第39話 人でなし

 01



「さぁ、四ノ宮。このガキを殺せ、娘を誑かしたガキだ。この世にいても何の役にもならないだろう」





 四ノ宮さんは才蔵に命令をされると、懐から短刀を取り出した。素人のような慣れていない手つきではなく、人を「殺し」慣れている人間の持ち方だった。顔の前に短刀を持ち、俺との距離を測っているときの彼女の目は人殺しの目そのものだ。





「四ノ宮さん! どうしてそんな奴のために!?」





「四ノ宮! 辞めて!」







 冬雪と共に四ノ宮さんに説得を試みるが、一向に表情が変わる気配はない。どうしても戦わないといけないのか……







「さぁ、殺れ! 四ノ宮!」





 才蔵の合図と共に四ノ宮さんは俺に向かって突撃をしてきたと思いきや、才蔵の方へと向かっていった。



「この時を待っていたんです」





 短刀の持ち手に切り替え、四ノ宮さんは才蔵の頭を強く殴った。何が起きたのかさっぱり分からずに俺や冬雪は数秒時が止まっていた。四ノ宮さんが何で殴ったのかを理解出来たのは彼女から事情を聞かされた時だった。





「どうしてだ……四ノ宮」







「私そもそも最初から貴方に従ってませんから。貴方に招集されてからずっといつお嬢様に対する仕打ちの数々を懺悔してもらうか考えてました、まさか今日になるとは思いませんでしたけど」







「私は……許さんぞ。継承戦は四ノ宮に伝わる由緒ある儀式だ……私だけ傷を負わなきゃいけないギリはない! 子供も傷を追うべきなんだ!」







 四ノ宮さんに頭を殴られたのにまだ老いぼれはまだ子供を地獄に叩き落とそうとしていた。俺は拳を握りしめて想いをぶつけようとしたが、先に手を出したのは冬雪だった。







「もうこれ以上喋らないで。私が大好きだったお爺様のイメージが崩れるから……」





 俺が手を出す前に冬雪は才蔵の顔を思いっきり二発殴った。冬雪は精一杯大きな声で、当主にならないことを宣言した。 

 西ノ宮家の現当主は自分がされた仕打ちを子供にも受けてもらうために冬雪を虐めていたのかとわかると、俺は大人という人間が何なのか分からなくなっていた。









 02







 後日談、西ノ宮才蔵は冬雪に殴られたことで堪えたのか継承戦を九十八代目当主として破棄した。今後は一番年上である長女が正当な継承者として西ノ宮家を受け継ぐことが決まった。才蔵は自分が死ぬまでは当主を最後まで務めるらしいが、今後も同じことをやりかねないと四ノ宮さんは判断したのか周りには強面のボディーガードで固められていた。

 そして問題の東雲は自分の口から隠し子であることを冬雪たちに話をし、時間はかかるだろうが家族として馴染もうとしていた。肝心の俺はというと……

 悪い人間から冬雪を守るという仕事は終わり、俺はボディーガードの任期が解かれた。四ノ宮さんは冬雪と付き合っていることをわかっていながらも、無理に学園にいる必要はないと言ってくれた。確かに俺の役目は終わりだ、朱智学園に通わなくても冬雪と会うことが出来る。出来るのだが……俺はどうしたらいいのか分からなかった。冬雪と傍にいたい俺と冬雪がいる学園から離れて、遠距離恋愛をするか。





「俺はこのままメイドを……」

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