第5話・死霊使いと牛頭馬頭
数日間何も起きず、俺は普通の大学生活を送っていた。千尋さんも通ってるはずだが、校内で見かける事はなかった。家に帰ると何故かいつも千尋さんの方が早く帰って来ている。友達と遊んだりしないのだろうか?
「千尋さんただいま」
「おかえり優斗」
と言って抱きついてくる、俺は頭を撫でるのが日課になりつつあった。
「今日ね、若松さんと相談してこれを作ったの」
と小さな袋を渡された、居間に行きテーブルの上で袋を開けると名刺と名刺入れが入っている、名刺を見ると『超常現象相談所』と書いてあり中央に副所長坂井優斗、下に携帯番号が書かれていた。
「ありがとうございます、しかしなぜこれを作ったんですか?」
「若松さんのところに噂を聞いた人からの電話が多くて困ってるらしいからよ」
「なるほど、今まであそこが窓口みたいになってましたからね」
「そうよ、最初の一枚頂戴」
俺は名刺を千尋さんに渡す、千尋さんも渡して来るので受け取った。
「まさか探偵事務所のように料金表みたいなのは作ってませんよね?」
「そんなのいらないわ、趣味のようなものだから、交通費さえ貰えれば後は依頼人に任せるわ」
「それでいいと思います、俺は金にがめつい人は嫌いなので」
「知ってるわ、私もそういう男は嫌いなの」
「なぜ知ってるんです?」
「だって祖父母が金持ちだと知っても、いくら持ってるだとか、相続金はいくら入るのか聞いて来ないんですもの」
「ああ、そうですね。俺は金があってもなくても千尋さん自身が好きなので気にした事はありません、この先もこの気持は変わりませんよ」
「私もそんな優斗が好き、これからもずっと一緒にいたい」
「俺もです、結婚したいくらい好きですよ」
「けっ、結婚……本気なの?」
千尋さんは顔を真赤にしている。
「本気です、プロポーズはまだ先になりそうですが」
「プ、プロポーズ待ってる。私も同じくらい好き」
そこで携帯が鳴る。
「もう、ムードぶち壊しだわ、察してよ」
と言って不機嫌な声で電話に出た。
初めての相手らしい挨拶を交わしている。
そのうち俺に向かって不敵な笑みを浮かべた、また依頼が入ったのだろう。何かメモを取り、明日伺いますと言って電話を切った。
「明日、講義ないでしょ。昼から動くわ」
「なんで、俺のスケジュールを知ってるんですか」
と問うと、手帳を出してきて開いて見せてきた。カレンダーには俺と初めて会った日から昨日までのメモがしてあった、俺の名前の横にハートマークが付いている、赤ペンと青ペンで丸印も付いている、俺の講義の日には青ペンで大の字で印が付いていた。
「なるほど、理解しました」
「日記の方は見ちゃダメよ」
「なぜです?」
「見られると恥ずかしい事書いてあるから」
「わかりました」
返そうとして、手が滑りテーブルに落ちたら日記のところが開いていた。
『優斗が好きすぎておかしくなりそう、愛してるし、愛してるって言って欲しい』
続きを読もうとしたらすぐに隠されてしまった。
「見たでしょ」
「少しだけ」
「もう、見ちゃダメよ」
「わかってますよ」
俺は千尋さんを抱き締めた。
「俺も愛してる」
と囁いた。暫くの沈黙の後。
「じゃあ、キスして」
「口にしていいのか?」
返事を待たずにキスをした。離れると。
「やったぁ、二ついい事があった」
「二つ?」
「うん口にキスと口調が普通になった事」
思い返すとそうだった。
「そんなに喜んでくれるなら、これからタメ口で話すよ」
「そうしてちょうだい、もっと素を出して。私も愛してるわ」
この日は終始機嫌が良かった。ベッドに入った後も何度も名前を呼ばされた、これが良かったのか、千尋を呼び捨てにする事が普通になった。
朝起きると千尋は俺の寝顔を見ていた。
「おはよう、ダーリン」
