第23話 デートと通信
アリアとのデートの翌日はクレアと、さらにその次の日はマリナとデートをし、最後に今日がエルシアとのデートの予定だった。
「エルシア様、お元気ですか?私です、シルヴィアです」
拠点を出て少ししたところで、シルヴィアに渡していた通信魔道具から連絡が届いたのだ。
そのままデートを中断して通信を開始する。
「聞こえてるわ。そっちはもう落ち着いたの?」
「はい!エルシア様と早くお話しできるように終わらせました!」
シルヴィアの声色はとても明るく、本当に楽しみにしていたのだろうと想像がつく。
「どんな状況になってるか教えてちょうだい」
ルドラがエルシアに視線で質問するように促し、エルシアもそれを汲み取って質問する。
ルドラはこの間の再会の時に2人の会話に割って入ったらシルヴィアに嫌な顔をされたのを気にしていた。
その質問に、シルヴィアは魔国の現状を説明する。
「このように、元グレヴィル派の殆どは大人しくなり、反抗的な一部は排除されました。これでグレヴィル派は実質的に崩壊しました」
主を失ったグレヴィル派のほとんどの者は大人しくシルヴィアの下についたが、一部の過激な者はグレヴィルの親族を擁してシルヴィアに抵抗しようとしていた。
しかし、実績も実力もない親族を王に担ぎ上げるのは無理で、そのような者達は揃って排除されることになった。
今の魔国はシルヴィアが魔王代理を務めており、エルシアがいなくなった混乱も落ち着きつつある。
魔王ではなく魔王代理なのは、シルヴィアはエルシアが生きていることを知っているため、エルシアを差し置いて自分が魔王を名乗ることに抵抗があったからだ。
「それはよかったわ。これからも魔国をお願いね」
「はい!お任せください!それより、エルシア様がルドラ様のもとへ行かれた経緯はなんだったのでしょうか?」
「それは、クロノスを倒すためだ」
ここからがルドラ達にとっては本題だ。
クロノスがこの世界を支配しようとしていること、自分たちはクロノスからこの世界を守るために仲間を集めていることを説明する。
「だいたい分かりました。私にも協力させて下さい」
まだルドラが協力して欲しいと言う前に、シルヴィアの方から協力を申し出てくる。
「まだ全部説明してないのにいいのか?」
「もちろんです。私もエルシア様を神敵としたクロノスを憎んでいますから」
シルヴィアがルドラの言うことを簡単に信じた理由が気になっていたが、どうやらそういうことらしい。
尊敬するエルシアを裏切った時点で、彼女のクロノスに対する信仰心など消え失せていたのだ。
「そうか、それは助かる。ありがとな」
「いえ、エルシア様のためですので。それで、私は何をすればいいのでしょうか?」
エルシア第一の姿勢を一切崩さないシルヴィアに苦笑しながらも伝えておくべきことは伝えておく。
「決戦の時に仲間は多ければ多い方がいい。できるだけ魔国の民をまとめておいて欲しい。それから、神聖スキルというものを手に入れて欲しい」
神聖スキルについて、種族の限界を超越することで得られるもので、これを集めることでこの世界の真の神であるアルテナが力を取り戻すことができると説明する。
「分かりました。私にできるか分かりませんが、エルシア様のためにもやれるだけやってみます」
「多分大丈夫だと思うぞ。お前のバトルセンスは魔王だった頃のエルシアと比べても遜色ないくらいだ」
「そ、そんな、エルシア様に比べたらまだまだです」
「謙遜しなくてもいいのよ。私もそう思ってるわ」
才能では魔国史上最大の魔力を持つエルシアに遠く及ばないが、エルシアの役に立てるように努力を重ねてきたことでそのレベルにまで達したのだ。
その努力さえあれば、神聖スキルを手に入れるまではさほど時間もかからないだろう。
「分かりました。できるか分かりませんが、やれるだけやってみます」
「頑張ってね」
「はいエルシア様!頑張ります!」
その後はエルシアとシルヴィアが楽しそうに話を続け、1時間ほどしたところでシルヴィアの部屋のドアがノックされたことで終わりになった。
「エルシア様、また連絡してもよろしいでしょうか?」
「もちろんよ。私達の方からも連絡することもあると思うから、その時はよろしくね」
「お待ちしています!」
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「少し遅くなったが、昼飯を摂ってから続きをするか」
「そうね。何にしようかしら」
シルヴィアとの通信を終えた後、近くの定食屋に入り、ルドラはステーキを、エルシアは魚料理を注文した。
「ん、これ美味しいわね。香りもすごくいいわ」
「この店は確かに美味しいな。これからも時々来たいくらいだ」
これまでルドラが行った店の中でもかなりの上位に入るほど、この店の料理は美味しかった。
2人でしばらく料理に舌鼓を打っていると、今度はルドラの持つ通信用魔道具に連絡が来る。
相手は諜報のグレイだった。
「どうした?」
「ルドラ様!たった今、連合国にいる諜報員から、連合国で反乱の兆しがあるとの連絡が届きました!」
「なるほど。分かった。すぐに戻る」
「デート中に申し訳ありません」
「気にするな。お前が悪いわけじゃない。連絡してくれてありがとな」
ルドラは通信を切ると、エルシアの方を振り返って言う。
「連合国で反乱が起きそうらしい。すまんが今日のデートは延期ということにしてくれ」
「気にしないでいいわ。それに、私はまだアルテナに入ったばかりで、何もお礼されるようなことしていないもの」
ルドラにとっては、アルテナに入ってくれたことや、神聖スキルを手に入れたことなど、感謝していることはたくさんあった。
だが、エルシアからすればそれらは自分のためにやったことなので感謝されるようなことではなく、むしろ命を狙われていた自分を助けてくれたことに感謝しているくらいだった。
「それでも俺は感謝してる。時間ができればデートの続きもするし、デート以外にもして欲しいことがあれば言ってくれよ」
「分かったわ。ありがとね」
こうして、ルドラとエルシアとのデートは連合国で起きた問題のせいで中断せざるを得なくなった。
だが、ルドラもエルシアもそのことを気にする余裕はすぐになくなる。
なぜなら、連合国の内乱にクレアの家族が大きく関係していたからだ。
一応補足ですが、エルシアが魔王国を出ることをシルヴィアにも伝えられなかった理由は、ルドラが来たときから勇者が来るまで時間がなく、シルヴィアは仕事で出ていたため伝えられなかったからです。
シルヴィア以外の人は信用できないので伝言を頼むこともできませんでした。
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