第11話 仮市民

“住める権利を得る”


セリの立ち位置は、今はロードの番というオマケだ。

なんならペット枠?と考えているが。

それがどれ程重要な位置にいるか、セリは理解していない。


そんな目下の悩みは、“生活にはお金がかかる”だった。

孤児院で見て覚えた事実だ。


元々、逃げ出すことも考えていたが、くれるものに対して

払える物は出さなければと義理を感じていた。


(おまじないの物を作れば売れるか?)


シュルトに材料を調達してもらい、商売に?

わたしも土産物として売れないだろうか。


情報料としていくらか得たけど、

(・・治療っていくらなの?)

医者にかかったことのないセリには、高いとしかわからない。


ロードに払わせると言う発想がないセリは、

稼げる今のうちに出来るだけ返そうと思っていた。


「ほら、肉も食えよ?」

ロードに世話されるのを受け入れているのを疑問に思わずに。



『極北の城』トップの面々は、揉めていた。

「あの子どもを受け入れるだと?!」


獣人のお偉方は反対する。それに追随する声も聞こえた。


「番として、教育するのが筋では?」

「人間の思想に塗れた子に何をしても無駄だ。」


「機会さえ与えないのか?」

戦中の人間への不信、その子どもの扱い。今は放置に近いが。


監視、追放などの意見に

危険性を説き、危惧や不信感でいっぱいだ。


「事件の解決にひと役買った。」


「子どもの我儘だろう?」

自ら部屋を出て、動いた若者達は今は監視下におかれている。

新兵でもなく、教育しなおされている。更生できるかは本人次第だ。



「捕まえたのは、事実だ。」


竜人ロードと護衛カナンの力を使っても、自分を囮にした。

結果、捕まえた。


食事への毒の犯人は、セリへの疑いもあったが無理であり入手も不可能との証人は多く。身内の犯行に調査は難航した。


誰もができたが、誰がやったのか?


人間の子だけを狙ったと思われたのに、病棟の子供達の食事にも入った毒。弱いながらも、治療を受けている子供には拙い物だ。

幸い、少量口に含んだだけで、「苦い?」で済んだ。


それは結果論。

親や保護者が狼狽える

『今度は誰が?』『もっと強い毒だったら』『食が進まない』

不安だった。



「恩賞を」端的な発言があった。


今回新兵とは言え、軍の者が蛮行を行った。

「騎士として恥じない振る舞いを求める」


部下の愚かな行いとは言え、捕縛に至らなかったのは上に立つ者として不徳の致すところ。

それぞれが集団のトップ達だ。軍に関わり、騎士の矜持を持つ者もいる。


「セリに、ここでの仮市民権を与える。」

エルフの議長が決定したが、全員がその決定に賛成なわけではない。


退屈な議会で様子を見ていた美麗な男は、それぞれの主張を覚えた。

勢力図を描きながら。

(さて、どうすると上手く事を運べるか?)


とりあえず、熱い紅茶を飲もうとさっさと席を立つ。

近づいて来そうな気配を無視して、会議場を出て行った。


「人間の子ども、か。」

それはただの事実で、呟きだったが万感の想いがこもっていた。


セリ個人とは別の事象であっても。

まとわりつく様に、疑心も疑惑も消えなかった。

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