第8話 エルシアの過去
幼い頃から膨大な魔力を持っていた私はみんなから恐れられていた。
両親はこの国の魔王として忙しく、なかなか会うこともできない。
今となっては仕方ないとも思えるが、幼かった頃はとても寂しい思いをした。
私のお父さんは魔国の歴代最強と噂されるほどの実力者で、強者に従う本能をもつ魔人族を統べるにふさわしい立派な王だった。
しかし、そんな両親とも比べ物にならないくらいに私の魔力は高かったのだ。
魔人族が実力主義とはいえ、10歳に満たない子供がこれほどの力を持っているのは不気味だったのだろう。
私に近づいてくる者は皆、怯えた表情をしているか、私を利用しようとしている者ばかりだった。
そして15の頃、両親は魔物の討伐に行ったまま行方不明になった。
両親が負けるような魔物ではなかったし、実際にその魔物の死骸は見つかったが、両親の痕跡は一切見つかることはなかった。
実に不思議な状況だったが、王が不在となるのは拙いということで私が魔王位に就くことになった。
私が魔王になってから数年後、人間の国で私を神敵として認定された。
魔国は実力主義のきらいがあるため、信仰心はそこまで高くはない。
とはいえ、熱心ではなかったが信仰はしていたし、反逆なんて考えたこともなかった。
それからは大変だった。
魔国では私が神敵に認定されたことを知るものは少なく、また、一部の知る者は隠すように動いてくれていたため、あまり混乱は起きなかった。
しかし、人間の国から度々刺客が送られてくるようになったのだ。
刺客は多い時には月に2度も送られてくることがあり、それが何年も何年も続くのだ。
負けるようなことはないが精神的に参ってしまいそうになる。
しかし、神託から1年が経つと、刺客の数も減っていった。
王国で勇者が現れ、その勇者が私を倒すと宣言したことで他の刺客を送る必要がなくなったからみたい。
それくらい王国では勇者は信頼されている。
そんな時だった。
彼と出会ったのは。
その日、侵入者の気配を察した私は大広間で待ち構えることにした。
やってきたのは黒いマントを羽織った金髪の男。
彼は隠しきれない強者のオーラを放っていた。
「あなたも私を倒しにきたのかしら?」
答えは分かっている。この世界で私を殺そうとしない人間なんていない。いないはずだった。
「いや、俺はお前を引き抜きにきた。俺たちの仲間になってもらう」
唖然とする私に彼は語りかけた。
この世界の危機、神の真実を。
「あなたはクロノス神を倒すつもりなの?」
「あぁ」
「あなたにできると思って?」
「もちろんだ。なにせ俺は1人じゃないからな。俺たちの力でクロノスを倒す」
同じく神に裏切られた立場でありながら彼と私は全く違う。私は何もせずに諦めてしまっていた。
だからこそ、神への反逆という行動を起こそうとしている彼、ルドラの姿が眩しく映ったんだろう。
彼の仲間になれば私もあんな風に眩しくなれるだろうか?
「わかったわ。あなたを信じてあげてもいいわよ」
「ほんとうか!」
「ただし!」
体中に魔力を迸らせて挑発するように言う。
「私に協力してほしければ力を示してみなさい」
「‥‥そうすれば仲間になってくれるのか?」
「えぇ。クロノスに勝てると思わせてくれたらね」
「なるほど、その通りだ」
ルドラは笑いながら言うと腰にかけてあった剣を構える。
それを見て私も杖を構えた。
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こうして私はアルテナの一員となった。
この先どうなるかはわからない。
それでもどんな結果であろうと私は後悔しないだろう。
自分の選んだ道を、自分の選んだ人を。
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