第8話 軍属?

「それで、なんの話なんだ?」


のんびりお茶を飲んでいたグスタフだが、状況はわかっていないらしい。


(なんて言われて、シュルトに呼び出されたのだろう?)

ロードに抱きつかれたまま、『何故いるのか?』と直接聞くのは邪険にしているようで、戸惑った。


視線に気づき、端的に

「“話を聞いていれば良い”と。」シュルトの呼び出しで来たらしい。

“話し合いにロードが頭に血が登るようなら止めてくれ”とも言われている。


グスタフなら、黙って話を聞けるし、事実確認とそのツッコミもできる。

専門の話なら流暢で、獣人ではないので特に城での制限もない。

おあつらえ向きの人選だった。


2人きりにするより、止める役を担える冷静なグスタフがいた方が良いという判断だ。シュルト自身は根回しに出かけて行った。カナンを引っ張って。


「護衛も兼ねるわヨ」と護衛役のカナンを連れ出す交代要員でもある。


(身代わり)と思ったセリも間違っていない。


とにかく、ロードにこれまでの暮らしぶりを話した。

敵国の砦に居たことも含めて。


グスタフが出してくれた硬めのクッキーを時折、食べながら。お茶まで淹れてもらった。


お菓子で気まずさを紛らわすセリは、

ロードの様子を見ながら孤児院での暮らしから、そこから砦に連れてこられてからの変化。


そこでの話をした。


ロードは、セリのことを知れる嬉しさと、環境の酷さに

辛そうに聴く。思わず聞いたのは…


「あの装備でか?」

セリが兵だと思わなかったのは、“年齢が幼い”と思い込みもあるが、装備の質が大きい。あんなの狩人だってもっと良い装備だ。


確かに軍で使う色柄だったが、古着で出回ったと思えた。

くたくたで、破れもあり、武器と呼べるものはナイフだけ。

それも、採取用だった。


食糧確保の狩りの道具もなかったし、温める魔道具すらない。支給品は、保存食と危険を知らせる閃光の筒。


「それは、軍属と言えるのか?」

グスタフの率直な疑問だった。


セリは、連れてこられた貴族に“下級兵士だ”と言われたので、そうだと思っていた。


「連れて来られて拒否できない状況だ。未成年で

親、保護者の許可もなし。貴族ではないだろう?」


孤児院育ちなので、頷く。


「そうだな。ひっくるめても、軍で働いていたくらいじゃないか?」

ロードの援護にも、セリには違いがわからない。

「砦にいて命令を聞いてたら、兵士?」


実際は、砦では組織として体裁を整えてあるだけなので、セリからしたらそうなのだ。

なので、兵士である証明の問題になる。


「宣誓とか、訓練はあったか?」

ロードは、儀式や内容を上げた。


宣誓などはなく、食糧調達が訓練?


「砦で下働きしてても、兵士とは言えない。」


考え込む。下級兵士じゃなくて、なんだったんだろう。

(働いていただけでは?)「世話係?」だった?


「メイド、料理番、下働き。兵士じゃなくてもできる事だ。」

2人の説明に、なんとなく納得した。


それに、“誰かの命を奪う可能性”をセリが回避できるよう、周囲が立ち回ってくれたのだ。


寒い日の風呂炊き、怪我人の世話。

森に出かけるのも人を付けて、許可してくれた。


食糧や薬草探しのためで、孤児院で習った事が役に立った。


兵士と言われたので、そうだと思っていたセリだが

その所属はなく、『12歳の子供を兵士にしたくはない』と


誤魔化され、逃げおおせるよう見守っていた大人達が居た。


「あそこに居るのは、下っ端で家族が人質になってるの。食べ物にも困るくらいで命令を聞くしかなし、逃げられない。

進軍も上部の貴族が、気まぐれに命令して、適当に退却してた。」


敵国と言えど、たまの遭遇だ。警戒はあっても、重要視はしていない。


「できれば助けたい。」

セリの気持ちだった。

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