第14話 開戦と



ルドラたちが国境へ向かって『アイテール』で移動している時、魔国と王国の戦争は始まった。


魔国軍2万に対し王国軍3万と、数の優位は王国軍にあったが、魔人族と人間族の個々の実力も考えると魔国軍の方が優勢であった。


攻める魔国軍に対して王国軍は徹底した防衛体制を採り、犠牲者を出しながらも戦線の維持には成功していた。


だが、徐々に王国軍の数が減ることで戦力差は開いていき、開戦から3日後、魔国軍はこれまで以上に力を入れて攻撃に入った。

その日のうちに王国軍は砦を放棄して防衛ラインを下げた。


防衛ラインを下げたことで危機感を持った王国軍の必死の抵抗により魔国は攻めあぐね、2日間は膠着状態が続いた。


それを破ったのはグレヴィルだった。

遅々として進まない攻略に痺れを切らした彼は自らが先陣を切って王国軍に突撃したのだ。


指揮官が先陣を切るなどあまりにリスキーな上、指揮系統の混乱が起こる危険のある行為だが、今回においては非常に効果的だった。


グレヴィルの代わりにシルヴィアが指揮を執ることで混乱は起きず、また、圧倒的な実力を以って突破口を開くことに成功していた。


そこで王国軍はグレヴィルを止めるべく切り札を投入したことで再び膠着状態に陥るかと思われた。

しかしその時、



『グォォオオオオ……』



地の底から背筋が凍るような唸り声が響き渡る。

両軍は少し怯むが、お互いに相手の策略だろうと考え、すぐに戦闘に戻った。


しかし、数分と経たないうちに再び唸り声が聞こえ、地面に亀裂が走る。

ここにきて流石におかしいと気づいて逃げ始めるが、すでに遅かった。


『グゥォォォオオオオオオオ!!!』


亀裂の走っていた地面が割れ、漆黒の鱗を持つドラゴンが這い出るように姿を表したのだ。


「ヒッ!ドラゴンだ!逃げろ!」

「撤退だ!すぐに撤退しろ!」


王国軍は指揮官の命令もあって、ほとんどが撤退に成功した。


「ふんっ、ドラゴン如き、我が敵ではない。ドラゴンを倒してそのまま王国まで討ち滅ぼしてみせよう!」


しかし、魔国軍はそうはいかない。

一部の実力者は、撤退した仲間や王国軍を蔑み、ドラゴンに挑もうとしていた。

これは決して傲りや油断ではなく、実際に彼らはドラゴンを倒せるだけの実力があった。


そう、これが普通のドラゴンなら。



魔人族の精鋭が5人がかりで連携して攻撃を仕掛けたことで、ドラゴンは防戦一方で、ダメージこそ与えられていないが討伐は時間の問題だと思われていた。


「いけるぞ!」

「当然だ!俺たちが共闘すれば敵わない相手なんかいるものか!」


魔人族の精鋭達がドラゴンの討伐を確信し、その後へと意識を向けた瞬間だった。


『グゥァァアアアアア!!』


それまで動きのなかったドラゴンが咆哮し、暴れだしたのだ。


これによって魔人族の精鋭達は戦闘不能になり、更にドラゴンのブレスによって魔国軍の一部にも被害が及んだ。



「グレヴィル様、シルヴィア様、アレは危険です!我々が抑えている間にお逃げください!」


グレヴィルの側近であるカールが2人に逃げるよう進言する。

あのドラゴンの危険を身をもって理解した彼は、グレヴィルでも敵わないと判断したのだ。

だが、グレヴィルはカールの忠告を聞き入れることはなかった。


「逃げる?馬鹿なことを言うな。あのトカゲなどこの俺様の敵ではないわ!」

「い、いけません、グレヴィル様!」

「いいから黙ってついてこい!いくぞ!」

「‥分かりました」

「あいつを倒してこの俺が王に相応しいと証明してやる」


グレヴィルがカールの忠告を退けてまでドラゴンと戦うことを選んだ理由がこれだった。

このまま何の成果もなく撤退したのでは自分が王に相応しいと示すことができない。

だが、あのドラゴンを倒せさえすれば、王国と戦争しなくても十分だと考えたからだ。

それに、グレヴィルはドラゴンの王と呼ばれる黄金龍を倒した経験もあり、側近達が揃っていればどんな相手にも負けるはずがないという自信もあった。


「グレヴィル様が来てくださったぞ!」

「グレヴィル様がいれば勝てる!」


グレヴィルに気づいた者の多くは歓喜し、希望を見つけたような表情を浮かべた。

だが、カールなど数人は、グレヴィルでも敵わないと分かっているため顔を青ざめていた。


「いくぞ!うおおぉぉぉぉ!!」


体に炎の魔力を溢れさせ、そのままドラゴンへと突撃する。

圧倒的な威力で防御を許さず一撃で倒すのがグレヴィルの戦闘スタイルだった。

しかし、


「グゥァァア!!!」

「なに!?」


ドラゴンの叫び声でグレヴィルの体に纏っていた炎は消え、勢いをなくしたグレヴィルの攻撃はドラゴンに傷一つ与えることができなかった。


「「「グレヴィル様!」」」


ドラゴンがブレスを放とうとしているのに気づいた3人がグレヴィルを庇う。

この3人はもともとこのドラゴンにグレヴィルが敵わないことに気付いていたので素早く反応できたのだ。

そのままブレスを受けて3人とも跡形もなく消え去った。


「カール!くそっ」


自分を庇った側近が死に、ようやく後悔する。

しかし、側近も失い、自分の力を示すこともできていない今、王になるにはこのドラゴンを倒す他ない。

ここまできたらもう止めることはできなかった。


「俺様は王になるべきなんだ!!」

「グワアァァァァ!!!」


全力を懸けた一撃をドラゴンに向かって放ち‥‥‥


それがグレヴィルの最期になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る