第2話 作戦

ふっと目が覚める。

(誰か来る。)


扉から現れたのは、優しそうな女の人だ。

「起きられましたか。」


犬の耳がついている、獣人だ。


セリのひたいに手が触れる。

「熱は出ていませんね。」

風邪を引いた時に看護してくれた、シスターの手を思い起こさせた。

(ちゃんと、帰らないとな。)


人の手のような形に、ハーフの獣人と言われるヒトなのだろうと推量する。テキパキと診療する姿に、医術を学んだ人と分かった。


国では、女性の医師に会ったことはない。


貴族が“看護のため”と女性が侍る仕事があるけど…

『大人の嗜み』とか樽体型の貴族が言ってた。

「確かに、動くにも辛そうだったから必要かも。」と言ったら、

『子供はわからなくっていい』って兵士のおじさん達が言ってたな。


『わからない方が良い』とも言われたけど。

そういう時はろくなことじゃない。子供扱いで済ませられるのは楽だ。


サジェスト国では、

“人族至上主義“が教義だ。


“魔法を使えて、高貴な人が獣を管理しなければならない。”だそうで、兵士にもそう教えられる。


私の育った孤児院では、獣人の特徴を持つ子が居た。


運動能力が高く、頼りになる子が『要らない獣』とは思えない。


口は閉じていたけど。子供の教育には折檻だと兵士見習いは言われ続けた。


余計な口はきかないが怪我をしない基本だ。見習いから新人兵士になってもそこは変わらない。


ボーッと考えていたら

ギュッと抱きしめられ、女性のクルッとした髪が当たる。もふもふで気持ち良い。


正面に女性の顔が見え、

「わたしは、ナナンというの。お医者さんよ。お名前は言えるかしら?」と優しく聴いてきた。


(警戒心が、なさ過ぎではないかな?)

危ない人間かもしれないのに。


魔法が使えれば、立派に兵力に換算される。まあ。私に攻撃魔法は使えないけど。


「セリ」

名前だけを伝える。


(相手はどう思っているんだろう。)


保護された怪我人と言ったところだろうか。ちゃんと兵の装備を持っていた。あの持ち物で、一般人と思われるんだろうか。


ナイフ、閃光弾、目潰しの薬草。


一般人でいるかも。

幼い子供で通るかもしれない。そう見えるように振る舞う。


そうして、孤児院に帰ろう。

兵士にと連れて行かれてから。一度も戻っていない。


今は、行方不明扱いだろうから

孤児院に寄っても問題ないよね。


迷子で、孤児院に帰ると行ったら簡単に帰してくれるかもしれない。


とても良い作戦に思えた。

なるべく話さない方が幼いかな。


何を話すかシュミレーションを始めたセリだった。

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