第22話 アリアとのデート



王都にあるアルテナの拠点に戻った翌日、シルヴィアからの連絡もまだ無くやることもなかったため、ルドラは予定通りみんなとデートすることになった。


とはいえ、王都にはルドラ達の顔を知る人も多少いるし、エルシアの姿などは知られているのでそのままでは街を歩くことなどできない。

そこで、エルシアの神聖スキル『ナイトメア』で姿を変えることにした。


これまではブランの魔道具で姿を変えていたが、時間制限もあるし魔力も必要なので使い勝手が悪かった。エルシアの神聖スキルは、今回のような街へ出る時に限らず、諜報員に認識阻害を付与することもできる。


まず最初にアリアとデートすることになり、次の日からクレア、マリナ、エルシアの順に1日ずつデートの予定だ。


「ルドラと2人きりでデートなんて初めてね」

「いつもアリアとマリナは一緒だったからな。これからも2人きりの方がいいか?」

「うーん‥‥やっぱいいわ。マリナと一緒も楽しいもの。でも、たまにはこういうのもいいわね!」


アリアは妹のマリナに対してとても過保護で、どこか行くにも必ず一緒についていっていた。

2人が離れていたことなんて、今回を含めて数えるほどしかない。


「行きたいところとかあるか?」

「んー、ルドラに任せるわ」

「じゃあ、しばらく服でも見たり買い物するか。その後で昼ご飯食べて、演劇でも観よう」


それから3軒の服屋を2時間ほどかけてまわると、ちょうどいい時間になったので近くのお店で食事を購入し、そのまま野外劇場へ向かった。


野外劇場は王都の中央付近にある施設で、ステージを中心に扇形の階段状に観客席が展開されている。

恋愛から戦闘、喜劇まであらゆるジャンルの劇が1日に5回ほど公演され、一度券を買えばその日一日居座ることもできる。


「ルドラは演劇を見たことはあるの?」

「一度だけな。人気の恋愛の劇で面白かったが、男1人で見るもんじゃなかったな」


2人分のチケットを購入してステージ正面の席に座ると、ご飯を食べながら話すことにした。


「へぇ、どんな話だったの?」

「身分違いの2人が恋に落ちて、いろんな障害を乗り越えて結婚する話だったんだが、結婚してからのラブラブな夫婦の話が結構長くてな」

「たしかに1人で見るのは私でもキツそうね」


あれはおそらく、恋人同士で観ることを想定して劇だったのだろう。

実際カップルも多かったし、終わった後でキスやハグ、告白している人などもいた。

それが余計に1人で観にきていたルドラにとって気まずかった。


「今日のは喜劇だからそんな心配もいらないな」

「そうね。ちょっとだけ恋愛劇も見たかった気持ちはあるけど、喜劇も楽しみだわ」


まだ空席も少し見られるが、開演時間となったために劇は始まった。

王都で公演されているだけあって、ただ面白いだけではなく劇としての完成度も高かった。

アリアなんかはずっと笑っていたくらいだ。


「面白かったわね!」

「アリアずっと笑ってたもんな」

「そ、それは、面白かったんだから仕方ないでしょ!ルドラだって笑ってたじゃない!」


ルドラが少しからかったように言うと、顔を赤らめて言い返してくる。

今日のアリアは緊張しているのかやけに大人しかったので、やっといつも通りに戻った気がする。


そうして話していると、先ほどまで空席もあった劇場に人がどんどん入ってきて、あっという間に満席となった。


「どうかしたのかしら?」

「次の劇が人気みたいだな。どうする?観ていくか?」

「うーん‥‥気になるけど、せっかくのデートだから他の場所も行きたいし‥‥」


アリアも興味があるらしいが、初めての2人きりでのデートを演劇だけで終わらせるのは勿体ないと迷っているようだった。


「観たいなら観ればいいよ。デートならまたすればいいし」

「ほんと?」

「あぁ」

「なら少し観たい、かな」

「わかった。じゃあ、何か食べ物買ってくる」


そう言ってルドラは劇場の近くにある屋台へ向かった。


5分ほど経ってポテトフライとリンゴジュースを手にしたルドラが劇場に戻ると、満席どころか外で立って観ようとしている人も多いほどだった。


「あ、おかえりなさい。もうすぐ始まるみたいよ!」


普段よりも大きい声ではしゃいでいる姿は年相応な少女の姿で、なんだか微笑ましかった。

アリアの言った通り、ルドラが座ると間もなく出演者がステージに上ってきた。


「只今より、月に一度の特別公演を行います!」


司会者が宣言すると、観客からは大歓声や拍手が響き渡り、ルドラ達の期待も否応なく高まる。


そして始まったのは、クロノスに関する劇だった。

内容も大袈裟なほどにクロノスを持ち上げるものばかりで、とても面白いものではない。

しかし、他の観客にとってはそうではないようで、合間に拍手が沸き起こるほか、祈りを捧げている人も少なくない。


「何よこれっ!こんなの」

「アリア、落ち着いて」

「でも!」

「落ち着いて。もう出ようか」


ルドラは、ショックを受けた様子で憤るアリアを宥めて席を立つ。


「なんだ、にいちゃん達、クロノス様の劇を見てかないのか?」

「だって、むぐっ!?」

「すいません、彼女が調子悪いみたいなので」

「そうかい、お大事にな」

「ありがとうございます。行こう、アリア」


アリアの口を塞いで言葉を遮り、引っ張るように劇場を後にする。

そのまま人気の少ない自然公園のベンチに並んで腰掛ける。


「すまなかった。予め調べておけば避けられたことだった」

「い、いえ、私こそごめんなさい。あんなところ初めて見たから動揺しちゃったわ‥‥」


アリアは辺境の村で生まれ育ったこともあり、また、村を出てからもあまり街を観光することがなかったため、クロノスへの信仰をあまり身近に感じたことはなかった。

自分たちがクロノスについての真実を知っているため、あのような光景に衝撃を受けたのだろう。


「だが、あれがこの世界の普通だ。これから先もあのような場面に出会うこともある」

「‥‥そうね。早く慣れなきゃいけないわ」


そう言いつつも悲しそうな表情を浮かべるアリアをルドラはぎゅっと抱きしめた。

アリアは驚いた様子だったが、理解すると腕を回して抱きしめ返した。


しばらくしてアリアが落ち着いてくると、さっきまでのことは忘れて、デートを再開させる。

その後は服以外にも宝石などのアクセサリーや魔道具店、武器屋などいろんな店をまわり、日が暮れてきたところで帰ることにした。


「楽しかったか?」

「楽しかったわ!少し嫌なことはあったけど‥‥それでも、ルドラと2人で遊ぶのなんて初めてだったからとっても楽しかった!」

「ならよかったよ。そうだ、これ、俺からのプレゼント」


ルドラは懐からピンクのリボンで飾られた包みを取り出してアリアに渡す。


「開けてみていい?」

「いいぞ」


アリアが包みを開けると、アリアの赤い髪にあった髪留めと水色の散りばめられた水色のブレスレットが入っていた。


「俺も今日は楽しかったよ。またデートしようね」

「あ、ありがとう‥」


恥ずかしそうに顔を逸らすアリアを再び抱きしめて、手を繋いで拠点に帰った。


こんな日常を守るためにもクロノスを倒さなければならないと、ルドラは改めて決意するのだった。


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