第19話 付き人

ガンっ!と荒々しく酒の入ったグラスを置かれた。

騎士、上層部の一部が集まる非公式な会議だ。


『極北の城』で酒盛りは禁止されてはいない

雪に覆われたここで、遊びの場所など公にはないため

憂さ晴らしにも、気分転換にも利用される。酒の備蓄は多い。


酒を飲みながらの会議と名ばかりの名目もある。


「キース様の護衛があの人数でいいのか?」

「竜人ロードがいる」


戦力の面では、大型の魔物が出ても安心

呼んだ客人的な位置の相手に文句はつけられない。


依頼を受けて召喚されている。

番がいるため、拒否されることもあるかもしれないが


ここが危なければ、動いてくれるだろう。

その心配は下火だ。


実際行く地域は、小型の魔物しか発見のない範囲らしいが…


ドンッ!

「我々を蔑ろにしている!!」

騎士の立場として、不満だった。。


シュルト、グスタフも軍の配属ではない

軍の所属はカナン独り、しかも騎士ではない。


「騎士をつけられないのか?」

「十分だと拒否をされている。」


キースに命令できるのは、緊急事の議長権限くらいだ。

“騎士は貴人を守る者”

呼ばれないのは屈辱だと考える者もいる


そもそも、キースの戦力としても大きい。

『僕なら大丈夫なんだけど?』

そう言って、平然と大きな魔法を使う。

伊達に“竜人の対抗戦力”としてここに来ていない

身分的に気にして欲しい立場で、護衛は置いて欲しいのが周囲の意見なので多少考慮はしていると本人は言う。


「あの子供が行くのにか?」

低く唸るような、不機嫌な声が部屋に響いた。

人間の子供への風当たりは強い。


「ひ弱な人間、しかも子供!」

歯痒さを感じ八つ当たりに近かった。


ロードが行くため連れて行くのだと見られてもいる。

番を置いていきたくないという“番持ち”は多い。こんなところまで来る、番持ちはいないので

必然、そんな気持ちはわからない。


“番関係だと、豹変する”

それを知っているため甘い判断、特別扱いだと不満が噴出した。


実際はセリの知識や土地勘にも期待されているが、認めたくないものだ。


「我々より子供を優先させるなど!」

プライドの問題だった。


“我々が重宝されている”と誇示したい気持ちがある

王都に帰れば、その事実で他の派閥より一歩抜き出ることができる。



メンバーの身体能力は高い。

雪や森といったフィールドの経験も多く、

以前、旅に同行したと言う気心の知れた仲と聞く。


「良い手はないか?」



彼らは、派閥に好機だと思い込む。

執拗な行動には、警戒しか生まれないと思うのだが


接点を得られる機会はほぼない。

キース様へ近づく、仕掛けどきと思うのも仕方がなかった。




「よろしいでしょうか?」


図書館で声をかけられる。マナー違反に思えるが、顔見知りなら小声で挨拶、会話もある。

しかし知らない人だ。

にっこりと騎士が微笑む。角と長い髭でヤギの獣人だろうか?


優しい声だが、セリと話したいと


怪しげだ。


「お嬢さんのようなか弱い子どもに、外は危険です!

お辞めになった方が、心配なのです!」

小声だ。配慮というより内緒話。


(心配?)

とても良い人風だが、胡散臭い。



会議の結果、


“絡め手”として

セリに近づく事に。セリが行かないならロードも出ない。


護衛の枠が空く。


「優しく言えば、わかるだろう?」

「子供だからな」


相手は言質を取りたい様子。

(あからさまで、わかりやすい)


少し離れた護衛のカナンは

揉めてない様子に割って入れない。相手が騎士の格好だ。

セリ自身も落ち着いている。

まあ、なめられているのがわかった。


「わたしでは決められません。キース様から許可をお取りください。」


一応、にっこり言い切って、帰った。

構うのも面倒だ。


ポカンとした顔がちょっと面白かった。


「やるじゃん。」とカナンが頭を撫でて

セリを褒めたのだった。

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