第30話 西ノ宮詩織編 結

 01



「うおおおおお!」





 四方八方から俺に目掛けて伸びてくるヒモを交わし、五月の元へ歩みよる。







「くっ、舐めるなぁあああああ!!」





 五月は長い足で俺の顎に蹴りを食らわせようとしたが、即座に交わして相手の腹を勢いよく蹴る。あくまでこれは継承戦、ケンカや殺し合いじゃない。ある程度の手加減は必要だが……冬雪の目の前で恥をかかせられた以上は倍にして返さないと気が済まない。







「さっきまでの威勢はどうした!!」









「その顔で汚い言葉を吐くな! 台無しだろ!!」





 余裕そうな顔をして人の太ももを舌で舐めていた女は冷静さを失って、ヒモを使うのは辞めて拳で殴り合いを始めようとしていた。





「私は……詩織お嬢様が幸せでいてくれたらそれでいい。だからその幸せを壊す奴は例え美少年であっても絶対に許さない!!」







「どの口が……言うんだよ!!」







 拳と拳のぶつかり合い。女だからと舐めていた俺はバカだった、彼女はその辺にいる男よりも力が強くて正直打ち負けてしまうんじゃないかと思う。だけどそういう訳にはいかない、俺にはこの継承戦に勝って冬雪に伝えなきゃいけないことがある。





「アンタに勝って冬雪を助けて、俺は謝らなきゃいけないんだよ!」





 右ストレートが顔面に入り込み、俺はそのまま五月の顔を殴る。彼女は変態だが主人を想う気持ちは同じ、だから負けていられない。これは性別を超えた殴り愛だ!!







「くっ、そん、な……」





 致命傷は避けたが五月は体がボロボロだった。俺も同じように立っているのが限界だったが、体を無理やり再起動させて階段を上がっていく。彼女は俺に冬雪の居場所を告げたあと気絶をした。









 02





「……冬雪!!」







 部屋に入ると、傷だらけのアキが冬雪たちと一緒に俺を待ち構えていた。





「柊木くん!!」







 俺は人の目を気にせずに冬雪に抱きついた。冬雪が痛いと囁いているが、強く強く抱き締めた。





「大丈夫か? 怪我はないか?」







「は、はい……あの大丈夫ですからそろそろ離してください」





 冬雪は俺から目を逸らし、そっと静かに離れた。アキや莉奈はニタニタしながら俺を見ていたが今は気にしない。





「……お姉ちゃんたちの勝ちだよ、継承戦は」







 声がする方向へ顔を向けると、いつの間にか冬雪の傍には詩織が立っていた。詩織は黙って二人の姉の顔を見つめた後、部屋から出ようとしたが俺は引き止める。





「言いたいことがあるなら言うべきだ。姉妹なら尚更な」







「でも……」







 俺はアキに視線を送り、俺たちは部屋を出た。ここから先は姉妹のケンカだ、俺にはどうすることもできない。冬雪たちが話し合い中、ポケットから着信音が鳴り響いた。電話の相手は……師匠だった。







『桜ちゃん、この戦い私たちの勝ちよ』




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