38-野営

周辺調査に、採取に出かけるチーム。

拠点の待機組み。


セリは当然のように待機だった。

まあ動きはついて行くのにひと苦労なので、無理は言わないが。


「暇。」


魔導具の使い方を聞いたりしていたが、基本やる事はない。


ロードに乗りながら、見ていた周辺資料も見飽きてしまった。

ちょっと散歩するというのも気が引ける。すぐ近くは森で、拠点を守るのも待機組みの役割りだ。



「釣りでもする?」


シュルトの提案に、頷く。どうせなら何か食べられる物を獲るのも良い。


「魔法でとっちまうか?」

大漁を狙うなら、ロードが言う通りにその方法が一番良い。メンバーの食事量を思い出したセリの心は揺れた。そこに…


「あーそれはやめておいて?」

キースから待ったがかかった。


このメンバーで食べるならいっぱいあっても良いと思うが?魚は苦手なのだろうか。


「他の魔物が来て食べる分があった方が良いって。グスタフが言ってた。」


魔物が食べる物がなければ他を探す可能性と、行動範囲が広がってしまう。それによって生活が脅かされるのは避けたいという話だった。


取り過ぎ注意らしい。


しかし、釣りくらいならとやる事にした。手持ち無沙汰らしかったライリーも参加する。

釣竿の使い方をザイルから習っていると。ちょっと距離がとられた。

ロードの仕業である。


“近過ぎは嫌だ”


だが、セリは気に止めていなかった。意識もしていなければ、ロードの意図も構って欲しいのかな?くらいで、すぐ、餌を付ける方に集中する。


釣果はあったら良いなくらいで、釣り糸を垂れている。その椅子はロードが務め、すっぽりハマったセリの防御力が高く、温かった。


(タブン、釣果はないわネ)

ロードの気配に魚が逃げるんじゃないか?と思われていた。


その他の理由としては獅子の獣人、ライリーがセリを意識しているのを地味に牽制している。川に近い場所とはいえ、余計に寒いだろう。可哀想だが止められない。


セリと模擬戦で戦ってから、気のある素振り。獣人は強い者に惹かれる事も多い。ロードは警戒、いや不満らしが。


セリがそこまで気にしていないからこそ、あの程度なのだ。


強く生きて欲しい。

番持ちの行動としては、大人しい部類だ。今の状態から学んで欲しい。危機察知も大事な能力だ。


番問題に関わる者として。


ザイルという熟練の兵士が側でフォローしているから見守る形になる。

セリも大変な筈だけど、図太いのかしら?興味がない?


糸の先を見つめているが、広がる好意の相関図には興味が…まだないらしい。



日が暮れるまでそんな調子で、魚は五匹。

採取組みの成果も少し添え、処理などすませた。


全員集まっての夕食に鳥肉が加わり、温かい野菜のスープを飲んで。

夜間の見張り担当はもう休む、テントの中へ横になりに行った。



(静かだ。)


冷える夜に、ここが外だと思い出させた。


少し遅くまで起きているのは見張り代わりで。無理のないようにとは言われているが、すぐに寝付ける気はしなかった。

星を眺める。その配置やお話を思い出し、ポツポツロードと話ていた。


そのうちロードと寝る事になり、耳の痛くなるような静寂も怖くはなかった。


“快適空間”


バージョンアップだ。魔導具の使い方を聞いていたが、暖かさは充分あった。その安心感も密着して、もたらされている。


セリは明日やる事を考えながら、思ったよりすんなり眠りについた。

恐怖はない。お腹も満たされ温かい。


『幸せ』


言葉が思い浮かぶ。その感情を逃がさないように、ギュッとロードに縋りつく。当然のように抱きしめられる。


ロードの方が、離せない方なのをはまだ理解していないのだった。

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