第2話 激突! メシテロリスト!


 美味しい料理を作るのに必須なものとは何か、それはあらゆる料理人にとって最上の命題と言えよう。

 ある者は調理器具と言うかもしれない。

 またある者は上質な食材と言うかもしれない。

 クサイ台詞ではあるが、愛情と言う者もいるだろう。

 だが。

 

「料理に必要なもの、それは筋肉だ!」

 

 大統領はそう断言した。マッスルパーフェクトである。

 

 

――――――――――

  

 

 どのような世界にあっても不届き者はいるものである。

 この日、アメリカのロサンゼルスを震撼させる事件が起きた。

 

 メシテロリストの登場である。

 

「深夜に小腹が空いた人間の目の前で食べる飯は最高だぜ!!」

 

 彼等は卑劣であり、卑怯であり、愚劣でもある。夜、ちょっと小腹が空いてコンビニに出かける者や家でカップ麺を作ろうとする者の前に現れ、拘束して、目の前で美味しそうな匂いを漂わせる料理を食べるのだ。

 卑劣! なんという卑劣! あの切り裂きジャックですらここまでの外道は行わなかった!

 

「そこまでだ!」

 

 卑劣極まりないメシテロリストの前に立ちはだかる影があった。説明するまでもない、大統領である。

 鍛え上げられた筋肉を誇示して相手へ威圧をかける。

 

「きたな! だが俺達を止められると思うな!」

「いーや! ここで止めさせてもらう!」

 

 メシテロリストを止めるため、大統領は折り畳み式キッチンを展開した。

 

「気をつけろ! 大統領は俺たちに飯を食わせて幸せにするつもりだぞ!」

「なんてやつだ!」

「それでも大統領か!!」

 

 メシテロリスト達に動揺が走る。だがそうしてる間にも大統領は料理を始めており、彼等を満腹にしようと画策していたのだ。

 このままでは大統領にお腹を満たされて幸せを感じてしまうと危惧したメシテロリストも、それぞれ折り畳み式キッチンを展開して戦いを始めた。 

 

 まずは前菜、大統領はシンプルにサラダで勝負を始めた。

 冷蔵庫からキャベツと人参と玉葱を取り出して手刀でみじん切りにする。切った野菜を器に盛り付けてからプロテインドレッシングをかける。

 

「しまった! 大統領のやつもう前菜を用意しやがった!」

「はやすぎる! こちらはまだレシピ確認が終わったところだぞ!」

「これが大統領になった男の実力か」

 

 メシテロリスト達の前に大統領のサラダが置かれる。それを見たメシテロリストの一人が後方へ吹き飛ばされた。

 

「くっ、サラダのあまりの完成度に耐えられなかったか! 気をつけろ! 奴の料理はおそろしく美味いぞ!」

 

 ただのサラダではない、なんと人参と玉葱は湯煎をして温野菜としているのだ、外で食べる者の体調に気を使ったおそろしく優しさに満ちた料理。

 それがわかるからこそメシテロリスト達の身体にダメージが入るのだ。

 

「人数ではこちらが上だ!」

「嘘だろ! 大統領のやつスープを作り終えやがった!」

「この短時間でだとぉ!」

 

 大統領がプロテインスープを出した。プロテインの香ばしい香りが鼻腔をくすぐり肉体的ダメージが蓄積される。

 

「サラダができた! こいつで耐えろ!」

 

 プロテインスープの猛攻を野菜スティックで彩ったサラダが防ぎ辛うじて致命傷を避けた。

 

「フハハハ、メシテロリストの割にはやるではないか! だがこちらはメインディッシュができたぞ」

 

 大統領が出した大皿にはジューシィな薫りを漂わせるサーロインステーキが乗っていた。匂いから察するにワインとプロテインだけで味付けをしている。

 実にシンプル、しかしステーキというものは焼き加減が大事、それを表すため大統領は鍛え上げられた指の力で真空刃をだしてステーキをザク切りにして中身を見せた。

 断面から肉汁が溢れ出て下に敷いたリーフに染み込んでいく。

 

「ミディアム……だと!?」

「絶妙に肉汁が溢れ出る焼き方をしやがって! あのリーフ絶対美味いぞ!」

「こっちもスープができたぞ」

「メインディッシュも完成した」

 

 人数が多い分料理の完成も早い、大統領の尋常じゃない速度で調理していくのに対抗するには、人数で補うしかない。

 大統領のサーロインステーキに対して、メシテロリストはコーンポタージュと鮭のムニエルで勝負を仕掛ける。

 

 サーロインステーキのアッパーカットがコーンポタージュの顎をとらえてマウントに沈めた。鮭のムニエルが後ろに回ってサーロインステーキを攻撃するが、伊達に大統領が作ったわけではない、鍛え上げられたサーロインステーキの筋肉が鮭のムニエルを弾き飛ばした。

 

「つ、強すぎる!」

「最早あれは俺達の知ってるサーロインステーキじゃねぇ!」


 サーロインステーキを超えたサーロインステーキ、超サーロインステーキなのだ!

 

 メシテロリストは惨敗した、まだデザートが残っているが、彼等はもう戦意を失っており包丁を握る握力すらなかった。

 だがまだ終わりではない、瓦礫の向こうから弾かれた鮭のムニエルを食べながら脂肪に満ちた男が現れたのだ。


「はぁっ! 情けねぇな!」

「リーダー!!」


 脂肪に溢れた脂肪男はメシテロリストのリーダーらしい。なんという脂肪力、これほどの脂肪力は大統領も見たことが無い。

 

「ほう、メシテロリスト共のリーダーか……是非もない!」

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