第17話 VS黒龍



ルドラとエルシアがシルヴィアの説得に行ったあと、クレアとアリアは言われた通りにドラゴンの討伐へと向かった。


「では、私が奴の気を引こう。その隙に神聖スキルで仕留めてほしい」

「わかったわ。大規模な魔法撃ち込むから、合図したらちゃんと避けるのよ」

「わかった。では、行こう」


クレアは目にも止まらぬ速さでドラゴンの元へと駆け抜け、腰の鞘に手をかける。


「抜刀術『閃華』」

『グゥオオオ!!』


音速を遥か超えた、光速にも迫る勢いで振るわれた刃にドラゴンは辛うじて反応したが、防ぎ切ることはできずに深い傷を負った。


クレアの不意打ちでの一撃に反応できただけでも、このドラゴンが異常な強さを持っていることがわかる。

アルテナの中でもこれを受けきれるのはルドラとエルシアのみで、戦闘を得意としているアリアでも、不意打ちでない状態でも避けるのが精一杯というほどだからだ。


だが、いくらドラゴンが強いとはいえ、初手でクレアの一撃を受けたことで完全に後手に回っている。

痛みに怯んだ隙に、クレアはすかさずドラゴンの懐へと入り、剣の腹で殴るようにして吹き飛ばした。


「アリア!」

「分かってるわ!『蒼炎』!!」


空のように澄んだ青色の炎がアリアによって放たれる。

ドラゴンもこの炎の危険性を察したようで、慌てた様子だったが避けることはできない。

大きな翼で体を覆い尽くして耐えようとする。


『グギャャァァァァァ!!』


蒼炎に包まれたドラゴンの断末魔の声が響き渡る。

数秒後、炎が消えたあとには、羽は燃え尽き、体のほとんどが炭化した、生きているのがやっとな姿のドラゴンがいた。


「あれを受けて生きていられるとは見事なものだ。苦しまないうちに終わらせてやろう」


ドラゴンにはもう動く力の残されておらず、クレアによって斬られると、ボロボロと崩れていった。


「なかなか厄介な相手だったわね」

「そうだな。1人では手子摺っただろう」


クレアもアリアも1人で倒すことはできただろうが、場合によっては怪我をする可能性もあった。

2人で戦ったからあっさり倒すことができたが、それぐらいの強敵だった。


「ルドラたちは大丈夫かしら?」

「きっと大丈夫だろう。私たちの主を信じるのみだ」


ルドラがいるはずの魔国軍の方を少し心配そうな目で見つめる。

そうしていると、突如、背後の王国軍の方から歓声が聞こえてくる。


「何かあったのかしら?」

「‥‥‥どうやら、勇者がやってきたみたいだな」

「はぁ‥‥厄介ね」


クレアの身体能力は元々高かったが、神聖スキルの効果でさらに高くなっており、強化魔法も使えば1キロ先まで見えるし、数百メートル先の音も聞くことができる。

その分元素系魔法がという欠点はあるが、それも努力によって改善されつつある。


「はぁ、厄介ね。やっぱりあの時殺せばよかったのに」

「ルドラが決めたことだ、何か意図があるのだろう。私たちは信じるのみだ」

「それは分かってるわよ」


そう言うと、再びルドラのいる方向を眺める。

ルドラの失敗を疑うわけではないが、あまりに時間がかかり過ぎているのが心配だった。


そうしている間に、勇者が来たことで勢いづいた王国軍が魔国軍に逆侵攻をかけようと構え始める。


「勇者様が応援に来てくださったぞ!これまでよくぞ耐え切った!今こそ反撃の時だ!総員、攻撃!!」


勇者が先頭にした三角形の陣で魔国軍に向かって進軍していく。

魔国軍はまだ混乱から立ち直れておらず、王国軍の奇襲によってさらなる混乱へと陥っていた。

逃げだす者もいれば、戸惑いながらその場に立ち尽くす者もいる。


「まったく、仕方ないわね‥‥‥『炎壁』」


アリアは戦場に向けて炎を壁のように広げ、勇者たちの進軍を阻害する。

突然現れた、見たこともないような魔法の壁に勇者たちが戸惑っているうちに魔国軍が撤退を始めた。


「魔国軍は勇者様の力に怯えて逃げていった!勇者様万歳!!」

「「「勇者様万歳!!」」」


それでも一部の者は追いかけようとしていたが、この炎の壁を突破してまで魔国軍を追うのは無駄と判断したリザの一言で追うのをやめ、窮地を救ってくれた勇者を讃え始めた。


「流石だな、アリアは。私にはこれほど広範囲に及ぼす技は使えない」

「それを言ったら、私こそクレアみたいに近接戦闘はできないわよ」

「それもそうか‥‥」

「もう、クレアはもっと自信持ちなさいよ!」

「すまない。善処する」


暗い表情のクレアにアリアはため息をつく。

クレアはいつもこうなのだ。

一対一で戦えば、ルドラ以外には負けないだろう実力を持っているにも関わらず、魔法が苦手なことや、自分にできないことに対しての劣等感が強すぎるきらいがあった。

周りもフォローはしているのだが、こればかりは自分自身でしか解決できない問題なので、いつも歯痒い思いをする。


「とりあえず戻りましょ?ルドラたちももう終わったでしょうし」

「あぁ、そうだな」


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