回想③

 お母さんはベンチでゆっくり休んでいる。

 急に苦しそうに咳きこむから心配したけれど、どうやら少し落ち着いてきたみたいだ。

 けれど、顔色はまだ血の気が引いたように青白い。

 それでも口元にわずかに笑みを浮かべているのは、幼い私に心配かけまいとする心づかいなのかもしれない。


 神社の境内に立ちつくす私に、萌黄色のセーラー服を着た知らない女の子が声をかけてきた。


「旭ちゃん。私と一緒に遊ぼっか」


 女の子は甘い声でささやくように私を誘う。

 私は不安げにお母さんの顔を見る。

 お母さんは、その人は大丈夫よ、と安心させるような優しい微笑を返してくれた。

 それから、私はその女の子と追いかけっこをした。


「旭ちゃん、待てー」

「きゃははっ」


 幼い私は歓声を上げながら稲荷神社の境内を走り回る。

 まるで生の喜びを歌うように小さな身体を弾ませ、静かな境内に笑い声を響かせて逃げていく。

 相手の女の子もまた、すらりと長い足で地を蹴り、活発な笑顔で幼い私を追いかける。


 ひどくおぼろげで、あいまいな、おとぎ話のような遠い記憶――。

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