそうかな?」
「なに?」
「料理をつくるのに調理器具は必要ない、盛り付ける皿と……筋肉があれば充分だ!!」
大統領は鍛え上げられた目力で無事な食材を選り分けながら、腹筋運動で超高音に熱せられた腹直筋で鉄板を熱殺菌する。
熱殺菌が終わった鉄板は大統領が放った掌底から発せられた竜巻によって冷まされた。
冷めた鉄板の上に食材を並べる。
メシテロリーダーはといえば、事前にストックしておいたらしいスポンジケーキにクリームを塗り始めていた。もうすぐ完成か。
「使える食材は卵とステーキ肉とリーフの残りとプロテインと各種調味料か」
幸いにも調味料は箱に詰めて筋肉バッグに入れていたため破壊は免れていた。
「これだけあればプリンができるな」
早速大統領はプロテインシェーカーに水と卵とプロテインを入れてシェイクした。
亜音速で振られたシェイカーの中では、異常な程の摩擦熱により超高音となって、卵と水とプロテインをドロドロになるまで湯煎に近い状態で混ぜる。
そうして出来上がった中身を取り出して型に入れて北極まで走って持っていく。
アメリカから北極までは走って約五分、行ってプリンを冷やして固めてからまたアメリカまで戻る。
この間約十二分。
「自己ベスト更新だ」
まさに筋肉的で素晴らしい。
「北極を冷蔵庫代わりにするとは考えたな」
「鍛え上げた筋肉を駆使すれば造作もない、こちらはもう盛り付けるだけだ」
「こちらも鍛え上げた脂肪を駆使してトッピングしているところだ」
大統領は既に腹筋で盛り付け皿を熱殺菌している。
メシテロリーダーも最後のトッピングだけだ。
奇しくも完成したのは両者同時であった。
「さすがは大統領、だがこちらは違法キッチンなのを忘れてないか?」
「申し訳ないが、忘れていた」
メシテロリーダーはスイッチを押して蛇口を変形させて機関砲にさせた。引鉄を引いて柿の種を発射、周辺の瓦礫を破壊しながら大統領を殺さんとする。
「ピーナッツが入っていないのには理由があるのか?」
「俺がピーナッツアレルギーだからだ」
「納得した!」
弾丸となった柿の種は全て大統領がキャッチしてお腹にいれた。食べ物は粗末にしてはいけないと地下鉄の車掌が言っていた。
全ての柿の種を消化した大統領は次に自らが作ったプリンをメシテロリーダーに食べさせんと、皿を片手に前へでた。
最早違法キッチンでは大統領を倒せないと悟ったメシテロリーダーも、作ったケーキを手に大統領へ突撃する。
「俺のケーキを喰らえ!」
「いただこう!!!」
メシテロリーダーのケーキが空を飛びそのイチゴを広げた。さながら天使のよう。
大統領のプリンもまた空へ上がり、プロテインを筋肉のように広げた。
「ほお、プロテインソースで空を飛んだか、流石は大統領」
「いやいや、そちらのケーキも中々のもの、詰め込まれた脂肪分であの出力をだしているのだな、素晴らしい」
刺し詰めこれは筋肉と脂肪の尊厳を掛けた争い、筋肉のプリンか、はたまた脂肪のケーキか、今人類史に残る世紀の対決が始まったのだ。
プリンとケーキはしばし睨み合った後、お互いの力をぶつけんと激しいドッグファイトを繰り広げる。プロテインソースがケーキを殴り、脂肪クリームがプリンを殴る。
泥臭く、痛々しい戦い。誰もがそれに見入る。
激しい猛攻、とめどなく行われる戦いはいつしか迫力を衰えさせていった。そう、二つの料理はお互いの攻撃で崩れてしまい原型を留めなくなってしまったのだ。
どうやらこの勝負は引き分けに終わったようだ。
「大統領、この勝負は預けたぞ。お互い材料は使い切ったはずだからな」
とメシテロリーダーが違法キッチンを片付けながら大統領をみると。
「プリンは二つあるが?」
余った材料で二つめを作っていた大統領が立っていた。
敗北を理解した。
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