「千尋おはよう、ダーリンって照れるな」
「嫌?」
「嫌じゃないよ、嬉しいよ」
軽く朝食を取ると、千尋が街の地図を取り出し場所を確認している。
「ねぇ、優斗が私と同じ霊が見えるのは知ってるけど、他に霊に対して何が出来るの?」
「千尋みたいに全部の霊を触れる、妖怪を退治出来るし簡単な術なら使える、うちの家計は今は神道だけど、昔は仏教徒だったから両方共かじってる、だからそれに関わる陰陽道も混じってる。幽霊より物の怪の類の方が俺の得意分野だね」
「じゅうぶん凄いと思うわ、優斗は陰陽師かぁ。物の怪って妖怪よね? 今日は幽霊退治を見せてもらうわ」
「陰陽師ではないけど責任重大だな、ピンチになったら助けてくれよ」
「わかったわ」
「準備するから待ってて」
「うん」
俺は部屋に置いてあるダンボールを持って居間に戻る、千尋は楽しそうに見ている。投げ武器と人型の紙の式札を何枚かとチョークを出した。
「道具がいるのね」
「千尋みたいに素手では無理だからね、これでいつでも出かけられるよ」
「私も道具を使うことはあるわ、早いけどこれから行きましょう」
「今日は千尋の運転でな」
「わかった」
千尋の運転はなかなかのものだった、途中今回の依頼の幽霊マンションの前で車を停める、外装はそんなに汚くはないが只事ではない雰囲気が出ている。
「これはヤバそうだな」
「優斗にも感じるの?」
「ああ、これだけの数の霊が集まるのには何か原因がありそうだ、もしかすると……」
「何? 何かあるの?」
「いや、ただの思い過ごしかもしれない」
「何よ気になるじゃない、言ってよ」
「死霊使いがいるのかもしれない」
「死霊使い、そんな事が出来る人間がこの街にいるって言うの?」
「いないとは言い切れない、いるとすれば近所に住んでいるはずだ」
「じゃあ先にその死霊使いを倒せば後がやりやすいんじゃない?」
「そうだな、幸いこのマンションは十五部屋しかないから簡単に見つかるかもな、とりあえず管理会社に向かおう」
管理会社の駐車場に車を停め、事務所に入る、若い男が出てきて笑顔で話す。
「物件をお探しですか?」
「昨日電話をもらった者です、幽霊マンションの件で伺ったのですが」
全員が緊張で固まったのがわかった。ただ社長らしき人物は怒った表情を浮かべているのが見えた。
「田中、中井俺は霊能者を呼べと言ったはずだ、こんな若いカップルを呼べとは言ってないぞ」
「社長、お寺のお坊さんのお墨付きの方です落ち着いて下さい」
田中とネームプレートを付けた若い社員が言う。違う席の中年男性がこちらに来る。
「失礼しました、私は昨日連絡した中井というものです」
田中もこちらへ来る、名刺交換をし席に案内される。幸い他の客はいないようだ。
「来る時に例のマンションを見てきましたがただの幽霊マンションではなかったです。詳しく聞かせてもらえますか?」
千尋が言うと田中が話し出す。
「一年前に幽霊が出たと住人から連絡が入り始めました、ですがどの部屋も事故物件ではないので、お坊さんに見ていただき、お経を挙げてもらいましたが収まらず、次々と住人が出て行きました、全部屋が空になったので取り壊そうと業者に頼みましたが、取り壊し当日、業者の人が骨折をしたり機械が故障したりで挙句の果ては社長が突然死しました、違う業者に頼みましたがこちらも同じようで事故が多発し中止、その次の業者も同じでしたので、霊能者の方に除霊をお願いしたのですがこれも効果がなく、頼んだ霊能者さんたちも全員入院したり死亡し今に至ります」
青い顔をして一気に話すと茶をすすり黙り込んだ。千尋が何も言わないので俺が話す。
「あなた方も幽霊を見ましたか?」
「二人で退去後の部屋を見て回っている時に見ています、正直もうあそこには入りたくないです」
