32-氷と土

外では緊張を孕んだ空気が支配していた。


『中規模の魔獣達は、ウルフの群れとブラッディベアまで居た。』

何故同士討ちしないのか?魔物が異なる魔物と群れをなすことなどあるのか?


何かに狂わされたように走っている。理由は不明だ。


それでも構わない。到達点は、この拠点だ。

ならば、迎え撃つのみ。


兵士も騎士達も、その一点に集中する。


原因や作戦を考えるのは、上の役目だ。

これも役割分担だろう。頭脳労働を避けたいだけではないと思いたい。


「森の切れる部分まで踏み込ませないよう、ここに配置。」

建物になって拠点で、地図を広げ各隊長に指示を出すキース。


シュルトは弓矢の準備に、魔導具の手配など慌ただしい。兵士が行き交うが、スムーズに武器が渡っている。


「ウルフ系を弓矢で減らして行って、問題はブラッディベア?」


「ああ。矢では堅い毛皮で弾かれてしまう。」

ロードが氷魔法で倒したが、兵士達では致命傷を与えるのに苦労する相手だ。


人数で迎え撃つのが戦い方だが、今回ウルフ系の魔物がいるため囲まれれな陣形も崩れる。


西は森が広がり、どこからでも入ってこれる状態。

拠点まで到達されないのが肝心だった。後方へ下がる手段は考えていない。


兵力は十分。布陣に抜かりなければ十分に対処できる魔物の群れの規模。

しかし懸念があった。

「通常の魔物と同程度の力だろうか?」


グスタフの想定では、狂乱している魔物を倒すのに苦労するとみている。

その凶暴性から負傷者も増えると思われた。


しかし、普通の兵士ならだ。


魔法が使えることが大きい。

火魔法を使うキースは最後の最後に取っておきたいが。

ロードとグスタフの魔法、土魔法を扱える2人が揃っていた。



守りの地点ごとに兵士を配置、群れの魔物を減らして。このテント群に入らせない。


シュルトがセリを気にするが配給する立ち位置を離れなられない。

番から離れるのは、不安だろう。暴走しないかの不安も少しあるが…


「狼を置いてきた。早く終わらせる。」

落ち着いた様子に、不安はなかった。ロードはグスタフと共に拠点から出て西の森、その縁へ赴いて行った。



気負いもなく立つ2人は、拠点に接する森を見て回っている。拠点を守るために配置された兵士達とは違う視線にl訝しげに見るも、キースからの指令だろうと見るだけだった。


ロードだけではなく、グスタフがいるのがそう思わせるのだろう。

確かに、ある作戦のために立ち回っていた。


キースの許可もある。


「そう?なら、やっちゃて。」


防壁を作るというロードの案だ。西の森全体を覆う位置に兵士を配置すれば、戦力が分散してしまう。その打開策で、普通なら一蹴する案だ。


『城壁があれば守りやすいが、時間も強度も足りないだろう!』と言われて実現しない筈のものができる。


それが実現できるのは、土魔法の有用性だ。壁の補強に氷魔法もこの環境なら、溶けずに済むだろう。


建築の知識を持つグスタフが、協力を惜しまない。


土魔法の壁だけでは不安な固さを、氷魔法が覆うことでどれだけ耐久性が上がるか?そして、形によっては槍のように攻撃的な装飾も可能だ。


“凄く興味深い”


普段の表情が変わらないが、どうすれば効率が良いか?考えを巡らせながら土台ができた。


西の森から魔物の入る部分を減らす。全て防がず誘導して兵士達が倒せるように組んだ。


壁はシンプルに氷の壁。まずは防御力と強度を見たい。後から城壁武器のように設置するのも有りだ。


多めの魔力が注がれ、城壁が聳え立ち足がかりもない。


馬車が通れるほどの入り口のみ。

そこは、兵士に守らせる。


ブラッディベアでも倒されない強固な壁ができた。


その作りを終え、さっさと拠点に戻る。


愛おしい番を怖がらせないための策だ。

その報告に、足取りは軽かった。

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