第1話 捕まる

目覚めて見えたのは白い布

それはシーツで、柔かな感触のベッドの上だった。


(夢か?)

頬に伝わる滑らかな布地

感触を堪能しつつ、自分の状態を確認した。隙間風のない室内のようだ。


足は動く。

腕と肩が痛むから、重いものは持てないかな。


拘束されていない事と周りに気配がない事を確認して

ゆっくり起き上がる。


牢?

何もない白い個室は石造りの牢のイメージより、病室を思い起こさせる。

指先まで温まった身体、清められたらしい汚れのなさと簡易な布服。


確実に、自軍の陣営ではない。

帰還していたら、ボロボロ隙間風が吹く部屋で転がされている。

起きたら、がなり声で上官が入ってくる筈だ。


ちらりと扉を見ると、誰か勢いよく入ってくる気配はない。

(この部屋を調べるべき、だろうけど。)


窓ガラスがあって、外は見えないのは曇りガラスというヤツか。

高級品。これは貴族の扱いだろうか?誰かと間違えられている可能性を考える。


あのボロ服で、孤児院育ちの親なしで誰と間違えられるんだろう。

流石に女だとはバレている。


(うーん。わからん。)

怠さと疲労、温かな部屋にベッドに誘われ、その身を預けた。


(ここ、何処なんだろう?)


さっきまで居たのは『サジェスト王国』

人族のみで治められるその国は、周囲の国と長らく戦時中であった。


幼い時から兵として砦に徴収され、生き残ってきたのは

観察と警戒心があったためだ。


それが、ある上司の坊ちゃん貴族が軽率な事をした上、運悪く魔物が飛び込んできた。


移動中、戦闘の予定はなく見回りの小隊。予期せぬ事象に対応できる指揮官がおらず、隊は乱され、散り散りに。


雪の降った地は、足跡をくっきり残して追跡されやすい。

(全員捕まったか?それは考えにくいかも。)


流石に、逃走経路は頭に入っているとして。

緊急の魔法を打ち上げていたのを微かに記憶にあるから、砦の兵が回収に動いているだろう。


自分だけ魔物に近かったせいか、魔物を仕留めた相手に捕まった。


(運が悪い)

あの狼の魔物に攻撃されたのもだが、集団で襲われたわけではなかったから逃げ延びられたと思う。


それなのに、捕まったか。

すぐに出て行くのは無理だ。装備がなければ、凍死する。


この部屋は暖かいけど、外は危険。

情報が必要。


(子供だと思って甘く見てくれないかなあ。)

ウトウトと眠気がやってくる。


怪我を治して、ここの情報を得て、戻らないと。

久々の心地よい眠気に身を任せる。


すぐに命の危険はなさそうだけど、身の振り方には気をつけないと。


捕虜になったらしいひとりの下っ端兵。

セリと呼ばれる12歳の未成年だった。

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