時計に纏わる都市伝説

ノリヲ

時計に纏わる都市伝説

 我々は毎日時間を基準に生活を営んでいます。一日に何度も時計を確認し、時計の針を基準に行動します。そんな頻繁に見ている時計、疑問に思った事はありませんか?なぜか時間は12進法で表すのに、分・秒は60進法、1秒以下は10進法になっています。おかしくありませんか?なぜ統一されていないのでしょう?世界中の誰もがほぼ必ず必要とする時計、簡素にするべきですよね?そもそも時間とは人間が考えた単なる概念で、目に見えない時間という力が存在している訳ではなく、物が刻々と変化していく状態を「流れている」と表現しているに過ぎません。だったら1日を10進法の尺度に変える事だって出来るはず、特に近代は正確な時間の計測がありとあらゆる分野で必要になっています、なぜ古くから続く複雑な時間表示をそのまま使い続けるのでしょう・・・。


 今から遠い遥か昔、ある国に一人の天才哲学者がいました。彼は哲学に留まらず数学、天文学、医学、文学等、ありとあらゆる分野を通じて高い理解力を持ち、沢山の国々に名が知られ、沢山の人々から尊敬され、沢山の弟子を持っていました。

 ある日、その哲学者は弟子達と水時計を発明しました。それまで時間は日時計を使って確認していましたが、場所や季節で影の位置が変わり、そもそも曇りや雨の日は使えず日が沈めば終わりです。時間は簡単な目安程度のもので、多くの人々は朝、昼、夜の大雑把な感覚で生活していました。しかし哲学者の作った水時計はとても正確で常に時を刻み続けます。仕組みも複雑で、上の瓶から水を流し下の瓶は常に一定の水圧を確保し、下の瓶から出る一定量の水を水車が受け、水車は歯車を回して針を動かします。針は円盤上を一定の間隔で回転し秒を表します。針が1回転すると円盤に開けられた小窓に数字が表れ分を表示し、分が一周すると時計の天辺に棒が立ち時を表すといった具合。時間はそれまで使っていた12の星座を基準としましたが、秒は哲学者の脈を参考に60を1つの単位とし、分もそれに合わせました。

 哲学者は早速水時計を王様に献上すると共に、時間の概念や重要性を説き、国の発展に寄与を申し出ました。が、王様はそれらが理解できません。目に見えない時間という考え方は宗教的に思え、脈を正確に打ち続ける時計は永遠の不死を得る魔術の様に捉えてしまいました。哲学者の弟子は沢山おり、優秀な者は王宮内でも活躍しています。不死となった哲学者は弟子達と共にこの国を乗っ取る算段ではないかと疑いました。この国が崇める神は1つ、不死は神への冒涜であり不敬の罪だ、王様はそう言って哲学者を処刑し、弟子達を国外へ追放してしまいました。

 弟子達は哲学者を失った悲しみ、追放の屈辱に打ちひしがれ、せめて最後の発明である時計だけは世に広めたい、そう思い隣の国の王を尋ねました。王は時計を献上され、時間の概念をきちんと理解し感激し、弟子達と時計を受け入れました。王は時計を持ち運びが出来る様に小型の物を作らせ軍隊に持たせました、隣国を攻める為です。正確な時計をそれぞれが持っていれば予め決めておいた時間に遠く離れた場所の軍が命令通りに行動できます。軍隊は警戒されない小隊に分かれバラバラに進軍し、決められた時間に一か所へ集まり隣国を攻めました。虚を突かれた隣国は防戦空しく簡単に制圧されてしまいました。戦は多くの人々の命を奪い、国は破壊しつくされました。制圧されたのは弟子達が追放された国、自分たちの肉親が居る国です。弟子達は怒り王に激しく抗議しましたが、疎ましく思った王は弟子達を処刑してしまいました。が、たった一人だけ、大けがを負ったものの何とか逃げて生き延びた弟子が居ました。逃げ延びた先は、とある神を信仰する国の寺院、弟子はその神を祈る為に使ってほしいと時計の設計図を神官に渡し、時計の尺度は私が大切に想う方の象徴、決して変えてはならない、変えたら国までも滅ぼす・・・。そう言い残し弟子は息を引き取りました。とある神を信仰する国では沢山時計を作り、広く一般に普及させました。水場と繋いで瓶が常に水で満たされ人の手を不要にしたり、時と共に鐘を鳴らし人々に規則正しい生活を促し、毎日同じ時刻に神への祈りを捧げるために時計を使いました。

 一方、隣国を攻めた国の王は、時計の針が刻む尺度を自分の脈と同じに変える様、技術者に命令しました。時計とは毎日沢山の人々が見る物、権力を誇示したかったのです。しかし、直後に近くの山が大噴火を起こしました。王は自分の功績を遺す事も無く国と共に滅んでしまいました。


 その後、時計は時代と共に広く世界へ伝わり、形や動力は違えど人々に使われ続けます、同じ時を刻みながら。


 1936年、ドイツのナチス党はベルリンオリンピックの成功に味を占め、ナチス親衛隊を創設し、メディアを駆使して様々な方面でプロパガンダを広め熱狂的な思想を生み出していました。また、戦後賠償と世界恐慌の痛みをユダヤ人に押し付けスケープゴートにする事でアーリア人を賞賛し、ドイツ第三帝国の名の下に侵略戦争を開始しました。

 絶頂を極めたナチスドイツ、今度は国外に根付く判り易いプロパガンダが欲しいとアドルフ・ヒトラーは考えました。するとある音楽家が助言をしてきました、総統の脈拍を基準に複雑な時間の尺度を統一させて普及しては如何か?と。自分の脈拍を毎日世界中の人々が意識する、これ以上のプロパガンダは無い!ヒトラーはこの助言に飛びつき、時間の改正を部下に命じました、あの王の様に・・・。

 その後の経緯は誰もが知るところです、ヒトラーは無残な最期を迎えナチスドイツは崩壊しました。ヒトラーに助言をした音楽家は、改宗して名誉アーリア人となった元ユダヤ人だったそうです・・・、この話、あくまで都市伝説です・・・。

                時計に纏わる都市伝説でした。

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