第9話 根回し

カナンは考えていた。

(どーすっかな。)


護衛の任務と言われているが、殆どが監視だ。

竜人にちょっかいかけるバカもいたが、基本、遠巻きに見られるだけ。


おとなしい保護対象者…

(自分から囮になりに行く子が、おとなしいっけ?)


普段、部屋にいる時は本読んだりで穏やかな気性だ。

当初、竜人の番として警戒も。今は落ち着いている。


前を歩く男に、無理矢理?交代させられたのは議長の権限、だ。

この場合、オレは従わないと命令違反になる。


極北の城内で一番の権限を持っている議長からの『命令書』があってはねー。シュルト、ただの商人じゃない。


獣人ばかりのここで商売できているのは、“珍しい”でしかなかった。

薬の融通や御用聞きなんかするヤリ手の商人の貌の他に

(協力者か。)情報収集とか、信用されている訳なー。


(ん?)

思ったより早く目的の部屋に着いたようだ。


「入っていいカシラ?」

部屋の前に守衛はおらず、たどり着いたのは議長の執務室じゃない。


従者らしき男に招かれ、入ると

「面白いことになった?」

美麗な顔の男。声も若いが油断しちゃいけない相手。

王家の血筋にあって、ファント教の“影のトップ”と言われてる。


「キース、アナタが楽しいって、面倒ごとじゃない。」


言葉を交わす2人。

オレは完全に巻き込まれることが決定しているようだ。

バレないように、ため息を吐いた。


「まあ、座って?」


シンプルながら高価な調度品、貴族の家に来たみたいな対応に尻尾が丸まるわ。


「セリは敵国側の砦に居たみたいネ。ここからなら2日くらい、カシラ。」


(あ〜、やっぱただの平民じゃないよねー。)

「そっか。訓練受けてた?」


「そこはグスタフに聞いてもらってるワ。それで…」


セリちゃんの要望、どう動くかの話し合い中。

(オレいる?必要ある?)


「そっちは?」

(あ、話を振らなくていいです。)


「で。君の上司は誰かな?」

オレへの尋問ですかー。


そんなカナンが逃げられない状況だった一方。


グスタフはセリに変わったお茶を見せていた。

葉を紐で束ねある、カップの中で塊のソレにお湯を注いだ。


「花が咲いた!」


『花茶』と言われる、お茶だ。

ハーブティといえば身近なものだが、お湯を注げば葉が広がり花のように見える工芸品。土産物に好まれ、特別感を演出する。


先程、哀しそうだったセリが嬉しそうだ。


「これ、買えるか?」

ロードが買い占めしそうな事を言う。


「土産用に売ってるが、素材を買って作った方が好みじゃないか?」

「作れるの!?」


グスタフの提案に喜ぶセリに、とりあえず落ち着かせるためお茶を飲ませるロード。

さっきまで、不安で哀しそうだった姿は消えている。


(何からも守ってみせる)

その決心を見せず、番を宥めyぅと会話を進める。


「このお茶、何が入ってるんだ?」

「スッとするのと、レモンの香り。」



グスタフの目にも仲良さ気に映る。

この2人が、ここを破壊する事なんて、あるのだろうか?


セリに兵士の訓練を受けている様子はない、人族至上主義の教義に染ってる素振りもない。

これが演技だったら?敵国の間諜と疑っているようだが、


“この年齢の子にさせるほど非道か”

議長が憂いていたが、その事実はないと見て良い。


そうあって欲しいという、願望ではないと思う。

己の目を信じる。


この穏やかな時間を壊したくはない。

それは、誰もが同じだろう。


まだ幼い子には重荷だっただろう秘密。

それが解かれた。後は大人が動く頃合いだ。


部屋にノックの音。


グスタフが扉を開けに行った。



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