クッキング大統領

芳川見浪

第1話 らっきょと福神漬けと恋の話


 今から50年前、アメリカのイリノイ州に隕石が落下した。半径5kmに及ぶ大災害であったが、奇跡的に犠牲者はでなかった。

 

 だがそれとは無関係に世界は料理の腕が全てを決めるようになっていた!!


――――――――――――――――

 

 この日、アメリカ合衆国は一つの転換点を迎えていた。

 そう、大統領選である。

 国のトップを決めるこの争いは最終日を迎えている。相対するは前期大統領と副大統領、この二名による料理対決で全てが決まるのだ!

 

 司会の声がマイクを通して響く、どうやら片方の料理ができたらしい。


『おおっと副大統領の料理が完成した模様です! これはまさか!』

「福神漬けパフェです」

 

 着色した福神漬けによるアイスクリーム、着色した福神漬けによるフルーツ、着色した福神漬けによる生クリーム、着色した(ry。

 まさに福神漬けの福神漬けによる福神漬けのための福神漬けパフェであった。

 

 審査員による実食が始まる。

 スプーンで掬い、口に運ぶ。

 

「こ、これは!!」

 

 クワッと審査員の目が福神漬けへと変化した。彼の脳裏に在りし日の出来事が蘇る。

 

 審査員は福神漬けの酪農家の元に産まれ育った。

 朝早く福神漬けに餌をやり、福神漬けの健康のために放牧も行い、福神漬けの糞を掃除していた。

 大変な毎日であったが、とても充実した毎日を過ごしていた。

 

 ある日、彼は一体の福神漬けに恋をした。彼は福神漬けを求め、福神漬けは彼を激しく求めた。

 福神漬けと彼の間に子供が出来たのは自然な事である。

 

 福神漬けパフェを実食した審査員の福神漬けとなった瞳から汁が垂れ落ちる。

 

「あの頃の気持ちを思い出したよ、初恋は甘酸っぱい福神漬けの味がしたなあ」


 残念ながら人間と福神漬けの恋は親からの反対により叶うことはなく、審査員と福神漬けは悲恋に終わってしまう。

 

「次は大統領の料理だな」

 

 促され、筋肉の大統領が出来たての料理を審査員の前に置く。

 

「これは!?」

「プロテインで作った、らっきょパフェです」

 

 それはまさに福神漬けパフェと同じコンセプトであった。着色したプロテインらっきょによるチョコやアイスや生クリームの再現、まさにらっきょのらっきょによるらっきょのためのらっきょパフェであった。

 一つ違うところをあげるなら、プロテインが原材料なところか。

 

「では、食べてみるか」

 

 審査員が実食のためらっきょを掬う、口に運び、すると。

 

「な、なにぃ!!!」

 

 突如審査員の背中かららっきょが生えた。驚いた拍子にらっきょが生えるのはよくある事。


 らっきょの生えた審査員の脳裏に在りし日が蘇る。

 親がこっそり福神漬けを母子共々出荷したがゆえ、彼が気づいた時には既に誰かの胃に入り排便された後だった。

 彼は悲しみに打ちひしがれて部屋にとじこもるようになり、通っていた学校も休学してしまっていた。そんな時、彼を励まし続けた存在があった。

 

 そう、幼馴染のらっきょちゃんだ。

 

 らっきょちゃんは彼を献身的に支え、尽くし、愛した。彼もまた次第にらっきょちゃんに惹かれていく。

 両親はやはり反対したが、半ば駆け落ちに近い事をしてらっきょちゃんとの結婚を強引に行ったのだ。

 

「まさか、立て続けにこうも感情を揺さぶられるとはな」

「伊達に政治家はやっていませんよ」

「見事ならっきょ料理だった。正直両者甲乙つけ難いが、どちらか選ばねばならぬ、選ばれたパフェを作った方が国の未来を担う大統領となるからだ」

 

 これは大統領選、ただの料理勝負ではないのだ。大統領と副大統領、買った方がアメリカ合衆国を引っ張っていく。

 吟味に吟味を重ね、出された答えは。

 

「大統領のらっきょパフェ!!」

 

 場内が歓声で湧いた。

 

「何故、私が負けたのだ」

 

 一人敗北を理解できない副大統領がそうごちる。そんな彼の肩に手を置いて大統領はその敗因を伝える。

 

「簡単な話だ、君の福神漬けは素晴らしいものだった。素材の味を生かした純朴な味、だがそれは福神漬けそのものを使ったからだ」

「そうか、福神漬けをそのまま使った私に対し、あなたはプロテインのらっきょを作った」

「もう少し筋肉を鍛えたまえ、そうすればプロテインで福神漬けが作れる筈だ」

 

 それから大統領は勝利者インタビューのためステージの真ん中に向かった。

 マッスルポーズをとり、そしてこう叫んだ。

 

「私が大統領だ!!」

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