回想②

 幼い私が稲荷神社の境内に置かれたブランコで遊んでいる。

 やがて、私は前後に大きく揺れるブランコに満足したのか、地面に降り立った。


 てくてくと駆け出す私。

 勢いそのままに、今度はすべり台に飛びついた。


「おかあさーんっ!」


 私はすべり台のてっぺんに立ち、大きな声で呼びかける。

 お母さんはお堂の近くにあるベンチに腰を下ろし、笑顔で手をふり返してくれた。

 私は満面の笑みを輝かせ、歓声を上げながら勢いよくすべり下りていく。

 砂場に着地し、お母さんをふり返る。

 お母さんはベンチに座ったまま、温かい眼差しを一心に私に注いでくれていた。

 私は大いに満足し、ふたたびすべり台を駆け上がる。


「おかあさーんっ! ……おかあさん?」


 先ほどと同じように、すべり台のてっぺんで手をふり上げる。

 そして、私の小さな手は宙でぴたりと止まった。

 幼い私の目がくりっと丸くなる。

 その視線の先で、お母さんが背を丸め、苦しそうに咳きこんでいた。


 もしかして、外に出て病気が障ったの?

 心配そうに見つめていると、


「大丈夫ですか!?」


 知らない女の子がプリーツスカートをはためかせ、お母さんの元に駆けつける。

 そして、咳きこむお母さんの背中を優しい手でさすり出した。



 お母さん、その女の子はだぁれ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る