「宗教関係の方は住んでいましたか?」
「はい、二百一号室に住んでいましたが、何か祭壇のようなものを残して出て行かれました、最後の住人がその木下さんでした。ですがおとなしくて迷惑をかけたりするような方ではなかったです」
「その人は今近所に住んでますね」
二人が驚いて目を合わせる。
「ええ、幽霊マンションの両隣もうちの物件でして、向かって左隣の三百一号室に今も住んでいます」
ビンゴ、思っていた通りだ。
「その木下さんが退去する前の住人はいつ頃退去されました?」
「確か三ヶ月前くらいでしょうか」
「木下さんのフルネームを教えて下さい」
メモに木下真司と書いて渡してきた。
俺はそのメモに五芒星を書き、持ってきた和紙にも同じ五芒星をチョークで書き、メモを中心に置きテープで固定した。
「動く事を禁ずる、急急如律令」
と唱え、紙をリュックに入れた。
「これで暫く時間稼ぎをした」
と千尋に言った。わかったと目で合図が帰ってくる。
「早速ですが、幽霊マンションに行きましょうか、隣のマンションのマスターキーも持って来て下さい」
管理会社の車に乗り込み幽霊マンションに向かった。車内で千尋が言う。
「やっぱり陰陽道じゃないか、以前閻魔様がはぐれ陰陽師と言ってたよな」
と笑みを浮かべる。
「今はこれしか咄嗟に出来なかったからな」
すぐに幽霊マンションに着いた。
「あの、私達も一緒に行くんでしょうか?」
「もちろんです、大丈夫です守りますから、あっ千尋は隣のマンションの木下の祭壇を壊してきてもらえるか? 動けないようにしているから大丈夫だ」
「壊せばいいんだな、わかった」
俺と社員二人で二百一号室に向かった、やはりここから一番怨念を感じる。
田中が震える手で鍵を開けた。2DKの部屋に入ると老若男女問わず無数の霊が彷徨っている。
「お二人にもこれらの霊が見えますか?」
「み、見えてます」
二人が答える、声がかなり震えている。
霊を避けながら奥の部屋に入ると祭壇があった、ひっくり返し壊した。
霊が苦しみ始めた、千尋も入ってきた。
「早かったじゃないか」
「本当に木下は座ったまま目を開け固まっていたぞ」
「これから霊が暴れだす、千尋は自分で身を守ってくれ、この二人は俺が守る」
「わかった」
俺は床に五芒星をチョークで書き、二人を入れる。
「この二人に触れる事を禁ず、急急如律令」
後はどうやってこれだけの霊をやっつけるか考えた、霊が俺と千尋に向かって来る。千尋は簡単にあしらっているみたいだ。
俺は霊を避けながら式札を霊の頭に貼り付けていく、全部貼り終える。
「土蜘蛛よ喰らい尽くせ、急急如律令」
と唱えると式札から小さな蜘蛛が湧き出してきてやがて霊を覆い尽くすと霊を喰い始めた、霊たちが悲鳴をあげる。
土蜘蛛が食い終えると一人二人と数が減っていったが、他の階の霊が湧いてくるキリがないが同じことを繰り返した。
三十体程の霊を土蜘蛛が食い尽くすと式札に戻り、俺の手に帰って来る。
終わった、部屋に漂っていた瘴気も消え陰湿な雰囲気も温かいものに戻っていった。
二人の術を解き、チョークで書いた五芒星を消す。
「これでこのマンションから霊をすべて取り除きました。もう解体しても大丈夫ですよ」
「本当ですか? 確かに部屋の空気が変わりましたね」
「ええ本当です、今はもうただの中古マンションです」
「木下がいるとまた霊が寄って来るんじゃないですか?」
「そうですね、私達は今から木下に会って、二度と術が使えないようにしてきます」
「同行してもいいでしょうか?」
「構いませんよ、では行きましょう」
四人で隣のマンションの木下の家に入る、木下は壊れた祭壇の前にあぐらをかき右手にコップを持ったまま固まっていた。かなり痩せた三十歳前後の男だった。
術を解いてやると、コップを落とした。
