第16話シルヴィア
「どうすればいいの‥‥?こんな時エルシア様がいれば‥‥」
魔国軍の天幕の中でシルヴィアは頭を抱えていた。
エルシアの敵討ちを果たすために始めたこの戦争は思いがけない障害によって中断せざるを得ない状況だった。
元々、この戦争は勇者が現れるまでの短期決戦でしか勝機はなかった。
勇者の実力がエルシア以上なら、勇者と王国軍を同時に相手取るのは不可能。
なので、先に王国軍を倒しておく必要があるという、無茶な計画を立てていたのだ。
シルヴィアにとってエルシアは、幼い頃に両親を亡くし、頼れる親戚もいなかったところを助けてくれた恩人であり、尊敬を超えて、信奉の域に達していたほどだ。
そんなエルシアを殺した人族への恨みからこの戦争に賛同した。グレヴィルの企みは分かった上で。
だが、ドラゴンの出現で精鋭達を失い、グレヴィルまでもが亡くなったいま、これ以上戦争を続けても勝ち目はない。直ぐにでも撤退するべきだ。
頭ではそうわかっているのに、どうしても決断しきれなかった。
シルヴィアは頭が良く仕事もできるが、頭がいいが故に考えすぎてしまい、大事な決断を下せないこともある。
これまではエルシアの決断に従っているだけで良かったので、優秀な頭脳を万全に活かすことができた。
だが、もうエルシアはいない。シルヴィアが魔国のトップとして様々な決断を強いられる立場になった。
とてつもなく重い重圧に押し潰されそうになるが、エルシアが大切にしていた民を守るという一心で必死に耐えてきた。
「エルシア様‥‥こんな時どうすればいいのでしょうか‥‥」
この呟きももう何度目か。意味がないと分かっていても、困ったことがあるとエルシアに縋ってしまう。
しかし、今回のつぶやきには応えが返ってきた。
突如結界が展開され、見知らぬ人族の男がやってきたのだ。
「だ、誰!?人を呼びますよ!」
「魔国軍指揮官のシルヴィアだな?軍の撤退をさせて欲しい。エルシアは生きている」
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