「木下」
俺が声をかけるとビクリとした。
「お前が何かの術をかけたな」
「ああ、俺が動けないように術をかけた、お前には苦痛の二時間だろうけどその間に隣の幽霊マンションの霊はすべて取り除いた、二つの祭壇も壊した」
「嘘だ、祭壇には見えなくする呪法をかけたのに」
「お前の呪術は黒魔術なのか? 一体何でこんな事をしたのか教えて貰おう、答えなければ術が二度と使えないようにする」
「わかった話す、俺は二年前に恋人に振られた。そこで黒魔術を使って恋人が戻るように祭壇に術をかけたが、俺のやり方が間違えていたのか元恋人は変死体で見つかった、そして今度は蘇りの呪法を試したら元恋人は霊になって戻ってきたそれも大量の霊と共にだ。俺は怖くなって全部の術を解こうとしていたところだったが、効果はなく祭壇を壊そうとしたが、作った俺自身も祭壇に触れる事ができなくなってしまった。許してくれ」
「そうか、じゃあもう懲りただろう?」
「懲りたよ、もう二度としない」
「なら許してやるよ。それに黒魔術は己の魂を削る諸刃の剣だ、それを中途半端な術を能力もないのに使うから全部間違った作用が出たんだ、お前の寿命もかなり縮んだようだ」
「そうか、やはり能力はなかったのか」
「ああ能力はない、じゃあ俺たちは帰る真面目に働けよ」
「待ってくれ、俺たちって事は他にも霊能者かいるのか? 目が乾いて見えないんだ」
「ここに俺と同じくらいの霊能者と管理会社の人が二人いる。」
「そうかわかった。管理会社の方ご迷惑をおかけしました、近々田舎の実家に戻ります」
「わかりました、退去手続きはちゃんとして下さいね」
中井が言う。
「はい」
「じゃあ今度こそ帰るぞ」
返事はなかった、俺たちは車で事務所に戻った。
田中は社長に報告している、中井が言う。
「呪術で人が死んでるので警察に連絡した方がいいでしょうか?」
「いや、木下が直接殺したわけではないので逮捕されないでしょう、訴えても無駄です」
「やはりそうですか、しかし本当に驚きましたあなた方は本物の霊能者でした。忘れる事はないでしょう、ありがとうございました」
田中と社長もやってきた。
「先程は失礼しました、まさか本当に退治して帰って来るとは思ってもいませんでした」
「いやいや、俺たちみたいな若いのが来れば誰だってそう思うでしょう」
「これは少ないですが謝礼です」
「交通費だけでいいですよ」
「そういうわけにはいきません」
「じゃあいただいておきます」
封筒はずしりと重かった。
「では、依頼完了なので帰ります」
三人に見送られ、俺たちの車でマンションに帰った。
「今日は疲れた、あれだけの数を一気に相手したのは初めてだ」
「お疲れ様、今日の優斗は強かったしかっこよかったわ」
俺は床に寝転んだ、千尋が側に来て太ももをパンパンと叩く。
「前に約束してた膝枕よ」
俺は頭を乗せた、心地いい。
「寝心地はどう?」
「最高だ、生足ってところがいい」
「よかった。ところで今日のは全部陰陽道の術だったの? 私式神って初めて見たわ」
「咄嗟にあれだけの数を相手にするにはあれしか思いつかなかったんだ、うまいこと土蜘蛛を使役できたからよかった」
「私には真似出来ないわ」
「千尋は強力な仏様の力があるじゃないか」
「まあね、霊能力的には私達は互角ね」
俺は頭を起こし千尋の太ももに触りゆっくりと撫で回す、綺麗ですべすべだ。拒絶してこないのでお尻に手をまわす、柔らかい。
「恥ずかしい、けど不思議と嫌って感情が出てこないわ、相手が優斗だからかしら?」
俺は様子を見ながら胸を触った、千尋は顔を赤くしただけだ。服の中に手を入れ生で触る、体の割に胸は大きい。少し感触を楽しんで手を離した。
大進歩だった、男性不信が収まってきているのだろうか?
「もういいの?」
「今日はここまでで止めておく、男性不信がぶり返したら駄目だしな」
「優しいのね、私の体どうだった?」
「最高だよ」
「そっちは我慢出来るの?」
と俺の股間を指差す。
「千尋が慣れるまで我慢するよ」
「ありがとう、愛してるわ」
「俺もだよ、愛してる」
キスをしようと顔を近づけた時、くらっとしたこの感覚は覚えてる。
また暗闇に迷い込んだ千尋に言う。
「閻魔様が現れるぞ」
と言う、千尋も頷く。
『お取り込み中申し訳ない』
閻魔様ではない野太い声だが違う。
『誰ですか』
俺は闇に向かって問う、姿が見えてきた。
二人いる、牛頭馬頭だ。
『牛頭様、馬頭様』
『ほう、俺たちを知っているのか話が早くて助かる』
牛頭様がそう言う。今度は馬頭様が話す。
『閻王様からの伝言だ』
『何でしょう』
千尋は黙っている。
『今日の事は全部見ていたが見事だった。荒削りだがはぐれ陰陽師の力とくと見せて貰った。指輪の力を使えば一瞬で終わるのに使わなかったな、ますます気に入った。だとさ』
今度は牛頭様が話す。
『その指輪はお前たちが望めば人間界の世界の王にもなれる程の力がある、指輪からの声にもっと耳を傾けろ、お前たちから質問しても答えが返ってくる、お前たちは出会うべくして出会った、前世からの運命なのだ、とおっしゃっていた。その指輪は閻王様の宝物の一つなんだ、正直俺たちも羨ましい』
『そうですか、指輪の声の主は誰の声なんですか?閻王様は出てこれない理由でもあるのですか』
『笑わせるな、閻王様にそう簡単に会えるとは思わない方がいい、お前たちが死んだら会えるだろう俺たちにもな。指輪の声の主はいずれわかるだろう』
『牛頭様と馬頭様が来られたのも特別って事ですね』
『そうだ、お前らに興味が湧いたから特別に会わせていただいた、今度から何かある時には別の低級な使い魔が来るだろう』
『わかりました、ありがとうございます』
『じゃあな、閻王様の言葉を忘れるなよ』
目開けた、千尋も目を開けた。
「見たか?」
「ええ、姿もはっきりと。私は怖くて声が出なかったわ。でも私達が出会ったのは前世からの運命ってロマンチックだわ」
「一生離れられないのか」
「何よ、別れたいの?」
「そういうわけじゃない、嬉しいなと思っただけだ。それとこれからも困難が待ち受けてる気がする」
「そうね。指輪に何か質問してみてよ」
俺は右手に向かって話しかけた。
「指輪様、いらっしゃいますか?」
『何か用かしら? 手を下ろしていいわ』
頭の中に声が直接入ってくる。
「なんとお呼びすればいいのでしょうか?」
『適当でいいわよ、呼び捨てでも構わない。それと私に敬語を使わないでいいわ』
「わかりました」
『後、声が出せない時は心の中で問いかけるといいわ。千尋とのやり取りも言葉を使わず出来るから試してみるといい』
「試してみます」
俺は心の中で強く念じて問いかける。
『千尋、今の指輪の声聞こえたか?』
『聞こえたわ、私の声も聞こえる?』
成功したが集中力がいる、声を出した。
「聞こえたよ、成功したな」
「うん、コツがいるわね」
「いざという時に便利そうだ」
「そうね」
「そういや、今日貰った報酬は見たのか?」
千尋が茶封筒から金を抜き出す。千尋が数える。
「四十万円もあるわ」
と言って半分渡してきた、俺は十万円だけ財布に入れ残りを千尋に渡す。
「どうしたの?」
「預かっておいてくれ」
「今度二人共有の口座を作っておくわ、報酬はそこに貯めるようにしましょう」
「それがいいな、頼んだ」
立ち上がり窓を開ける、心地よい風が入ってくる。牛頭馬頭の言葉を思い出す、前世からの運命、俺達は仏様や神様に操られているのか? それとも元々決まっていた運命なのだろうか? 考えてもわからない。
「俺はこれから先も千尋と共に歩む」
と独りごちる。
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